自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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1巻

1-16

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 道中出てきたゴブリンは、石化魔法のレベル上げに利用しよう。
 兄よ……ついに日の目を見たからといって、解体ナイフを空に掲げないでよ恥ずかしい。
 ミスリルとオリハルコンの切れ味の違いを旭と楽しそうに比べており、外科医二人は妙なところで気が合うようだ。
 前見た時は呆れていたのに、旭も欲しいとか言わないで!
 ゴブリン討伐じゃなくローリエに似た葉の採取にきたんだからね!
 魔物を狩っていたら、森の中で怪我をしている子供を見つけたため、旭に治療をお願いすると、お約束のように水をかけていた。
 ローリエに似た葉の採取を終え冒険者ギルドに戻り、アイテムボックスに収納した魔物も忘れず換金する。
 旭も無事C級冒険者に上がって、一緒に迷宮都市へ行けるようになった。
 ダンジョンに入るにはC級冒険者の資格が必要だからね。
 どうしようかと悩んでいた問題が解決しほっとする。
 この制度を教えてくれたパーティーリーダーのアーサーさんに感謝しよう。
 F級からC級になるため必要な四年間を待たずに済んだのはとても大きいし、兄も親友と一緒にダンジョンを攻略できるので、その分狩りの負担が減るだろう。
 私たちより先に転移しているから、旭のほうが魔物討伐は慣れているはずだ。
 アイテムボックス内には十一年間で狩った魔物を、いつか換金しようと思い全て収納済みだと言っていた。
 その後、独り立ちし宿で暮らし始めた子供たちにも会い、七年が過ぎたことを実感する。
 薬草採取の方法を教えてくれたマーク君は可愛い彼女を紹介してくれたんだけど、彼女の視線が鋭かったのは気のせいかしら?
 その日、午後便の馬車になんとか間に合った私たちは、笑顔の子供たちから見送られてミリオネの町を出る。
 そういえば旭がダンジョン生活していた十一年間で狩った魔物の換金を、すっかり忘れていたと気付いて、あれほど盛大に見送られたのに、またリースナーの町へ戻ってきた。
 ダンジョンで亡くなった冒険者のマジックバッグに旭が倒した魔物を入れて、こっそり解体場のサムおじさんに換金をお願いしたら、大量の素材に感謝された。
 旭が金貨に舞い上がっていたよ! はいはい、落ち着いて。
 一日分予定が変更になったけど別に急ぐわけじゃないので明日の朝、リースナーの町を出発することにした。
 迷宮都市へは馬車で二週間の距離だから、今からお尻が心配で仕方ない。
 この世界の馬車は道が舗装されていないのもあってかなり揺れるため、兄に何度もヒールを掛けてもらう必要がありそうね。
 ダンジョンマスターの役目から解放された旭は、これから経験する冒険者としての活動への期待で胸がいっぱいだろう。
 馬車から見える異世界の景色も楽しみにしているのか、兄へ次々と質問していた。
 仲のいい二人のやり取りを見つつ、私もこれから向かう迷宮都市に思いを馳せる。
 三人パーティーの私たちは見た目が若くそれだけで目立ってしまうから、できれば早くレベルを上げ、家族を召喚してパーティーメンバーを増やしたい。
 今は旭がいるし、兄と二人だった時より、安全に攻略できるだろうけどね。
 それに日本で亡くなった旭と私が異世界にいるのなら、もしかしてあの子に会えるかもしれない。
 旭がダンジョンマスターだったように、異世界のどこかで……



 番外編 



  【ハンフリー公爵の嘆き】

 私はハンフリー公爵の嫡男として生まれ、王都の魔法学校で出会った妻と貴族では非常に珍しく恋愛結婚をした。
 結婚後、間もなく一人娘のリーシャが生まれ、私たちの生活は幸せに満ち溢れていた。
 しかしその幸せは長く続かず、妻が病気を患ってから、幸せに影を落とすことになる。
 たった十一年で結婚生活は終わりを迎えたのだ。 
 最愛の妻であるファイナがこの世を去ってから一年間は悲しみにくれていたが、まだ幼いリーシャがいる。
 父親一人で育て上げるのもこの先満足にはできないだろうと、一人娘のリーシャのため、私は弟から紹介された、子持ちであった未亡人のリンダと再婚した。
 亡くなった妻以外との子供を作る気がなかったこともあり、寝室は別でいいと同意し、同い年の娘もいるから子育ては任せてほしいと言う彼女を信じた。問題ないだろうと判断したのだ。
 愛情はなくリーシャのためだけに再婚したのがよくなかったのか、リンダと再婚して一年後に王都の社交から帰ってきた私は、娘からとんでもない事実を聞かされる。あの時は、目の前が真っ暗になり倒れてしまいそうだった。
 私がいない間、虐待されていただと!? 娘が服を脱いだ瞬間、体が痩せ細り服で隠れている部分が痣だらけになっていたのを見て、怒りで気が狂いそうになる。
 現状を確かめるべく娘が生活していたという三階にある使用人部屋を確認すると、確かにその部屋の洋服ダンスには庶民が着るような子供サイズの服と下着が一着。そして手拭いのようなものが置いてあった。
 娘にこんな服を着せたのかと再び頭に血が上るが、娘付きのメイドから話を聞くまではと堪えた。
 書斎でメイドから話を聞き、納屋の中に監禁していたとわかりはらわたが煮えくり返る。
 三階で生活していた時は、野菜くず入りの冷えたスープとパンだけの食事しか与えられなかったとメイドは泣く。
 十二月の寒いこの時期に暖房もない納屋に、食事はパン二つだけを与えて二日も閉じ込めていたなど正気の沙汰ではない。下手をしたら死んでしまうじゃないか!
 同じ子供を持つ親として、やることが限度を超えている。このままだと娘は殺されてしまうかもしれない。
 娘とメイドを伴い一階のダイニングまでいき再婚相手の女を問い詰めたが、なんと体の痣は娘が自分で付けたものだとぬけぬけと答える。
 すぐに反省して、謝ったのなら追い出すぐらいで許そうかと思っていたが、これではとても温情をかけられん。問答無用で執事とこの一年で交代したメイド四人も屋敷から追い出した。
 その後、リーシャと一緒に食事をしたが、私は自分が情けなく中々楽しい話題を振れず困った。娘が美味しそうに食べてくれたことだけが幸いである。

 その夜、後妻に虐待されていた事実を、娘から告白されるまで気付かなかった自分を責めた。
 今まで領地経営に忙しく、子育てはメイド長や後妻へ任せきりにしていたのだ。
 今思えばリーシャは再婚した頃から口数が減っていたし、顔色もよく見れば悪かったように思う。後妻がどんな人間かわからないのに、リーシャに日々のことを尋ねさえしなかった。
 リーシャの実の母親ではない人間が家へ入り込むのだから、私がもっと気を配るべきだったのだ。
 せめて二人きりの時間を持ちリーシャが話しやすい環境を整えていたら、あれ程ボロボロになるまで後妻から虐待され続けなかっただろうに……
 私は本当に父親失格で娘を可愛がるだけでは駄目だった。これからは親として子育てを積極的に頑張ろう。子供の些細な変化も見落とさないよう、注意しなければいけない。
 そう心に誓って眠りに就いた。

 翌日の朝、娘を起こしにいったメイドから、娘も部屋のものも全てなくなっていると聞かされた時は、何が起こっているのか理解できなかった。この公爵邸内で誘拐や物取りなどできるはずがないのに。そして執事、再婚相手、連れ子の部屋も同様だと言うのだ。
 すぐ門を守っている護衛に確認したが、誰も門を潜ってはいないと言う。
 ハンフリー公爵領内を捜しまわったが娘は何処にも見つからず、王都でも伝手を使い捜させたが発見したという報告はこなかった。
 私の怒りは収まらず、再婚相手を紹介した弟に対し今後一切の援助を打ち切ることにした。
 公爵家の後を継げない弟は伯爵令嬢と結婚していたが、借金があり私が返済をしていたのだ。
 次に再婚相手の実家である侯爵家へ乗り込み、当主であるリンダの父親へ、リンダが私の娘にしたことを教えて貴族籍を剥奪し、ハンフリー公爵領から出ていくよう命令した。
 これから二人は、娘にした仕打ちと同然の生活を送るだろう。一生、庶民として生きるがいい!

 そうして約七年の月日が流れたが、十九歳になる娘の消息はいまだつかめず、毎日祈るような思いで娘が見つかったという報告を待っている。
 妻に先立たれ娘さえも行方不明となり、私の人生は深い闇に覆われており、娘が無事に生きていると信じて待つしかなかった。
 亡き妻よ……最近私は体の調子が悪く、もうこの先長くはないかもしれない。生きて娘に再び会えるまで頑張るつもりでいるが、お前も応援してくれないか。
 最愛の娘リーシャ、どうか不甲斐ない父親である私を許してほしい……


  【リンダ・ハンフリーの声】

 私は侯爵家の三女として生まれ、親に勧められるまま伯爵家の嫡男に嫁いだ。
 今思えば三女だった私に、伯爵夫人の人生は恵まれていたと思う。けれど、同じ魔法学校で知り合った公爵家の嫡男と結婚して今は公爵夫人となった、伯爵令嬢であるファイナとの境遇の違いを妬んでいた。
 公爵家の嫡男は私が密かに片思いをしていた相手だっただけに羨ましく、自分の結婚相手である冴えない夫が煩わしいとさえ思えてしまうのだ。
 もし公爵夫人としてあの人と一緒になれたなら、自分はもっと幸せな生活を送れたに違いない。ドレス一着を新調する度に、いちいち夫の顔色を窺うこともなく宝飾品だって好きに買い、娘もお茶会へ着ていく服がないと泣いたりしないで済んだだろう。
 そんな鬱々とした日々を送る私に、公爵夫人であったファイナが亡くなった知らせが届き、これは公爵へ取り入るチャンスだと私はある計画を実行に移した。
 夫の食事に少量の毒草を混ぜて食べさせ続けると、夫は半年後に亡くなり私は未亡人となった。
 伯爵家は次男が継いだので、私たちは王都にある実家の侯爵邸へ戻り情報を探っていく。
 社交界では未亡人となった私が公爵に接触するのは難しく、公爵の弟と結婚した伯爵夫人のお茶会で、さりげなく公爵と同い年の娘がいることや子供好きであると伝えていった。そして公爵が再婚するつもりだと知り、紹介してもらえないかと頼み込んだ。
 公爵が出した結婚の条件の内、夫婦の寝室は別というのは不満だったけれど、一緒の家に住んでいるのだから、公爵の子を作る機会は幾らでもあるだろうと条件を呑んだ。
 そして私は念願の公爵夫人となり娘は第二公爵令嬢となった。
 もう惨めな思いをする必要はなくなり、夫人として使えるお金が沢山ある。後は跡継ぎを産み幸せになるだけだと思っていたが、事はそう上手く運ばなかった。
 公爵は私の部屋を一度も訪れず、娘のリーシャを溺愛していたからだ。
 私の娘にも、伯爵夫人だった頃より大きな部屋やドレスを与えてくれてはいたが、どう見てもドレスの品質や量が違う。実の娘を優先するのは仕方ないだろうと思い、跡継ぎを産む方を優先しようと公爵へ迫ったが相手にされず、焦りばかりが日に日に募っていった。
 その内ファイナそっくりの娘が原因だと感じるようになり、リーシャが疎ましくなっていった。
 そんな最中、執事から公爵夫人の予算をこれ以上渡せないと言われ、腹立たしい気持ちになる。公爵と寝室を共にしない私は執事やメイド長から軽く見られ、公爵夫人としての振る舞いを咎められるようになり、益々苛立ちが募るばかり。
 これでは、折角公爵と結婚した意味がない。
 私は執事を追い出そうと決め、何度も執事に体を触られたと公爵に泣きながら訴えると、公爵は簡単に話を信じ、新しい執事は信頼できる者にすると約束してくれた。
 私は伯爵邸に住んでいた時の執事の息子を呼び、公爵夫人である私の娘とリーシャの予算を誤魔化すよう指示を出した。
 メイド長は私の部屋から宝石を盗んだ罪を着せて首にし、実家の侯爵家で私付きだったメイドのカリナを呼んだあと、三人のメイドを交代させ自分の味方を増やしていった。
 公爵が不在になった際、私はリーシャを躾と称し何度も棒で叩いた。リーシャ付きのメイドを、首になりたくなければ余計なことは言わない方がよいと脅し、ごめんなさいと泣きわめくリーシャを納屋へ閉じ込め、私に逆らえないよう痛みを与え教え込む。
 リーシャの部屋も服も食事も全て取り上げ自分の娘に与え、代わりに使用人の部屋と庶民が着る粗末な服や食事を与えることで、やっと胸のすく思いがした。もちろん、公爵がいる間は優しい母親を演じ続けた。
 私が公爵夫人となり一年が経った頃、幼いリーシャに味方はおらず、従順で大人しくなった彼女を十六歳になったら嫁がせようと計画していた。そうして私が公爵の寵愛を受け、跡継ぎを産む機会を狙っていたその年の暮れ。
 王都での社交から戻った公爵に、リーシャを虐待していたと暴露される事態が起きる。
 まさかと思いリーシャの顔を見るが、無表情で感情を読み取るのは無理だった。
 どうせ幼い少女だ。いくらでも言い含められるだろうと高を括っていたが、公爵はリーシャの体を確かめ三階の部屋の確認をし、リーシャ付きのメイドから証言も取っていた。
 私たち親子は言い訳することも叶わず、公爵邸から護衛に引きずられ追い出される羽目になった。父親に知られることだけは避けなければならなかった。
 着の身着のまま追い出された私たちにはお金がなかったため、身に着けていた指輪とネックレスを売り当面の資金を作った。そして馬車に乗り伯爵邸へ向かい、伯爵家を継いだ義理の弟へめいの顔を見せにきたと嘘を吐き泊まらせてもらった。

 数日後、父である侯爵に見つかり私たちは貴族籍を剥奪され、庶民として生きるよう言われ、さらにはハンフリー公爵領から追放されると聞き、愕然とした。
 着ている服は没収され、庶民が着るような古着に着替えさせられたあと、四人乗りの町馬車に押し込められ、ハンフリー公爵領から追い出された。
 自分が粗末な格好をしているのが嫌で堪らず、貴族として生きてきた私たちは大変な屈辱を感じ、どうして自分がこんな汚い服を着なければならないのか悔しく思う。
 娘を見ると、表情はなく何を考えているのかわからない。こんなはずではなかった。公爵の子供を産み、家族四人で幸せになる予定だったのに……
 馬車を降ろされ着いた場所は小さな町で、手元には追い出された直後に換金した宝飾品の代金銀貨二十枚があるだけ。宿へ泊まるにも碌な部屋はなく、一泊朝食付き銅貨五枚の宿を見つけ一か月分の宿泊費を払った。
 侯爵令嬢として生まれた私に働いた経験などない。このままだと手持ちのお金はすぐになくなってしまうだろう。娘は私を恨んでいるのか会話しようとせず無言でいる。できれば裕福な商人と再婚したかったが、娘がいるためそれも難しかった。
 それから一か月後、農家に雇われ納屋で生活を始めた。食事はパンが一つと肉の入っていない野菜くずのスープで、それは皮肉にも私がリーシャへ与えた食事内容と同じだった。
 収入はなく毎日畑仕事をする代わりに、納屋に住むのを許された。冒険者登録料は銀貨一枚必要だから、手元にある銀貨五枚は残しておいて、娘には冒険者登録し稼いでもらおう。
 あの時、欲をかかなければ伯爵夫人としての生活を送れていたのに……
 最初の夫を毒殺するのではなかった。それにリーシャがなぜ公爵へ虐待されていると、あれほど用意周到に告白できたのかわからず、私はどこで間違ったのか理解できなかった。
 娘はあれから一度も話さず、目が合えばお前のせいだと言わんばかりに睨みつけてくる。
 一度腹が立ち顔を叩いたら、親の私に向かい容赦なく両頬を叩き返してきたのでそれ以降、娘に干渉するのは止めた。
 自分の娘は、何か恐ろしい者へ変わってしまったようだ。
 公爵家を追い出されてから七年経った今、娘はC級冒険者となり王都のダンジョンに潜っている。
 ダンジョンへ向かってからは音沙汰がなく、娘が今頃どうしているか親子関係が破綻している私には知る術もなかった。


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