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6章愛憎渦巻くゴブリン文明
6章5話結婚式
しおりを挟む結婚式、これは愛の誓いを行う儀式。
この儀式を行うことで、男女は契約上結ばれ、夫婦となる。
洞窟の中には教会がある。
中央の壇上にはゴブリン神の銅像が置かれ、巨大な鐘や花束の物凄い数が脇に据えている。
そのゴブリン神の像が紅に妖しく光り、怖い顔で笑みを浮かべたような気がした。
壇下には座席があり、列を成して、綺麗に並べられている。
その座席には既にゴブリンキングの親戚や側近達が座り、新郎新婦を今か今かと待ち構えていた。
その時、壇上の天井に亀裂が生じ、緑色の怪物が落下してきた。
場内は騒然となる。
一方、注目の的である落下した怪物であるゴブリンキングはゲラゲラと笑う。
紅の両眼は挑発したように、ワニ口は歯を剥き出し、巨大な鼻穴から悪臭を漏らし、黄金のマントを翻した。
「連日に続いて、よくぞ集まってくれた。我が儀式に」
恐れの騒然が、異様な拍手となる。
魔王とドラグロワは慌てて、拍手をする。
俺は分かるが、ドラクロワは次の一大決戦に向けて、極度の緊張ゆえだろう。
場内にいる警護役も、ゴブリンキングの奇抜な、早めな登場であたふたと控え室から出て来て、すぐさま配置に着く。
その様子を見て、また子供のようにゲラゲラと笑うゴブリンキング。
「グハハハハハハハ」
そして、警護役の中にはゴブリンキングの殺害を命じられたグリムもいる。
紫色の前髪には汗が滴り落ち、虚ろな紫眼で、今か今かと好機を伺っていた。
その時、ゴブリンキングは脇に置かれていた倒れた花瓶と枯れた向日葵の花に気づき、嫌悪を示す。
「誰だ? 花を枯らした奴は?」
そこへ、控え室から気弱そうな花職人が慌ててやってきて、花瓶を下げようとした瞬間、ゴブリンキングの平手が伸び、花職人の首を斬り裂いた。
ゴロゴロと顔が転げ、場内は恐怖の騒然となり、一切口を開かず、ゴブリンキングと目が合わないように俯いた。
右手に人間の血を滴らせ、その様子を面白そうにゲラゲラと笑うゴブリンキング。
この暴君を止めれるものはこの地下迷宮には存在しない。
そして、結婚式は続行し、音楽家ゴブリンによる不可思議な演奏が響き渡る。
飽き飽きとしていた頃合い、そこへ、ゴブミを連れてシラユキがやってくる。
ゴブミという名前を聞くと、どうしてもゴブリン女王を連想してしまう。
あのピンク色のトンボのような両眼、巨大な鼻穴、何から何までが醜い顔を思い出す。
確かにあいつは可哀想な奴だった。
しかし、俺はあいつを一生愛することは出来ないだろう。
緑色の薄く、禿げた髪、そばかすが両眼の下、リアにそっくりだ。まだ、赤ん坊だが、将来は美少女を彷彿とさせる。
だが、ゴブミは終始、あからさまに顔を歪め、嫌悪を示していた。
子供は正直者だというのはこういうことか。
だから、餓鬼は嫌いだ。
シラユキにしては珍しく、ゴブミの頭を撫でたり、笑み浮かべ、
「お姉さんと遊ぼうね」
とか
「お腹すいた? たかいたかい、してあげようか」
優しく可愛いがっていた。
まさに、色白美人の保母さんだ。ゴブミが羨ましい限りだ。
シラユキは最初の頃のきつい言動を繰り出す、性格が悪い女はどこにもなかった。
ゴブミはまだ小さい子供だし、また、先に生まれたシラユキにとっては妹のようであり、子供が好きで可愛いのかもしれない。
いきなり、抱っこされたゴブミが嫌悪の表情で、魔王に指を指し、覚えたての言葉で、
「きゃらい……きゃらい……こいつきゃらい」
可愛い訳がない。
シラユキに対してはおっぱいを吸いたいのか甘えた顔をするが、魔王を目にすると、一瞬で嫌悪の表情になり、足をバタバタさせ暴れるゴブミ。
そして、飽きると、甘えん坊の顔をシラユキに向けるのだ。
「あひゃ……あひゃ……ひゃひゃ……ひゃひゃひゃ」
「はい……はい……はい」
シラユキは仕方なしと云った、いやどこか嬉しそうな顔で左の乳を服からはだけさせ、ゴブミに飲ます。
「うんま、うんま、うんま」
ゴブミはシラユキの乳を貪るように、魔獣のように吸いつくす。
羨ましい限りだ。
いや、いけない。いけない。
魔王はシラユキのその保母姿に少しあらぬ妄想をしてしまったため、ちら見程度で済ました。
いや、何を恥ずかしがっている。
俺は魔王だぞ!
今度はがっちりと見た。
アホ毛を浮かしたゴブミがこちらを変態を見たかのような目で見て、
「こいつきゃらい。こいつきゃらい。きゃらい」
「だめよ。魔王様にそんな言葉を発したら」
「こいつきゃらい。こいつきゃらい。こいつきゃらい」
「魔王様も抱っこしてはどうです?」
シラユキは頬を赤らませ、お母さん気分で、抱えたゴブミをゆらゆらと揺らす。
「いや、」
魔王が少しに目線を送り、両手を差し出す素振り見せると、また嫌悪の表情で、
「こいつきゃらい。こいつきゃらい。こいつきゃらい」
魔王は我慢の限界、少し包帯を取り、黒い皮膚を見せつける。
ゴブミは歪んだ表情で泣き出し、シラユキの胸にがっつりとくっつき、わずかにほくそ笑む。
くそ。
なんなんだこいつ……。
俺の女を…‥。
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