ドリフトシンドローム~魔法少女は世界をはみ出す~【第二部】

音無やんぐ

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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る

第5話 朝はカフェメイド、午後はしごかれる その三

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 そらがミスリルゴーレムの鑑定を終えて退避したのを確認して、佳奈が反撃を開始する。

 隙を見ていろんなところにパンチを当てていく。
 多分弱点を探るためにやっているのだろう。
 巨体の上に凄まじい速さで動くゴーレムに臆することなく向かっていくのもすごいと思うが、多分今の佳奈は戦闘力そのものにおいて敵を上回っていた。

 ただ、ミスリルゴーレムは防御力が高すぎて、さしもの佳奈でもダメージを与えられてはいなかった。
 巨体がよろめいたり、のけぞったりするような強烈な打撃を与えているのだが、傷ひとつ付いていない。

「手の方が痛いってば……」

 佳奈の手がだんだん赤くなっていくのが分かる。
 白音も試しに佳奈と連携して光の剣イセリアルブレードで切りつけてみたのだが、斬撃まで反射されてきてびっくりした。
 拳に魔力を乗せた佳奈の攻撃は食らうのに、魔力そのものでできた武器は反射できるようだった。

 ゴーレムの事はちゃんと知っていたのに、そんな大事な知識だけが無かったのは如何なものかと抗議したい気持ちになる。
 しかしそれは、いったい誰に言えば受け付けてくれるのか。
 ともかくそれ以後白音は蹴っている。
 佳奈の真似は手が痛すぎてとてもできない。

 そらが突破口を見つけてくれるまで時間を稼ぐつもりでいたが、鑑定の結果を踏まえて、ほとんど待つ間もなくすぐに作戦を立ててくれた。
 そらには固有の魔法ユニークとして精神連携マインドリンクと呼ぶものがある。
 様態としてはテレパシーに近く、声を出さずにお互いの意思を脳に直接伝えることができる。
 その魔法で、作戦を三人に伝えてくれる。

[白音ちゃん、背中から思いっきり蹴飛ばして佳奈ちゃんの方にゴーレムを吹っ飛ばして]
[ちょ……、わたし佳奈みたいな馬鹿力ないよ?]
[私が補助する]

 白音の力で強化されていると、やはり精神連携マインドリンクも大幅に強化されている。
 本来は一対一でしか使えない魔法なのだが、能力強化リーパーがあれば複数の対象と同時にリンクさせることができる。
 事前にテストをして確認済みだった。
 そしてより速く、より大量の情報が伝達できるようになった結果、さらに…………。

 佳奈と白音の脳内にゴーレムの打つべきポイントが伝達された。
 眼の中に照準装置があるみたいに赤い点で示されている。
 いきなりやられると若干気持ち悪い。

 それは重心やバランスなどを考慮し、最も効果が上がるとそらが計算したポイントだ。

[そこを打って、なの]
[了解そらちゃん。みんなっ! 行くよっ!!]

 莉美がゴーレムの足下にビームを何発も放って牽制する。
 強力なビームが地面をえぐり、砂塵を舞いあげ、ゴーレムの動きを一瞬止めた。
 その隙に白音とそらが背後に回り込む。
 そして白音が流麗な動きで芸術的なハイキックを放ち、その隣でそらが不器用そうにゴーレムを殴りつける。

 そらのパンチも下手くそだが身体能力は強化され、魔力を乗せているのでそれなりに威力はある。
 精神連携マインドリンクを使うとタイミングの調整も完璧だ。
 手は痛いのだが。

[あらそらちゃん、そんな乱暴なことして]

 そらの不格好さが、白音にはちょっとおかしかった。

 ふたりの威力の差も計算して打撃点が示されていたのだろう。
 かわいいパンチの威力が効果的に上乗せされて、なんとかゴーレムが前に飛んだ。


「…………とにかく拳を固く、固く。痛みも減って、威力も上がって一石二鳥」

 佳奈が魔力を拳に集中させているのが分かる。

「レッドインパクトォォッ!!」

 交通事故のような大きな衝撃音がして、飛んできたゴーレムが打ち返された。
 慌てて避ける白音とそらの間を巨大な金属の塊がすっ飛んでいく。

「そんな名前の技だったんだ」

 あまりの威力に、白音がちょっと呆れてそう言った。

「いや、なんか叫んだ方が力入る気がして」

 佳奈の全力の拳打レッドインパクトがまともに入った。
 白音はこれで決まったと思ったのだが、それでもゴーレムはゆらりと起き上がった。
 ただ、腹部のど真ん中に大きなひび割れができている。

[莉美ちゃん、あそこ。撃ち抜いて]
「りょーかいっ!」

 莉美が指先から発射した魔力ビームが傷口に命中すると、強烈な光と熱を発してゴーレムを溶かし始めた。
 白音が先程実感させられたとおり、ものすごいエネルギー量だと思う。

 魔力を収束させて放出するだけのシンプルな技なので、魔法としては基礎魔法プライマルに属する。
 魔法少女であれば似たようなことは誰でもできるだろう。
 しかし魔力が高いと言われた白音や佳奈が全力で撃っても、そんな威力は出せない。
 莉美の体内魔素オドの総量はいったいどうなっているんだろうかと疑問に思うほどだ。

 やがてミスリルの体を溶かし進んだビームが背後まで貫通すると、ゴーレムは動きを止め、地響きと共に倒れた。
 四人の魔法少女たちは息を切らし、ぺたりと地面に座り込むと、誰からともなく笑いが起こった。
 敵が強く、下手をすれば命を落とすことにもなりかねない危険な戦いに緊張したし、恐怖も感じていた。
 しかし終わってみれば充実した達成感があって、頼りになる仲間の顔を見て、笑い合えたのだ。

「そら、今度パンチの打ち方教えてやるよ」
「ん、よろしく佳奈ちゃん。白音ちゃんにはキックのやり方、教えて欲しい」
「いいわよ」
「じゃあじゃあ、あたしはビームの撃ち方教えたげる」
「莉美ちゃん、あんなの撃ったら私、魔力がもたない」
「えー、そう? 何か食べたらすぐ戻るよ?」
「それ、莉美だけよ。おかしいのよ、ちょっと」

 何か食べたらすぐ戻る、というのは初耳だ。白音の疑問がまた増えた。

『鬼軍曹』と名乗る魔法少女は、白音たちの方へと向かいながら呆れていた。
 魔法少女になりたての者は、初戦で恐怖に心が折れて二度と戦わなくなる子もいる。
 そういう子たちはすぐに戦いから遠ざけて保護対象として見守らなければならない。
 厳しい訓練にはそれを峻別するための意図もある。
 白音たちは身も心もタフだと判断した上でのいきなりの実戦訓練だったのだが、想定外の強敵を見事な連携で倒してみせた上で、しかも笑い合っている。

 だが軍曹には、先に言っておかなければならないことがある。

「すまなかった。お前たち」

 鬼軍曹が深々と頭を下げた。
 ミスリルゴーレムはやはり想定外の強敵だったと認めた。
 そのような事態に備えて軍曹が待機していたのだが、白音たちの動きを見ていて、期待の方が勝って訓練を続行してしまった。
 本来ならば訓練を中止して、白音たちの安全確保を優先すべきだったと謝罪した。

「いやいや、結局鬼軍曹さんの目が正しかったってことだろ? 止められてたら嫌だったよな、白音?」
「ほんとにね」

 佳奈の言うとおりだと思う。
 止められていたら、白音はきっと逃げ出していただろう。そしてそのことを後悔したに違いない。
 佳奈と鬼軍曹のおかげで、逃げずにすんだのだ。

 そして鬼軍曹は、ミスリルゴーレムとの戦闘の講評をしてくれた。
 実際簡単に勝てるような相手と戦うより、ミスリルゴーレムのような厳しい敵を相手にした方が得たものは大きかったはずだ。

 今回の戦闘は魔法少女としての戦闘能力の判定も兼ねていたらしく、白音たちはA級という認定を受けた。
 ただしその評価はチームとしての連携能力を加味しているとのことだった。
 本物のA級ならひとりでもミスリルゴーレムを倒せる、らしい。

 個人個人はまだまだ心構えがなっておらず、危険に対する認識が甘い。油断が多い。と謝罪の時以外は大変に辛口な軍曹だった。

「ただし名字川白音、お前は既に戦場に立つ資格があるようだな」

 鬼軍曹は講評の最後にひと言、そう付け加えた。

「はぁ…………、良く分からないですけど」

 白音としては(いや佳奈の方がゴリラだし)と思わなくもない。
 しかし佳奈には軍曹の言わんとしていることがなんとなく理解できた。
 いろいろとダメだしをされて軽くむかついていたのだが、そこは同意できる。

 本人はあまりピンときていないらしいが、確かに白音には戦闘に関して一切の甘さがない。隙がないのだ。
 頼れる相棒だと思うし、敵に回したらこんなに怖い奴もいないと思う。
 魔法少女としての活動歴が長い佳奈よりも、よほど戦場慣れしている感があった。


「はーい、しつもーん」

 莉美がさっと手を上げた。みんな嫌な予感がする。

「言ってみろ、大空」
「軍曹ちゃんは鬼クラス?」
「ちゃん…………。それはクラスではないな。俺はSSだ。Aの上がS、そしてその上と判定された者がSS級となる」

 白音も怖いけど、やっぱ鬼軍曹こえぇ、と佳奈は内心思った。

「SS鬼?」

 そして莉美もこえぇ。なんてこと聞きやがるんだと思う。

「フハハハハ。そうだな、大空。貴様にとってはそうなるだろうな」
「やん」


 クラス分けはギルドのルールで定められたものだった。
 佳奈も含めて皆よく知らなかったので、軍曹が説明してくれた。

 クラスは下からC、B、A、S、SSとあり、それは純粋に戦闘能力のみで判定されたものらしい。
 もちろん戦闘以外の能力も重要なのだが、危険な任務での適正な人員配置を目的としたクラス分けとなっている。
 いくら有用な能力を持っていたとしても、C未満の判定を受けた者は戦闘には参加させないのがギルドの決まりである。


 ちなみに、と去り際に軍曹がしれっと教えてくれた。
 ミスリルゴーレムの体から回収できる『ミスリル』と呼ばれる金属は、常温超伝導素材の原料になるらしい。
 これにはそらが珍しく「えっ?!」と大きな声を出した。
 白音にも具体的ではないがその価値は想像がつく。
 異世界事案は、どうやらとんでもないものをもたらすことがあるらしい。

 だが残念ながら、佳奈と莉美にはいまいちその価値のすごさが伝わってはいない。
 ふたりともほぼ無表情でそのやり取りを聞いている。

「高額で取引される素材だから我々が回収して、貴様らの口座に売却益を振り込んでおこう。もちろん訓練とは言えギルドからの正式な任務だからな、討伐報酬も出るぞ」

 おおよその予想される金額を軍曹から聞いて、佳奈と莉美も「えっ?!」と言った。
 ようやく四人で驚きを共有できた。
 白音はちょっと満足した。
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