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6章愛憎渦巻くゴブリン文明

6章8話ゴブミは俺の子だ

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「違う、おれはリアにストーカーなんかしてない」

「しらばくれるな! これを見ろ」

 グリムが懐から取り出したのは、数百枚にも及ぶ手紙の数々。
 好きだ、愛してる、好きだ、愛してるを書き殴るようにして、執拗に繰り返し紙に書いた、いわば恋文。
 ドログロワは涙を流し、目を逸らす。

「おれはストーカーなんてしてない!」

 リアは全身が震え、恐怖に怯えた様子。
 グリムは激しい怒りで、追い詰める。

「か弱い女性がこんなに怖がっているんだ! これは立派な罪だ! ストーカーだ!」

「いや、」

「僕は……ドラグロワ、お前を信じたかった。そんなことをする奴じゃないと僕はリアを説得した。信頼の置ける、とても良い友人が絶対にやる訳がないと何度も言った!しかし、リアに暴力を振るったことで、僕は目が覚めたんだ。あーこいつは変わってしまったんだと、悲しさに暮れ、そして、お前に失望した」

「違う、それは……」

 ドラグロワは泣いて、否定する。
 しかし、グリムは怒りの剣幕で反論し、リアの細い脚や腕に複数の痣があったことを証拠として示す。

「これを見ろよ! これでもお前はやってないと言う気か?」

「違う、違う、俺はやってない」

「もういい」

 グリムはここまで証拠があって嘘をつくドラグロワに呆れたのか、凄みのある白眼を向ける。
 同時にリアも、憎しみの緑眼を向けた。

「僕のゴブミはどこへやった?」

「教える訳にはいかない」

「返しなさい私達の子よ!」

 涙を流しながらも、違和感を感じるドラグロワ。

「僕の? 私達の子?」

 突如、グリムは奇怪に笑い、挑発するかのような表情で、首を少し傾げる。

「ゴブミは僕の子であり、僕とリアの子だ」

 友の裏切り、リアの裏切りよりも、一番の衝撃がドラグロワを襲い、息が出来なくなり、激しく動悸がする。

「ゴブミは俺の子だ! リアと愛の誓いをした!」

 しかし、グリムが激しく否定し、主張する。

「僕はお前よりも先にリアと愛の誓いをした! いつも、仕事ではお前が一番で、僕が二番だった。悔しい思いもしてきたが。しかし、恋愛事は僕の方が先なようだな!」

 ドラグロワが弱ってる時に性懲りもなく追随するリア。

「そうよ! 先にグリムとしたのよ! ゴブミはあんたの子じゃないわ!」

 ドラグロワは混乱し、茫然自失。
 リアは更に顔を歪め、追い詰める。

「ねぇ、ドラグロワ、私に一言言うことがあるんじゃないの? 言いなさいよ!」

 ドラグロワは混乱と悔しさを噛み殺し、分かったように頷き、立ち上がり、

「お幸せに」

 泣き叫びながら立ち去った。
 リアは歯軋りし、ドラグロワのその後ろ姿に拳を作った。

「それだけ?」

 無様な最後に腹を抱えて笑うグリム。

「はぁぁぁぁぁぁははははははははははははは」

 そして、グリムは見送って、笑い声に疲れた後、悲しげな白い両眼をし、涙がポロポロと流し、嗚咽を漏らす。
 リアは疑問に覚えながらも、懐に甘えた顔を寄せる。

「気に病む必要はないわ。あいつは所詮あんな男よ」

 しかし、グリムに突如、振り払われ、突き飛ばされるリア。

「侮辱するな我が友を! この淫乱が! こうなったのもお前のせいなのに、のうのうとそんな優しさを僕に見せるな! クズが!」

「え?」

 いきなり激怒するグリムにリアは信じられない様子。
 グリムはこの際だからとでも云うように、ありったけの不満をぶちまける。

「僕はお前のような淫乱女などこれぽっちも愛してはいない!」

「え」

「そんな顔でこっちを見るな。憎たらしいわ」

「……」

「あいつを僕は高く買っていた。仕事上であんな優秀な、正義感に溢れ、優しさのある奴はいない。僕はあいつに追い付きたくて、切磋琢磨し、張り合って、喧嘩もしたりするライバル関係だった。あいつが一番、僕が二番。いつも、あいつの後を追いかけていた。いつしか、信頼、尊敬、憧れの眼差しで、見るようになった。だが、同時に悪魔のような、嫉妬が心で蠢き、あいつには一生勝てないと思い知らされ、あいつの弱点ばかり見つけるようになった。王にあいつの汚職を告げ口したり、あいつの悪評を吹いて女を奪ったり、散々悪いこともしてきた。それでもあいつは僕の罪を知りながらも、友として接してくれた。あいつは堅物と言われながらも、結局は皆から愛され、目標となる人物だった。あの悪魔の怪物ゴブリンキングでさえも可愛いがっていた。僕だってそうだ。ただ、僕はドラクロワに勝ちたかっただけだ。その際にお前を利用したに過ぎない。もう、疲れた」

 グリムは目を虚ろにせ、ふらつきながら、教会へ一人戻って行く。
 その時、ドスンドスンという地響きと共に、バチンバチンと拍手が鳴り響く。
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