時空魔術操縦士の冒険記

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2章ダンジョンへ向かおう

幻神鳳凰

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 鳥の甲高い声がする。

「ギャァ!! ギャァ!! ギャァ!! ギャァ!!」

 何だろうか。
 それにしても眩しい。
 何だろうか。
 俺は瞼《まぶた》を開ける。
 視界には黒い湿原が広がったまま。
 意識があるということは、まだ俺は死んでいなかったのか。
 覇鬼はどこだ?
 周りを見渡すと、上空に金の鳥が旋回しながら、叫んでいた。
 神々しい光を放っている。光の線が突き刺ったように重なり合う。
 炎のようにゆらゆらと揺れる赤い鶏冠《とさか》。
 細い狐眼。大きく広がった純金の羽。尾びれはくねくねと蠢く。
 金の粉が空中に降り注ぐ。
 幻の鳥。レベル700。伝説の異世界神《イセカイジン》。

「【幻神鳳凰《ホウオウ》】だ」
 
 幻神鳳凰《ホウオウ》は羽から炎を纏い、急降下する。
『炎鳥《ファイヤーバード》』
 鳥神の炎で、敵を全て焼き尽くす。
 その下には覇鬼が咆哮しながら、闇を纏う棍棒を振り回している。
 光炎と闇は激突する。激突する度に広がる凄まじい衝撃波。
 これが神々の戦いなのか。ヒューマンが割って入る戦いではない。
 幻神鳳凰は旋回しながら、空中を制する。
 覇鬼は棍棒を振り回して地震を起こし、地上を制する。
 空と地のオーラが押し合う。

「ギャァ!!!!」

「アアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 苛立ちを覚える覇鬼は跳躍し、幻神鳳凰を全身でがっちりと掴む。
 胴を掴まれた幻神鳳凰は身動きが取れず、苦痛の表情。
 嗤う覇鬼。赤い眼と唾を垂れ流す口がある。
 そして、捕まれたまま金鳥は落下し、黒い湿地で爆発し、それから黒煙と黒水が噴出する。
 やがて、炎が発生する。一柱の炎。
 その炎は覇鬼の顔を掠めた。
 覇鬼は寸前で避けた。
 
「クッ!!!!!!!」

 刹那。
 覇鬼の白髪に火の粉が降った。
「ボワッ!!!!」と炎が舞い上がる。
 目を見開く覇鬼。

「!?」

 炎は拡大する。
 全身を炎で焼き尽くされる覇鬼。
 棍棒を振り回して、必死で痛みを追い払う覇鬼。

「アァ!! アァ!! アァ!! アァ!!」

 炎を纏う金の鳥は即座に上空へ飛ぶ。
 怒り狂う覇鬼は闇のオーラを周り全体に発動する。
 黒い闇へと包まれる。黒い霧が立ち込め、空中、地上を埋め尽くした。


『闇域《サタン》』
 周辺一帯を闇のオーラで破壊する。
 この時、闇を浴びた敵は光属性以外の魔術は使用不可能。
 
 だが、一切金の鳥に効いてなかった。
 光の壁で守ったのだ。
『聖なる守り』
 
 金の鳥は嘴から光の線を発射した。
『金光《フェリシッモ》』
 全ての敵を光で破壊する。
 一定時間、光を浴びた者は目を使用できない。
 闇の怪物は大ダメージ。

 天空から一直線状に流れ出る光の閃光は黒い霧を消滅させていき、覇鬼の頭部へ直撃する。
 崩れ落ちる覇鬼は目を押さえ、悲痛な叫び声を上げる。
 やがて、覇鬼は早走りで去って行った。
 
 すると、幻神鳳凰は空中を飛び回り、金色の粉を振り撒いた。
 俺はただ見つめるしかなかった。
 黒い大地がどんどん息吹をあげるように変化し、周りの山や草木に緑が戻ってくる。
 隣りにいたマシュやアイリスが動き出す。
 驚愕する。
 何が起きているのだと。
 二人は上半身を起こし、「どういう事? 私達は死んだはずだった」

「え? え? 何ですかこれは?」


 目を丸くする二人の表情。
 前方にいるリオラも動き出し、目を擦りながら上半身を起こす。
 これは幻神鳳凰の力。
 マシュは目を細め、俺に問い掛ける。

「アル! 何があったの?」

 俺は幻神鳳凰に指を差す。

「幻神鳳凰が助けてくれたんだ」

 なぜ助けてくれたのかは分からない。
 リオラとアイリスがその神々しく輝く鳥を見る。
 すると、こちらにその鳥はやってくる。
 俺達は少し震える。
 狐目はにっこりと微笑み、俺達は息を整え安堵する。
 俺は声を掛ける「ありがとう」。
 鳥は「ギャァ!!」と返答した。
 
 
 
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