自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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第4章 迷宮都市 ダンジョン攻略

第379話 カマラ・リビエント 1 ヒルダ様に生き写しの少女

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 【カマラ・リビエント】

 私は迷宮都市で、商業ギルドの貴族担当の総括をしております。
 担当部門は多岐に渡り、お客様の要望に応える事が全てと言っても過言ではないでしょう。

 しかし本来の私の業務は商業ギルド職員ではなく、カルドサリ王国内の諜報ちょうほう活動が主でございます。
 情報関係をまとめているマケイラ家当主直轄の下、ハーレイ家には内密に迷宮都市の情報を集める事を任されているのです。

 あの御二方は非常に仲が悪いので、情報が規制されないようにとのおおせでありましたが……。
 冒険者ギルドマスターが娘に代替わりしてからは、特にこの100年近くで問題など起こった事もないのです。

 そもそも数百年前の出来事を、いつまで引きずっていらっしゃるのか……。
 マケイラ家の当主ガリア様はその血筋ゆえ、子供の頃から大変美しい方でありました。
 
 他国の諜報を担う名家では、エルフの中でも一際ひときわ目を容貌ようぼうの者が生まれます。

 本国で武を担う名家であるハーレイ家のカーサ様とは共に学院を卒業してからも仲良くされていましたが、武の出身の者は例外なく面食いであったためここで悲劇が起きてしまいました。

 エルフは外見から性差の判断が難しい種族と言われていますが、同じエルフ同士ならなんとなく相手が男性か女性かは分かるはずなのです。

 だた面食いな武の出身の者は容姿で判断しがちではありました。

 学院を卒業後、数十年。

 ハーレイ家の当主となったカーサ様が、王族より直々にカルドサリ王国行きを命ぜられ諜報活動の責任者としてガリア様を指名なさりました。

 そしてあろうことか、その場で求婚されたのです。
 当時まだエルフにしては若かったガリア様は、大変激怒され衆人観衆の前で求婚をっておしまいに!

 というか……。

「私は男だ!」

 と言って下履きを脱ぎ、男の証を見せられました。

 もう少し上手いやり方があったのではないかと思いますが、親友だと思っていた相手に求婚された事が非常にショックであったのでしょう。

 カーサ様は、その時までガリア様が男性だとは気付いていらっしゃらなかったようで、見せられた証を見て愕然がくぜんとしておられました……。
  
 あれは不幸なすれ違いでございました。
 まま、エルフ同士では度々たびたび起こりうる惨事さんじではありますが……。

 かく言う私にも、過去に似たような経験がございます。
 これはよくあるエルフの笑い話のひとつにすぎません。

 女性もスレンダーな方が多く、身にまとう服も比較的ゆったりとした物を好む種族です。
 学院でも男女の差別なく、全ての授業を受ける事が当たり前でした。

 まぁ態々わざわざ、相手の性別を確認する事はしないでしょう。

 その後、お二方は決別し二度と顔を合わせる事もないと思われました。
 ですが運命は皮肉な事に、同じカルドサリ王国行きをガリア様も命ぜられてしまったのです。

 そこからは、顔を合わす度に皮肉の応酬おうしゅうを交わされ仲違なかたがいは現在も続いたまま。
 正直、もういい加減ガリア様も許して差し上げればよいものを……。
 
 いまだに根に持っていらっしゃるとは、私には理解し難い感情です。
 きっと心の底では、昔のように気兼ねなく付き合いたいのではないかと推測しておりますが……。
 
 内密に私の事を迷宮都市に配置されたのも、友に何かあった時対策を早く立てられるようにとの事だと思っておりますよ。

 本来は大変お優しい方でありますからね。

 そんな二足の草鞋わらじを履きながらの生活をしていたある日の事。
 商業ギルドの受付嬢に、初めて見る貴族出身の方が来られたと呼ばれました。

 商業ギルドでは貴族担当の統括をしているので、初見の貴族は私が担当する事になります。
 迷宮都市は独立採算制を採っているので都市内に貴族街はなく、こられるのはリザルト公爵領に住んでいる貴族の者だけです。

 どこの貴族の者だろうか?
 受付嬢から聞いた話によると、まだ10代の少女1人と少年2人という事でした。

 記憶にある貴族の子女で、魔法学校に行っていない10代の少女は居なかったはずですが……。
 会う前にある程度の爵位を予想しようとしましたが、見当がつきません。

 人間の貴族等、我々エルフにとって無価値の存在ですが、こうして表の顔として商業ギルドで働いている以上は爵位の高い人間を敬う必要があります。
 
 エルフが崇拝するのはハイエルフである王族だけですけどね。

 部屋に入って少女の顔を見た瞬間、心臓が止まるかと思いました。
 そこにはなんと、数百年前この国に嫁がれたヒルダ・エスカレード様そっくりな少女がお見えになったのでございます。

 ヒルダ様は当時のカルドサリ国王の第2王妃として、エルフの国から嫁いでいかれました。
 本国では人族の王に嫁ぐなどと大揉おおもめにめた訳ですが、昔から子に親は勝てないといわれる通り最後には王様も許されたといいます。

 幾つかの冒険者ギルドと商業ギルドのギルドマスターをエルフに交代させる事を嫁ぐ条件とし、私のようにカルドサリ王国内で諜報活動をする者を紛れ込ませました。
 
 幸い国王との仲も良好で、ヒルダ様は幸せに暮らしておられたそうですが……。
 御子を身籠みごもった後、嫉妬深い第1王妃に命を狙われたショックで森に引きこもられたと聞きます。

 それから御子を1人産み、体を壊してそのままお亡くなりになったと伺っておりました。 
 
 その後、産み落とされた御子は消息不明となっています。
 ヒルダ様付きの10名の影衆が、どれだけ森中を探しても見付からなかったとか。

 王命を受け他国に嫁がれるヒルダ様をお守りしていた当時の影衆の当主は、責任を取り当主の座を降りました。
 そして今なお、このカルドサリ王国でヒルダ様の産んだ御子を9名の影衆と共に探していらっしゃるのです。

 前影衆当主のガーグ老。
 現当主の父親でもありますが、その実力は当代一でございました。

 子供の頃からヒルダ様の身辺を警護され、じいじと親しく呼ばれていたと聞いた事があります。
 ガーグ老が生涯を懸けて探していた御子に、こんな場所でお会いする事になるなんて……。

 ハーレイ家のカーサ様もマケイラ家のガリア様も、カルドサリ王国に来られる前の話なので知らないでしょう。

 ヒルダ様が人族の王に嫁がれた話は、エルフ国内では箝口令かんこうれいが敷かれていましたからエルフでも500歳以上の者しか知らない事でございます。

 私は思わずその場にひざまずきそうになるのをなんとかこらえ、商業ギルドの担当者として挨拶をする事に致しました。

 本来王族と相対する時は片膝を突き頭を垂れるため、そのご尊顔そんがんを見る事は叶いません。

 私達エルフは必ず王族の系譜が描かれた肖像画を持っておりますから、ヒルダ様の顔を私も知っていたに過ぎないのです。

 あぁ、ガーグ老。
 貴方が必死になって探していたヒルダ様の御子が、ようやく見付かりましたよ!

 ただ今まで何処どこにいらっしゃったのか、私ごときが尋ねる事は出来ませんが……。

 でも、生きていて下さった。
 
 世界樹の精霊王に感謝の気持ちを捧げます。

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