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2章アストレア家

2章6話機嫌が悪い

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 そして、食事の時間が始まった。
 ろくな物を食べていかなかった私は獣のように、肉やパン、チーズを口の中へ入れる。
 その余りの食べっぷりに唖然とした様子のローデンとスルガ。

「よっぽどお腹が好いてたのか」

「食べる女の子は私は好きですよ……」

 すると、レイカがフォークを床に落としてしまう。
 スルガが廊下に待機したメイドに呼び掛ける。

「新しい物を!」

 しかし、レイカは断った。

「良いわ」

「しかし……」

「ミアが取ってくれるわ」

「え……」

 スルガとローデンは食べ物に集中している私に視線を移す。
 私はローデンの意味ありげな咳払いとその視線に気づき、呆けた表情で、食事が止まった。

「え?」

「ミア……拾って」

 緊張感が伝わった。
 この時感じたのはこの小さな少女であるレイカがこの緊張感を作っているのだ。
 なんて恐ろしい子なの。
 スルガは怯えたように目を伏せ、ローデンは溺愛の眼差しで、二人ともレイカの味方だ。
 レイカはやはり、私の対応の遅さが気にいらないのか、テーブルを叩き、苛立ちを露わに声を荒げる。

「はやく!」

「ミア。レイカが言っているんだ? 拾いなさい」

「はい」

 私はわだかまりのような、違和感を感じながらも、渋々フォークを拾い、テーブルの上に置く。
 しかし、レイカはそのフォークを取り、ゴフミに投げつけた。

「なんなのあんた!」

 子供らしくない、恐ろしい青眼で睨んだ。
 呆然とし、俯く私。

「ごめんなさい」

 レイカに援護するのは、静かなる怒りの口調のローデン。

「普通は落ちたフォークを拾ったら、ゴミ箱に捨てるのがマナーだ。分からないか? ふんっ……馬小屋上がりのミアならば、分かるはずもないか」

 そして、レイカは腕を組み、唇を真一文字に結び、機嫌悪い表情でこう告げる。

「もう、いいわ……あんたは。廊下で雑巾掛けでもしてなさい。私が良いと言うまでやり続けなさいよ。分かったわね?」

「……え」

「返事は?」

「はい」
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