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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第13話 魔法少女のお泊まり会(パジャマパーティ) その二
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魔法少女たちが狙われているのかもしれなかった。
白音たちはそんな彼女たちをしっかりと警護しなければならない。
そのために五人でアジトに集合しているのだ
しかしそれはそれとして、どうしても白音は少しわくわくしてしまう。
皆でしばらくの間、合宿のような事をするのが楽しみなのだ。
少し不謹慎なのかも知れないが、こういう感覚は久しく味わっていなかったと思う。
ちびマフィアの頃以来の感覚だろうか。他の四人も皆似たような気持ちでいるようだった。
晩ご飯は白音が中心になってカレーを作ることになった。
白音は布団と一緒に寸胴鍋などの調理器具も若葉学園から借りて持ってきている。
もっとも、一恵がいなければこんなに大量の荷物はとても持ってこられなかっただろう。
「五人分とか大変でしょ、大丈夫?」
長年一人暮らしをしている一恵には未知の量の食材が、どんどんカットされて鍋に投入されていく。
「そうねぇ。いつもより少なめに作らなきゃねー」
「そ、そう……」
白音にすれば「男の子がいないからあんまりたくさん作ったら余っちゃう」くらいの感覚である。
それに積極的に手伝ってくれる人手が四人分あるので、むしろいつもより楽ができるくらいだ。
そら以外は皆それなりに料理のスキルがあるようで、そのことにそらはショックを受けているようだった。
特に佳奈の手腕が意外だったようで、さっきから彼女の様子をじっと見ている。
「おお、どしたそら。教えてやろっか?」
「……………………」
「な、何だよ? あんま見られると恥ずかしいじゃん」
ヤヌルベーカリーの惣菜パンの具材を毎日作っているのは佳奈なのである。この中で一番手際がいいかもしれない。
「大人の階段にはいろんな段がある…………今日の段はカレー色なの」
「そ、そうか。よく分かんないけど、まあがんばれ」
そのカレーは抜群においしかった。
白音はたいした工夫はしていない普通のカレーだよ、と言ったが、皆は白音が作ったからおいしいんだと口々に言う。
「いやいや。みんなで一緒に作って、食べてるからおいしいんだよ」
と白音が言ったら突然、一恵がポロポロと涙を流し始めた。
「あ、いや、一恵ちゃん。どうしたの、大丈夫?」
「ん? なんのこと?」
一恵以外の四人は慌てた。
しかし当人は指摘されるまで、自分が泣いていることに気づいていなかったようだ。
「カレーがあんまりおいしかったから感動しちゃって。驚かせてゴメンネ」
一恵はそう言って取り繕い、涙を拭いていたが、他ならぬ自分自身がそんな風に泣いていた事に動揺していた。
(わたし、本当に寂しいのかもしれない……)
かしましい夕食を終えて、白音が後片付けを始めようとしたら、みんなに押しとどめられた。
白音ちゃんは休んでていいからと言われるのだが、自分を置いてみんなで洗い物をしていると思うとなんだかそわそわする。
台所の方をチラチラと見ていると、それを目ざとく見つけた莉美がそらに重要な任務を与えて派遣する。
「働いてないと落ち着かないとか、過労死するよ? そらちゃんと一緒にテレビでも見てて」
白音は傍に来たそらを捕まえて膝の上に載せる。
落ち着いた。
白音もそらも、心地よくてそのまま少しうたた寝に落ちていた。
白音は、何かぷにぷにしていて抱き心地のいい生き物を拾った夢を見た。
そらの方は、ついに理想のプロポーションを手に入れた夢だった。
莉美が紅茶を淹れてきてくれたのでふたりとも目が覚めた。動物をかたどったクッキーが添えられている。
少し寛ぐ時間を持った後、今回の警護任務について五人で話し合いを始めた。
「通信記録とか目撃証言をすり合わせていくと、みんな消息を絶っているのは夜中なの。昼間には検証した限りでは発生していない。もしこれが連続的な魔法少女狩りだったと仮定したら、犯人は夜に活動していると思う」
そんなに時間もなかったと思うが、既にそらはそこまで絞り込んでいるようだった。
「夜に警戒待機ね」
白音はやはりお泊まり会をして良かったと思った。
夜中に招集がかかってばらばらでいたら、それだけでかなりの時間をロスしてしまうだろう。
「任せた。何かあったら起こして」
佳奈が真っ先に万歳をして『お手上げ』のポーズをしているが、白音だって寝ずの番をする気はない。
「ずっと徹夜じゃもたないから、通報待ちで寝るけどね。すぐに出られる準備をしておく感じね」
「ま、魔法少女をさらって、どんなことするんだろ?」
一恵が変な言い方をするから、答えがひとつしかないような気がしてきた。
事件性がなく、偶然が重なっているだけという可能性も否定はできないのだが、チーム白音の任務は襲撃が実際に起こっていると仮定して動くことだ。
それぞれの件に別々の犯人がいるとはさすがに考えにくいから、もし事件であるならばそれは同一の犯人によるものと考えてよさそうだ。
「狩りとは言っても、実際には何が行われているのか分からないよね」
狩りという言葉を使ってしまったのは白音自身なのだが、犯人の目的がなんなのかによって魔法少女たちに及ぶ危険度が変わってくるはずだ。
実際現場に臨んだ時の警護方法もそれに応じて柔軟にしていくべきだろう。
「言いにくいんだけど、殺されているのか、さらわれているのか、それだけでもかなり違う。ただ……、」
少しそらが逡巡した。
「ただ?」
「どうやって魔法少女の居場所を調べているのか、は考えるべき」
確かに魔法少女ギルドのメンバーである白音たちですら、居場所まで知っている魔法少女の数はごく僅かである。
そこに、いい事思いついたという顔をして莉美が手を上げる。
「魔法少女探知レーダーみたいなのが、」
「ない」
「最後まで言わせてよ!」
そらがにべもない。
「まず行方不明なのは魔法少女ギルドのメンバーだけなのか、未登録者もいなくなっているのか、なの」
「未登録者で、ギルドの方で確認ができた人の中には行方不明者はいないって言ってたわ。連絡が取れないのはギルドメンバーだけだって」
白音もその辺りは少し気になっていたので、昼間リンクスに確認していた。
「何者かに襲われているのなら、犯人はギルドの登録情報を使っているように私には思えるの」
「そうね。残念だけどそらちゃんの言うとおりね」
白音もそらの意見に同意する。
しかしもしそうなら、自分たちが襲われてもおかしくはないだろう。
今この場所も安全ではないかもしれない。
「情報が漏れてるのかな?」
「漏れてるのか、それともそもそも内部の者の仕業かもしれないの」
「そっか、ギルドメンバーなら所在情報を手に入れるのもそんなに難しくない、と。考えたくないわね」
「内部だとしたら、ギルドかブルーム、あるいは内部情報に触れられる魔法少女」
そらはあえて感情の入る余地が無いように淡々と可能性を列挙する。
予測は、時に残酷な仮定を必要とするからだ。
「情報が外に漏れてるのだとしたら、そらちゃんはどう考える?」
「情報を手に入れられそうなのは政府関係。いまいち組織関係が分からないんだけど、外事特課ってところが全部仕切ってるのか、もっと上があるのか……」
佳奈がスマホのカードポケットに入れっぱなしになっていた名刺を取り出す。
「この人か? 外事特課課長補佐宮内寛次」
「疑ってみる価値はあるわね。あとはPMCね、白音ちゃん。根来衆。政府と繋がりが深いとかいう」
一恵が白檀の香りの巫女少女の事を思い出しながら指摘した。
「おお、お遣いのミコとかいういけ好かない奴のいるとこね。怪しい。犯人あいつじゃん。決定」
佳奈が指をパキパキと鳴らして、今にも殴り込みに行きたそうにする。
「確かに金髪の男の死体を回収してた。それが必要なのだとしたら、他にも集めている可能性はある」
そらが佳奈の意見に賛成票を投じる。
「そしてとうとう、自分たちで死体を用意し始めましたってね」
佳奈はわかりやすくターゲットを示して欲しいんだろうと白音は思う。
そうすれば多分、解き放たれた矢のように飛んで行くだろう。
「いやいや佳奈。そらちゃんが言ってるのはあくまで可能性の話よ? 可能性はあるけど決めつけちゃダメ。証拠なんてないし。思い込みは判断を硬直させるわ」
「ぬぅ…………」
莉美が突然、ペンギンのクッキーをくわえながらばっと立ち上がった。
「犯人はこの中にいる!」
両手を腰に当ててキメ顔をしている。
(この中ってどの中?)と思ったが、まあ多分会話に出てきた人たちの中という意味なのだろうと、親切なチーム白音の皆さんが勝手に補足して理解する。
「いやまあそうだろ。異世界事案の関係者ほぼすべて出たしなぁ。この中にいなきゃ、どこにいるんだよって感じ?」
佳奈が正しい。
「この中!!」
めげずに莉美が再びビシッとキメ顔をしてみせる。言いたいだけだろう。
「はいはい、そろそろお風呂にしましょうか」
「んだね。犯人は捕まえれば分かるさ」
「はーい!」
ぱっと切り替えた莉美が、とてもいい声で返事をする。
この息の合ったトリオ漫才をいずれ五人組にしたいと、そらと一恵は考えているのだ。
白音たちはそんな彼女たちをしっかりと警護しなければならない。
そのために五人でアジトに集合しているのだ
しかしそれはそれとして、どうしても白音は少しわくわくしてしまう。
皆でしばらくの間、合宿のような事をするのが楽しみなのだ。
少し不謹慎なのかも知れないが、こういう感覚は久しく味わっていなかったと思う。
ちびマフィアの頃以来の感覚だろうか。他の四人も皆似たような気持ちでいるようだった。
晩ご飯は白音が中心になってカレーを作ることになった。
白音は布団と一緒に寸胴鍋などの調理器具も若葉学園から借りて持ってきている。
もっとも、一恵がいなければこんなに大量の荷物はとても持ってこられなかっただろう。
「五人分とか大変でしょ、大丈夫?」
長年一人暮らしをしている一恵には未知の量の食材が、どんどんカットされて鍋に投入されていく。
「そうねぇ。いつもより少なめに作らなきゃねー」
「そ、そう……」
白音にすれば「男の子がいないからあんまりたくさん作ったら余っちゃう」くらいの感覚である。
それに積極的に手伝ってくれる人手が四人分あるので、むしろいつもより楽ができるくらいだ。
そら以外は皆それなりに料理のスキルがあるようで、そのことにそらはショックを受けているようだった。
特に佳奈の手腕が意外だったようで、さっきから彼女の様子をじっと見ている。
「おお、どしたそら。教えてやろっか?」
「……………………」
「な、何だよ? あんま見られると恥ずかしいじゃん」
ヤヌルベーカリーの惣菜パンの具材を毎日作っているのは佳奈なのである。この中で一番手際がいいかもしれない。
「大人の階段にはいろんな段がある…………今日の段はカレー色なの」
「そ、そうか。よく分かんないけど、まあがんばれ」
そのカレーは抜群においしかった。
白音はたいした工夫はしていない普通のカレーだよ、と言ったが、皆は白音が作ったからおいしいんだと口々に言う。
「いやいや。みんなで一緒に作って、食べてるからおいしいんだよ」
と白音が言ったら突然、一恵がポロポロと涙を流し始めた。
「あ、いや、一恵ちゃん。どうしたの、大丈夫?」
「ん? なんのこと?」
一恵以外の四人は慌てた。
しかし当人は指摘されるまで、自分が泣いていることに気づいていなかったようだ。
「カレーがあんまりおいしかったから感動しちゃって。驚かせてゴメンネ」
一恵はそう言って取り繕い、涙を拭いていたが、他ならぬ自分自身がそんな風に泣いていた事に動揺していた。
(わたし、本当に寂しいのかもしれない……)
かしましい夕食を終えて、白音が後片付けを始めようとしたら、みんなに押しとどめられた。
白音ちゃんは休んでていいからと言われるのだが、自分を置いてみんなで洗い物をしていると思うとなんだかそわそわする。
台所の方をチラチラと見ていると、それを目ざとく見つけた莉美がそらに重要な任務を与えて派遣する。
「働いてないと落ち着かないとか、過労死するよ? そらちゃんと一緒にテレビでも見てて」
白音は傍に来たそらを捕まえて膝の上に載せる。
落ち着いた。
白音もそらも、心地よくてそのまま少しうたた寝に落ちていた。
白音は、何かぷにぷにしていて抱き心地のいい生き物を拾った夢を見た。
そらの方は、ついに理想のプロポーションを手に入れた夢だった。
莉美が紅茶を淹れてきてくれたのでふたりとも目が覚めた。動物をかたどったクッキーが添えられている。
少し寛ぐ時間を持った後、今回の警護任務について五人で話し合いを始めた。
「通信記録とか目撃証言をすり合わせていくと、みんな消息を絶っているのは夜中なの。昼間には検証した限りでは発生していない。もしこれが連続的な魔法少女狩りだったと仮定したら、犯人は夜に活動していると思う」
そんなに時間もなかったと思うが、既にそらはそこまで絞り込んでいるようだった。
「夜に警戒待機ね」
白音はやはりお泊まり会をして良かったと思った。
夜中に招集がかかってばらばらでいたら、それだけでかなりの時間をロスしてしまうだろう。
「任せた。何かあったら起こして」
佳奈が真っ先に万歳をして『お手上げ』のポーズをしているが、白音だって寝ずの番をする気はない。
「ずっと徹夜じゃもたないから、通報待ちで寝るけどね。すぐに出られる準備をしておく感じね」
「ま、魔法少女をさらって、どんなことするんだろ?」
一恵が変な言い方をするから、答えがひとつしかないような気がしてきた。
事件性がなく、偶然が重なっているだけという可能性も否定はできないのだが、チーム白音の任務は襲撃が実際に起こっていると仮定して動くことだ。
それぞれの件に別々の犯人がいるとはさすがに考えにくいから、もし事件であるならばそれは同一の犯人によるものと考えてよさそうだ。
「狩りとは言っても、実際には何が行われているのか分からないよね」
狩りという言葉を使ってしまったのは白音自身なのだが、犯人の目的がなんなのかによって魔法少女たちに及ぶ危険度が変わってくるはずだ。
実際現場に臨んだ時の警護方法もそれに応じて柔軟にしていくべきだろう。
「言いにくいんだけど、殺されているのか、さらわれているのか、それだけでもかなり違う。ただ……、」
少しそらが逡巡した。
「ただ?」
「どうやって魔法少女の居場所を調べているのか、は考えるべき」
確かに魔法少女ギルドのメンバーである白音たちですら、居場所まで知っている魔法少女の数はごく僅かである。
そこに、いい事思いついたという顔をして莉美が手を上げる。
「魔法少女探知レーダーみたいなのが、」
「ない」
「最後まで言わせてよ!」
そらがにべもない。
「まず行方不明なのは魔法少女ギルドのメンバーだけなのか、未登録者もいなくなっているのか、なの」
「未登録者で、ギルドの方で確認ができた人の中には行方不明者はいないって言ってたわ。連絡が取れないのはギルドメンバーだけだって」
白音もその辺りは少し気になっていたので、昼間リンクスに確認していた。
「何者かに襲われているのなら、犯人はギルドの登録情報を使っているように私には思えるの」
「そうね。残念だけどそらちゃんの言うとおりね」
白音もそらの意見に同意する。
しかしもしそうなら、自分たちが襲われてもおかしくはないだろう。
今この場所も安全ではないかもしれない。
「情報が漏れてるのかな?」
「漏れてるのか、それともそもそも内部の者の仕業かもしれないの」
「そっか、ギルドメンバーなら所在情報を手に入れるのもそんなに難しくない、と。考えたくないわね」
「内部だとしたら、ギルドかブルーム、あるいは内部情報に触れられる魔法少女」
そらはあえて感情の入る余地が無いように淡々と可能性を列挙する。
予測は、時に残酷な仮定を必要とするからだ。
「情報が外に漏れてるのだとしたら、そらちゃんはどう考える?」
「情報を手に入れられそうなのは政府関係。いまいち組織関係が分からないんだけど、外事特課ってところが全部仕切ってるのか、もっと上があるのか……」
佳奈がスマホのカードポケットに入れっぱなしになっていた名刺を取り出す。
「この人か? 外事特課課長補佐宮内寛次」
「疑ってみる価値はあるわね。あとはPMCね、白音ちゃん。根来衆。政府と繋がりが深いとかいう」
一恵が白檀の香りの巫女少女の事を思い出しながら指摘した。
「おお、お遣いのミコとかいういけ好かない奴のいるとこね。怪しい。犯人あいつじゃん。決定」
佳奈が指をパキパキと鳴らして、今にも殴り込みに行きたそうにする。
「確かに金髪の男の死体を回収してた。それが必要なのだとしたら、他にも集めている可能性はある」
そらが佳奈の意見に賛成票を投じる。
「そしてとうとう、自分たちで死体を用意し始めましたってね」
佳奈はわかりやすくターゲットを示して欲しいんだろうと白音は思う。
そうすれば多分、解き放たれた矢のように飛んで行くだろう。
「いやいや佳奈。そらちゃんが言ってるのはあくまで可能性の話よ? 可能性はあるけど決めつけちゃダメ。証拠なんてないし。思い込みは判断を硬直させるわ」
「ぬぅ…………」
莉美が突然、ペンギンのクッキーをくわえながらばっと立ち上がった。
「犯人はこの中にいる!」
両手を腰に当ててキメ顔をしている。
(この中ってどの中?)と思ったが、まあ多分会話に出てきた人たちの中という意味なのだろうと、親切なチーム白音の皆さんが勝手に補足して理解する。
「いやまあそうだろ。異世界事案の関係者ほぼすべて出たしなぁ。この中にいなきゃ、どこにいるんだよって感じ?」
佳奈が正しい。
「この中!!」
めげずに莉美が再びビシッとキメ顔をしてみせる。言いたいだけだろう。
「はいはい、そろそろお風呂にしましょうか」
「んだね。犯人は捕まえれば分かるさ」
「はーい!」
ぱっと切り替えた莉美が、とてもいい声で返事をする。
この息の合ったトリオ漫才をいずれ五人組にしたいと、そらと一恵は考えているのだ。
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