時空魔術操縦士の冒険記

一色

文字の大きさ
上 下
19 / 175
1章魔戦操縦士学院

19話集中砲火

しおりを挟む
 この大会で活躍すれば、評価や就職に有利に働くのは確実だろう。決して無駄ではないのだ。
 だが、それでも代表になりたくはない。

「そうね。あなたを推薦しようと思うのだけれど」

「いや、俺のことはいい」

 声を上げる奴もだんだんいなくなる、前の方で数人が何やら話し合っている。
 話し合いも終盤にさしかかっているようだ。

「俺は個人戦に出るわけだし……」

「あなたはそれでいいの?……あなたは才能があるのに評価されないなんておかしいわ」

「才能ねぇ、俺にはないさ」

「それに、私、リオラさんもあなたには感謝しているの。あの時必死で助けてくれたことに……だから何かお返しがしたいのよ」

 あの時とは白騎士事件で、カバーニではなく実際は俺がマシュとリオラを助けたことだろう。
 再三礼はいらないと言ったのだ。
 ただ俺は自分に危害が加わる可能性があったから、白騎士を倒しただけという場当たり的な思いで助けたのだ。
 だから感謝する必要はない。  
 そして、タイター先生が両手をパンパンと叩く。

「さてFクラス代表は決まった。まずジョージ・カバーニ。次、ユークリウス・マシュ。ノベライズ・グレン」

 三名か。
 すると、金髪の少女が勢い良く立ち上がる。

「あの先生! 補欠は決めないんですか?」

「Fクラスにはいらない。もし代表の一人が病欠ならそこでFクラスは棄権だ」

 残酷な言い草だな。
 すると、茶髪の眼鏡を掛けたグレンが泣きながら、立ち上がった。

「僕にはやはり荷が重すぎて……えんっ……えんっ」

 どうした?
 誰かに何かやられたのか、それとも言われたのか。
 涙をこぼし、目をこすりながら、グレンは続ける。

「えんっ……えんっ……トーマス・アル君がいいと思います……えんっ」

 俺を一斉に見るFクラス諸君。
 なぜそうなる?
 一切俺の名前を口にする奴なんていなかったではないか。
 グレンは鼻水を垂れ流す程、泣き、椅子に着席し、机に突っ伏す。

「えんっ……えんっ……えんっ」

 なぜグレンは泣いている、なぜ代表の座を俺に譲るのか。

「アルが脅したのか?」

「マジか」

「グレンがあんなに泣くとは」

「ひでぇ奴だ」

「アル最悪」

「クズアル」

「あいつ嫌い」
いや、何もしてないんですけど。
 ふと、俺は教卓にいるリオラと目が合う。
 右人差し指を頬に指し、首を傾げるポーズ。
 さも、知らぬ振りと云った表情。
 あいつは何かしたのか。
 俺はすぐさまグレンの元へ、泣きじゃくるグレンを無理矢理立たせ、廊下へ引っ張り出す。

「クラス代表はお前でいいからさ」

「馬鹿にするな!!」

 突然、グレンは怒り出す。
 どうやら感情が高ぶっている。いや、違う俺に対して鋭い視線を向けている。
 憎まれてる? 何かしたのか?

「何があったんだ?」

「リオラさんにクラス代表を辞退しろって言われたんだ!!」

 グレンが言うには、リオラに教室外に連れられ、「あなたが代表を辞退して、アル君を推薦して欲しいの」とにこやかに言われたそうだ。
 さぞ、絶望と屈辱を味わったことだろう。
 グレンはFクラスの中では魔戦操縦士としてはそれなりに実力はある方だ。
 マシュの少し下ぐらいだろうか。
 自らの力に自信があり、普通ならそんなこと言われたら男なら怒り出すであろう。
 俺の実力はクラス代表に相応しくないと言うのかと。
 だが彼の場合は違う。
 も彼はリオラが好きなのだ。
 クラスの大半の男子はリオラが好きなのだが。
 入学式当日に一目惚れし、それから毎日朝昼と声を掛け、猛烈にリオラにアタックしていた。
 グレンを慰めようと、肩を叩くも。

「触るな!! うぇーん」

 グレンに手を振り払われ、泣いて去って行った。
 教室に戻ると、タイターは不気味に笑う。

「ならアルも代表に決定だ!」

 俺は春の魔戦実技大会団体戦のFクラスの代表に決定した。
 これこそ絶望だ。
 

 
 
しおりを挟む

処理中です...