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第1話 追加入場日①
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――ゴオォォォン……。
重く低い鐘の音が街中に響き渡る。
ライネル王国で、この音が鳴るのは年に一度だけ。
「……卒業だぁぁぁぁ!」
校門から出てきた瞬間、ミレが跳ねるように両手を広げた。
「お前、元気すぎ。まだ式終わったばっかだぞ」
「クロウこそ、もっと喜びなよ!これでようやく自由だよ!?学校の呪縛から解放だよ!? 不者じゃないよ!? 家、あるよ!?」
「最後のやつが一番重要だけどな」
クロウは苦笑しながら、手に持った卒業証を見つめた。
これを失くしたら、今日までの努力が全部パーだ。
殉職者の子供の最後の鎖が、ようやく外れた。
「……で、ミレ。今から行くんだろ?」
「もちろん!」
ミレは腰に下げたリュックをポンと叩く。
中には、水、干し肉、縄、保存食、そして――
銀色の鍵。
「やっぱ買ってたんだな。その……ジュエリーボックス用の鍵」
「当たり前でしょ。入るには共通鍵が必要って聞いたんだもん。クロウの分もあるからね」
「お前……あの金どうしたんだよ。高かっただろ?」
「……内緒」
ミレはわざとらしく鼻歌を歌ってごまかした。
まあいい。聞くまい。絶対ろくでもない。
「クロウは?準備できてるの?」
「ああ。昨日でバイトも全部辞めた。これからは――」
クロウは空を見上げる。
空の中心。
王都のど真ん中でそびえ立つ巨大な宝石の木。
ジュエリーボックス。
「行くぞ。俺は、ジュエリーボックスに潜る。親父と母さんが行ったあの場所へ」
「うん。……一緒に、行こう」
二人はゆっくり歩き出す。
今日は、一般開放からちょうど半年後の追加入場日。
初回で財宝を掘り尽くしたとはとても思えず、次は一気に自由参加になった。
そして――噂があった。
「先発隊の遺留品が見つかった」
それを裏付けるように、王国の中央通りには再び長蛇の列ができていた。
「うわ……またすごい人」
「今度は俺らも並べるんだ。気合入れろよ、ミレ」
「もちろん!」
二人は列に並び、前を見る。
巨大な木の根元に、ぽっかりと開いた口。
50年前、初代の三人が踏み入れたという“ドア”。
その奥には――無数の宝箱、そして行方不明の親たちが残した何かがある。
胸がざわつく。
(親父……母さん……)
ようやく自分も、そこに踏み込める。
そのとき――列の前のほうがざわついた。
「なんだ……?」
「魔導兵が来てる……?」
「嘘だろ、あれ……封鎖じゃねえか?」
兵士たちが慌ただしく駆けていき、木の入口を塞ぐように結界を張り始めた。
「な、なんで!?今日入場日でしょ!?」
「ちょ、ミレ!」
クロウも前方を見た瞬間、息を呑む。
――木の根元から、濃い黒い煙が溢れていた。
煙は渦を巻き、空に伸びながら、まるで何かの形を取ろうとしている。
「クロウ……これ……」
「ああ。見間違いじゃなけりゃ――」
黒煙の下で、兵士たちが叫んだ。
「内部で反応ありッ!モンスターの反応だ!!」
その瞬間、クロウの心臓が跳ね上がった。
(そんな……もう出ないって……先発隊は……宝箱しかなかったって……)
真っ黒な霧の中から、影がひとつゆっくりと現れる。
人のような、獣のような、でもどこか懐かしいような――
「……まさか、親父……?」
「クロウ、ダメ!!近づいたら――!」
ドオォォォォン!!
突風が吹き荒れ、列が崩れ、叫び声が響いた。
黒い影が、クロウたちの方へと歩み寄る。
その影は、
――涙を流していた。
そして、かすれた声でつぶやいた。
「……クロウ……ミレ……逃げ……ろ」
「え?」
次の瞬間。
影の背後から、更に巨大な“何か”が姿を見せた。
黒い蒸気をまとい、宝石のように光る眼。
ジュエリーボックスの深層――“まだ誰も触れていない領域”から来たもの。
兵士が叫ぶ。
「深層級だ!!一般の冒険者では対処不能!!後退しろ!!」
でも、クロウの耳にはほとんど入っていなかった。
影――自分の名を呼んだその人物の顔が、確かにこう言っていたから。
「奥に……まだ……生きている……」
「生きてる……? 誰が……?」
「クロウ、離れて!!」
だが、もう遅い。
深層の怪物が咆哮を上げ、クロウに向かって手を伸ばす。
そのとき――
クロウの胸の奥で、何かが爆ぜた。
熱い。
燃えるような痛み。
心臓じゃない。もっと奥――魂そのものが焼けるような感覚。
「な、に……これ……っ」
視界が、一瞬だけ光で染まる。
ミレが叫ぶ。
「クロウ!? 目が……宝石みたいに……!」
クロウの身体から溢れ出した光は、怪物を真正面から弾き飛ばした。
周囲の人々が悲鳴を上げる中、クロウ自身が一番驚いていた。
「い……今の、俺……?」
腕が震える。
自分の力じゃない。
誰の?
どうして?
その混乱の中、さっきの影――男が地面に倒れこみながらクロウに手を伸ばす。
血を流し、意識も薄いその男は、確かに言った。
「……奥に……お前の、母さんが……」
「!!」
クロウの胸の奥で、再び光が脈動した。
ご覧いただきありがとうございます!
今までとはちょっと雰囲気を変えたものを書かせていただきました。
かなり、これから忙しくなるので、ゆっくり、こちらの作品でも読んでお待ちください。
ちなみに、この下の2作は本気で書いてます。
【スキル使用可】リアル脱出ゲーム
https://kakuyomu.jp/works/16817330667075076884
まさか転生してもゴミ箱人生だとは思いませんでした!今度は無双して、立派なゴミ箱になってやる!
https://kakuyomu.jp/works/16818023213859296848
重く低い鐘の音が街中に響き渡る。
ライネル王国で、この音が鳴るのは年に一度だけ。
「……卒業だぁぁぁぁ!」
校門から出てきた瞬間、ミレが跳ねるように両手を広げた。
「お前、元気すぎ。まだ式終わったばっかだぞ」
「クロウこそ、もっと喜びなよ!これでようやく自由だよ!?学校の呪縛から解放だよ!? 不者じゃないよ!? 家、あるよ!?」
「最後のやつが一番重要だけどな」
クロウは苦笑しながら、手に持った卒業証を見つめた。
これを失くしたら、今日までの努力が全部パーだ。
殉職者の子供の最後の鎖が、ようやく外れた。
「……で、ミレ。今から行くんだろ?」
「もちろん!」
ミレは腰に下げたリュックをポンと叩く。
中には、水、干し肉、縄、保存食、そして――
銀色の鍵。
「やっぱ買ってたんだな。その……ジュエリーボックス用の鍵」
「当たり前でしょ。入るには共通鍵が必要って聞いたんだもん。クロウの分もあるからね」
「お前……あの金どうしたんだよ。高かっただろ?」
「……内緒」
ミレはわざとらしく鼻歌を歌ってごまかした。
まあいい。聞くまい。絶対ろくでもない。
「クロウは?準備できてるの?」
「ああ。昨日でバイトも全部辞めた。これからは――」
クロウは空を見上げる。
空の中心。
王都のど真ん中でそびえ立つ巨大な宝石の木。
ジュエリーボックス。
「行くぞ。俺は、ジュエリーボックスに潜る。親父と母さんが行ったあの場所へ」
「うん。……一緒に、行こう」
二人はゆっくり歩き出す。
今日は、一般開放からちょうど半年後の追加入場日。
初回で財宝を掘り尽くしたとはとても思えず、次は一気に自由参加になった。
そして――噂があった。
「先発隊の遺留品が見つかった」
それを裏付けるように、王国の中央通りには再び長蛇の列ができていた。
「うわ……またすごい人」
「今度は俺らも並べるんだ。気合入れろよ、ミレ」
「もちろん!」
二人は列に並び、前を見る。
巨大な木の根元に、ぽっかりと開いた口。
50年前、初代の三人が踏み入れたという“ドア”。
その奥には――無数の宝箱、そして行方不明の親たちが残した何かがある。
胸がざわつく。
(親父……母さん……)
ようやく自分も、そこに踏み込める。
そのとき――列の前のほうがざわついた。
「なんだ……?」
「魔導兵が来てる……?」
「嘘だろ、あれ……封鎖じゃねえか?」
兵士たちが慌ただしく駆けていき、木の入口を塞ぐように結界を張り始めた。
「な、なんで!?今日入場日でしょ!?」
「ちょ、ミレ!」
クロウも前方を見た瞬間、息を呑む。
――木の根元から、濃い黒い煙が溢れていた。
煙は渦を巻き、空に伸びながら、まるで何かの形を取ろうとしている。
「クロウ……これ……」
「ああ。見間違いじゃなけりゃ――」
黒煙の下で、兵士たちが叫んだ。
「内部で反応ありッ!モンスターの反応だ!!」
その瞬間、クロウの心臓が跳ね上がった。
(そんな……もう出ないって……先発隊は……宝箱しかなかったって……)
真っ黒な霧の中から、影がひとつゆっくりと現れる。
人のような、獣のような、でもどこか懐かしいような――
「……まさか、親父……?」
「クロウ、ダメ!!近づいたら――!」
ドオォォォォン!!
突風が吹き荒れ、列が崩れ、叫び声が響いた。
黒い影が、クロウたちの方へと歩み寄る。
その影は、
――涙を流していた。
そして、かすれた声でつぶやいた。
「……クロウ……ミレ……逃げ……ろ」
「え?」
次の瞬間。
影の背後から、更に巨大な“何か”が姿を見せた。
黒い蒸気をまとい、宝石のように光る眼。
ジュエリーボックスの深層――“まだ誰も触れていない領域”から来たもの。
兵士が叫ぶ。
「深層級だ!!一般の冒険者では対処不能!!後退しろ!!」
でも、クロウの耳にはほとんど入っていなかった。
影――自分の名を呼んだその人物の顔が、確かにこう言っていたから。
「奥に……まだ……生きている……」
「生きてる……? 誰が……?」
「クロウ、離れて!!」
だが、もう遅い。
深層の怪物が咆哮を上げ、クロウに向かって手を伸ばす。
そのとき――
クロウの胸の奥で、何かが爆ぜた。
熱い。
燃えるような痛み。
心臓じゃない。もっと奥――魂そのものが焼けるような感覚。
「な、に……これ……っ」
視界が、一瞬だけ光で染まる。
ミレが叫ぶ。
「クロウ!? 目が……宝石みたいに……!」
クロウの身体から溢れ出した光は、怪物を真正面から弾き飛ばした。
周囲の人々が悲鳴を上げる中、クロウ自身が一番驚いていた。
「い……今の、俺……?」
腕が震える。
自分の力じゃない。
誰の?
どうして?
その混乱の中、さっきの影――男が地面に倒れこみながらクロウに手を伸ばす。
血を流し、意識も薄いその男は、確かに言った。
「……奥に……お前の、母さんが……」
「!!」
クロウの胸の奥で、再び光が脈動した。
ご覧いただきありがとうございます!
今までとはちょっと雰囲気を変えたものを書かせていただきました。
かなり、これから忙しくなるので、ゆっくり、こちらの作品でも読んでお待ちください。
ちなみに、この下の2作は本気で書いてます。
【スキル使用可】リアル脱出ゲーム
https://kakuyomu.jp/works/16817330667075076884
まさか転生してもゴミ箱人生だとは思いませんでした!今度は無双して、立派なゴミ箱になってやる!
https://kakuyomu.jp/works/16818023213859296848
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