ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

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第二部 魔法少女は、ふたつの世界を天秤にかける

第25話 やっぱり一緒がいいね その三

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「もはやこれまで。えーい、ものどもかかれー!!」

 白音たちに追い詰められた斉木が、絵に描いたような悪人のセリフを吐いた。
 それを見た莉美が、(マインドリンクで)時代劇の知識を語り始める。
 ドラマでしか見ないような言葉を生で聞けて、興奮が止まらなくなっている。


「莉美ったらもう……。確かにわたしも、もう言葉が出てこない感じだけど」

 莉美の時代劇知識が、大量に頭の中に流れ込んでくる。
 その造詣の深さに、白音は苦笑した。
 もちろん「ものども」とは言っても、彼らは刀を携えた用心棒などではない。
 ただの議員である。
 それでも彼らは、斉木を守るように前に出た。
 斉木が清き一票ドミネートを発動させているのだ。
 議員たちにしっかり魔法がかかっているいうことは、彼らにも斉木の手下ものどもだという自覚くらいはあるのだろう。

「えーと…………道士?」
「はい」
「何度も申し訳ないんだけど、今からこの人たち動けなくしちゃうから、集魔装置エーテルコレクターの部屋まで運んでくれる?」
「承知しました」

 白音と大魔道のそんなやり取りを聞いた議員たちが、明らかに怖じ気づいた。
 いくら斉木に魔法で命令されようとも、あの地獄のような場所へは行きたくないらしい。
 白音の「ただ決定事項を慕えているだけ」、といった淡々とした態度が、恐怖をさらに助長している。

「いいから、やれっ!」

 斉木がもう一度、清き一票ドミネートに魔力を込めた。
 すると、二十一人の議員たちの目から恐怖の色が消えた。
 なるほど、斉木の魔法は魔力を強めることで、より一層強制力が増すらしい。

「任せて下さい斉木市長」

 議員たちは皆一様に赤ら顔で、焦点の定まらぬ瞳を彷徨わせながら白音たちの前へ進み出た。
 どこぞの山賊か何かのような雰囲気だ。

「佳奈、半分こ」
「おぅけぃ!!」

 そう声を掛け合って、白音と佳奈が並び立つ。
 久しぶりの共闘だった。
 こんなに頼りにできる相棒は、やはり他にはいない。
 白音がそう思って佳奈の方をちらりと見ると、佳奈も白音の方を見てにやりと笑った。

 しかし相手は召喚英雄とは言え、戦闘経験の少なそうな者たちばかり。
 それもクーデター紛いのことをやらかしておいて、何の警戒もなく酒盛りにふけっている。
 元近衛隊長の白音からすれば、あり得ないような体たらくだった。
 白音と佳奈の相手になど、なろうはずもない。
 きっかり五秒後には、議員全員が動けなくなって倒れていた。
 ふたりで十人ずつ、ひとり当たり〇.五秒の計算になる。

「相手が召喚英雄だと気が楽だね。多少酷い怪我させてもすぐ治るし」

 佳奈がそんな感想を漏らした。
 白音が前世、召喚英雄たちに追われていた時とは真逆の感想だった。
 あの時は彼らのことが恐ろしくて仕方がなかったと思う。
 なのに今は白音も、少しくらい力加減を間違っても平気だろう、などと考えながら戦っている。
 ただし見たところ、どうも佳奈が相手をした議員の方が脚を粉砕されていたり、痙攣して泡を吹いていたり、手酷くやられている気がする。
 白音に狙われた議員は綺麗に意識だけを刈り取られていて、少しばかり幸運だったのかもしれない。

 倒れた議員たちは、大魔道が片端からせっせと転移の魔法陣へと放り込んでくれている。
 運び方が雑で、こちらもなかなかに容赦がない。

「ありがとう、道士。さて……」

 白音が、ひとりきりになってしまった斉木に向き直る。

「どうするの?」

 もはや打つ手なしといった様子の斉木は、観念したらしい。

「分かった。俺の負けだ」

と言いながら両手を上げる。
 しかし白音が拘束しようとして近づくと、彼は突然大きな声を張り上げた。

「園山!! 聞こえているだろう。召喚英雄管理用の髪の毛をすべて魔核抑制装置へ投げ込め!! 今すぐだ、急げ!」

 それだけをひと息に言い切ると、斉木はにやりと笑った。
 その顔はなかなかに見物で、人を苛立たせる天才かと思うような出来栄えだった。
 しかし白音たちが動じることは一切なかった。
 全員が、まるで汚物でも見るような目で斉木を見ている。

「わたしたちの髪の毛は、そこにはないから無駄よ?」

 白音が、できるだけ意地悪そうな顔を作ってそう言った。

「それに、園山って人は真っ先に捕らえてあるの。最初に見張りを無力化するのは当然の戦略」

 離れたところから、そらが得意げに付け加える。
 それで白音も、どうやら音で侵入者を察知していたのは園山という人物らしいと知った。
 如何に高性能な探知魔法を持っていようとも、この小さな天才軍師の裏をかくことはそう簡単ではないのだ。

 それを聞いた斉木はがっくりと肩を落とした。
 今度こそ本当に諦めたように見える。
 佳奈が力なく立ち尽くす斉木の胸ぐらを掴むと、当たり前のように吊り上げた。

「うぐぐぅぅぅぅ……」

 斉木の両脚が簡単に宙に浮いて、じたばたともがく。
 佳奈は多分、莉美やそらが酷い目に遭わされたことを相当怒っている。
 そしてその性格からすれば、ふたりを守れなかった自分自身に対しても、苛立っているに違いない。
 白音にしても気持ちはまったく同じだった。
 しかし無抵抗の人間を痛めつけるのは魔法少女としてどうなのかなと、やはり思うのだ。
 そこで白音は、猛獣使いとしての真価を発揮することにした。

「待って佳奈、あんまり痛めつけないで」
「なんでさ?」

 やはり佳奈は、止めた白音に対して少し食ってかかるようにする。

「この人には地下で大事なお仕事が待ってるのよ。あまり弱らせずに元気なままで連れて行かないと、役に立たなくなるわ」
「…………」
「まあ持ってる情報は、洗いざらい喋ってから行ってもらうことになるんだけどね」

 白音も斉木が酷い目に遭うことに、別段同情する気持ちはない。
 ただ、同じ酷い目に遭うなら、せめて人の役に立って欲しいと思うのだ。
 そういう気持ちまでしっかりと伝わったらしく、佳奈がふっと笑った。
 多分「白音のがよっぽどひでぇ」と思っているのだろう。

「そか……。まあ斉木、がんばれよ」

 佳奈は斉木を丁寧に下ろしてから、肩をポンポンと叩いた。

 斉木にももうさすがに打つ手はないようで、割と素直になんでも喋ってくれた。
 彼から「自発的に協力していた者」、「協力的ではないので魔法で従わせていた者」のリストを聞き出していく。
 メモは取らなくても、そらやちびそらが完璧に記憶してくれるので助かる。
 むしろ斉木の方が忘れている名前がありそうなので、それはあとで精査が必要だろう。
 斉木によれば、現在投獄されている議員に取って代わった七十九人の似非えせ議員たちは、ここにいた『斉木の同志のみなかま』ほどの協力関係ではないらしい。
 斉木に盲従する人間を集めただけの人数合わせ、とのことだった。

「そいつらは明日ここへ登城とじょう? 出勤? してくるのよね。人数が多いから、今こちらから動くとばらばらに逃亡されてしまいそう。朝までここで待って、集まったところを全員捕縛しましょうか」

 白音がそう言うと、皆が一斉に頷く。
 一様に少しほっとしたような顔をしているのは、どうにかひと段落付いたからだろう。

「明日は大捕物だね」

 莉美が、なんだか時代がかった言い方をする。
 多分白音が『登城』と言ったせいだろう。
 その頭の中に広がっているのは、江戸城下の町並みあたりだろうか。
 きっと『六尺棒』を持った『下っ引き』たちが、『呼子笛よびこぶえ』を吹いているに違いない。

 聞きたいことをすべて聞き終えると、白音は淡々と斉木を転移魔法陣へ連れて行った。
 おかげさまで、彼はまだ元気だ。
 魔法陣は双方向の移動に使えるものだが、両側から同時に使用することはできない。
 そのため、大魔道が帰ってくるのを魔法陣のすぐ側で待っていると、大魔道が智頭を連れて戻ってきてくれた。
 智頭と斉木はすれ違う際に、ちらりと目を合わせた。
 しかしふたりとも、何も言葉を発することはなかった。
 ただ、斉木の方はすぐにそっぽを向いてしまったのだが、智頭は無言で深々と頭を下げた。
 結果は残念なことになってしまったかもしれない。
 しかし智頭は斉木に対して、少なくともこれまでの協力に感謝をしているのだ。

「ご苦労様、道士。ごめんなさいね、二十人も運ぶの大変だったでしょ?」
「いえいえ、白音様のお望みとあらば、ですよ。見張りの兵士に大人しくしてもらいたかったので、智頭殿にご同行お願いしました。こちらで指揮も執っていただきたいですしね」
「ああ。うん。それもありがとう。ほんと感謝してる」
「………………」

 大魔道が言葉に詰まってしまったので変な間が空いた。

「うごっ。あ、た、たくさん人員を補充できましたので、魔力供給に若干ですが余裕が生まれました。それで智頭殿をお連れできた次第です。さすがに他の方までお連れするのは、厳しいようでしたが」

 そう言いながら大魔道がちらりと莉美を見た。

「これをたったひとりで賄っていた莉美さんの魔力エーテル量には、心の底からの驚愕を禁じ得ません」
「ああ、じゃあまたあたしが手伝おうか?」

 莉美がそう申し出た。
 彼女は今、重傷を負っているアルトルドのために魔力を分け与えていたところだ。
 キリも傍に付き添っているが、どうやらアルトルドの容体が少し落ち着いてきたらしい。

「莉美、あなたの方は大丈夫なの?」

 白音は、さすがに莉美の体が心配になってきた。
 地下のソロライブで莉美のダイブを受け止めたあの時、莉美の体は汗だくでかなりの熱を持っていた。
 それが魔力供給のせいなのか、ライブパフォーマンスのせいなのかは知らない。
 けれどさすがの莉美にとっても、街ひとつ分の魔力供給がそんなに簡単なことだったとは思えない。
 それを気軽に散歩にでも行くような調子で、またやろうかと言う。
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