時空魔術操縦士の冒険記

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2章ダンジョンへ向かおう

犬の憎しみ2

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 互いの応酬は縦や横や斜めと自由自在に放たれる。 
 人食は闇拳を振り下ろしていく。
 レッドアルバローザは地面に高速の円を描き、砂塵を生じさせる。
 瞬間、人食の不意を付き、上空へ跳び上がり、悪魔女の目の前に落下する。
 レッドアルバローザは首元を目掛けて突き出す。
 躱わす。
 突き出す。
 右へ一閃。
 仰け反り、躱わす。
 振り下ろし。
 左へ回避。
 前の攻撃から横へ切り裂く。
 転がって回避。
 一瞬一瞬正確に攻撃を与える。
 一瞬一瞬に正確に回避する。
 カバーニは自分が幾分か強くなっていた事を感じていた。
 やはり、この勝負負ける訳にはいかない。
 転がった悪魔女は闇を放出。

「地獄闇!!」

 砂塵をぶち破り、レッドアルバローザへ攻撃。
 しかし、寸前で仰け反り回避される。
 安堵する暇もなく、人食の闇が拳を振り下ろす。
 視界に闇の拳が。
 地面に倒れて、左に転がり回避する。
 また、第二攻撃の闇拳が襲ってくる。
 何とか大剣で受け止め、勢い良く弾く。
 吹き飛ばされる人食。

「はぁはぁはぁはぁ」

「あらずいぶん疲れているようね? やめるのかしら? ねぇ?」

 カバーニは強くなったと自覚したが、この魔女には到底及ばない事も感じ始めた。
 強くなったと同時に、強者か弱者か分別も出来てしまった。
 それは同時に強者への恐怖をより一層感じやすくなってしまった。
 ワイの持ち味は全身全霊全力突破だったはずや。
 身体が動けへん。
 エキドナは余裕の表情。
 なぜ。
 なぜワイはこんなに弱いんや。

「人食!! 本気を出していいわ!!」

 刹那。
 人食が頷き、更に大きな闇へと変貌する。
 レッドアルバローザは固まったまま動けない、そして、闇は波のように機体を飲み込んだ。
 だが、その刹那。
 電光が走る。
 一直線の雷が闇を二つに斬る。
 雷神。
 それは黒翼の装甲が放つ。
 そして、黒翼はレッドアルバローザを抱きかかえ、安全な場所に置く。
 カバーニは目を見開いたまま。

「アルか?」

「ああ……怪我ないようだな」

「そうや」
 
 そして、エキドナは黒翼に一瞬驚くも、平静を保つ。

「あら、お仲間?」

 俺は笑みを浮かべる。

「ああ……そうだな……エマ……いやエキドナ」

 エキドナはその声を聞いた瞬間、動揺するが、目を細める。

「あら……アルさん……私の正体知っちゃったんですね……」

「いっとくが今の俺はお前を殺す程の力はある」

「黒翼……謎のゴッドハンター……たぶんこの世界の10に入る程のトップクラス実力者……まさかアルさん……あなたが……」

 緑の瞳はどこか寂しそうに輝く。

「さて? どうする?」

 エキドナは俯き、そして、目を細め。

「アルさん……住民を助け出さなくていいんですかしら? 死んじゃいますよ? エマの父や妹も」

「エマの父はお前の嘘だろ?」

「エマは私ではありませんが……実在した人物で……そのエマには父や妹いるはずですよ」

「だからと言って逃がすか」

 黒翼は急接近する。
 がしかし。
 瞬間、悪魔女の横にジャックザ・リッパーが現れる。
 エキドナが無表情でジャックを見る。

「あなた死んでいなかったのね?」

「ヒィヒィヒィヒィ……昔からゴキブリと呼ばれた事があるザスヨ……ザマァァァァァ!!!!」

 そして、俺に向き直り、不気味に笑い、白い顔面が俺の目に焼き付く。
 闇が出現し、二人はその闇と共に消えて行った。


 
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