時空魔術操縦士の冒険記

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2章ダンジョンへ向かおう

異世界神杯2

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 よし決めたアルパッカだ。
 では使役者の皆さんは異世界神の背中に乗ってください。
 仮面を被った男達は乗る。
 準備できたら、手を上げてください。
 では再度コースを説明します。
 今回は芝生でありません。
 天国への階段です。
 実況者が指を鳴らすと。
 突然、光の柱が出現した。
 魔法で出現させたのか、天空まで続く光の柱。
 周りには巨大な階段が螺旋状にあり、眩い光に包まれている。
 頂上にある金玉をいち早く採った神が優勝という簡単なレースだ。
 実況者は大きな声を上げ、笛が鳴る。

「では!! スタート!!!!!」

 一斉に怪物達が動き始めた。
 一番早く動き出したのチーターロドリゲス。
 細い体躯から繰り出される俊敏な動きに、一歩一歩の伸びが大きく、瞬く間に一階の階段を登り切る。
 その後ろに白い馬の貴公子ハク。
 艶のある体躯が見るものを圧倒し、美しい鬣《たてがみ》がひらりと揺れる。
 四肢を動かし、駆け上がり、疾走する。
 会場がどよめく。
 次に鳥のハヤブサが急加速しながら追う。
 大兎も自慢の跳びを活かして追う。
 その後ろが白黒の巨大鮫。
 頬白鮫《ホホジロザメ》ら浮遊しながら、進む。
 見た目では分からないが進んでいる。
 ふと、スタート地点を見ると緑のドラゴンのガブリエルとサラマンダーアリゲーターが炎を吹きながら、戦闘をしていた。
 ガブリエルは尻尾や炎を使って攻撃。
 サラマンダーアリゲイターも炎の渦で応戦。
 火炎がボワッと巻き起こる。
 観客のボルテージが上がる。

「おらぁぁぁぁぁぁ!!!! やっちまぇぇぇぇ!!!!」

「さすが決勝だぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 何やってんだあいつら。
 二つの怪物は魔力切れになり、そして、両方は突進する。
 激突する。巨体と巨体がぶつかり合う。
 圧倒的爆発力。
 更に頭部と頭部が激突。鋭い歯がぶつかり合う。
 ガシャガシャガシャと鳴り響く。

「ガァァァァァァァァァァァァ!!!!」

「ギィィィィィィィィィィ!!!!!!」

 俺とミユミユが画面をじっーと見ている中。
 ゲイルが口を挟む。

「乙らは……仲悪い。ドラゴンとワニは長年の憎しみの歴史がある」

「へぇ」 

「目が合えば殺し合い……全く面白い……ケッケッケッケッ」


「しかし異世界神のレベルが高いな。Sクラスの討伐対象ばっかりじゃねーか」

「ナスカ王国じゃ……使役できる異世界神は討伐せずに、捕獲するようにゴットハンターに呼び掛けている。その方が高く売れる、国側にとっても戦力として使えるし多大なる利益が出る……乙無知」

「へぇ」

 アルパッカはスタート地点でずっと歩き回ってるけど、やる気あるのか?
 眠そうな顔。
 早速先頭者同士の闘いが始まってる。
 チーターロドリゲスが快足を活かし走る。
 ハクが自慢の脚力で走る。
 互いに追ったり抜いたりと白熱のデッドヒートを繰り広げ,凄まじい速さで駆け上がっていく。
 両神は体躯と体躯を隣り合わせで激突。
 見えない火花が散る。
 二つの光速は観客を黙らせる。
 皆目を丸くし、息を呑んだ。
 実況者が叫ぶ。
 さぁさぁさぁさぁ。
 どうなる?
 どうなる?
 ハクが優勢か!
 おおおっとチーターロドリゲスが抜いた。
 猛スピードだ。
 しかし、付いていくハク。
 ハクがまた抜いた。
 いや、チーターも迫る。
 迫る。
 いけぇぇぇぇぇぇ!!!!!
 白馬と黄豹の戦いは熾烈《しれつ》を極める。
 大変な事になってるな。
 この激戦はまだまだ続くな。
 一方、三番手争いをするのは、ハヤブサ、大兎、ホホジロザメ。
 ハヤブサは風を上手く利用し、旋回や回転しながら、飛んでいく。
 大兎も負けじとぴょんぴょんと跳ぶ。
 若干出遅れているホホジロザメ。
 あの巨体だから仕方ないかもしれないな。
 突然ホホジロザメが大きな口を開き、口から吸い込まれるような風を発生させ、ハヤブサと大兎をパクッと飲み込んだ。
 観客が絶句する。
 ざわざわとする。
 何ならスタッフ達が話し合っている。
 慌ただしいな。
 このレースは妨害行為は許されてるはずだが、死に至らしめる行為は禁止されているはずだ。
 そして、ホホジロザメは観客席の方を振り返る。
 両目の黒目が開き、大きな口を開き、何人か観客を吸い込んだ。
 会場は恐怖による絶叫の嵐へと変わっていく。
 ホホジロザメの甲高い咆哮が鳴る。

「ホォォォォォォォォォォ!!!!!!!」

 逃げ出す観客達。
 俺は驚愕しながら見ていた。
 すると、ゲイルが不気味に笑いながら。

「ホホジロザメが暴走した……面白い。ケッケッケッケッケッ」

「面白くない。まずい状況だろ」

 
 俺は立ち上がる。
 ゲイルが黒目でこちらを見る。

「どこへ行く」

「助けに行くんだよ」

「やめとけ。死ぬ」

「行くんだよ」

「どうやら乙の出番無くなった」

「どういうことだ」
 
 俺は画面を見る。
 紫の結晶を纏った魔戦のような生物。
 いや、違う。
 これは魔戦だ。
 だが、こんな魔戦見た事がない。
 全身に紫色のダイヤが無数に映えた魔戦。カマキリのような頭部と体躯。金色の両眼が光る。

「世界的大富豪ギルド【ワロタ】の団員ムラサキシキブ……機体は古代型……アメシストと呼ぶ」

 ゲイルが言った。
 アメシストは瞬時に空中へ上昇し、ホホジロザメの目の前に立つ。
 ホホジロザメは大きな口を開き、吸い込む。
 アメシストは焦る様子も無く、その場に浮遊したまま。
 右手を出す。
 冷たい声。

「紫氷矢《エイジフレッチャー》」

 刹那。
 右手から紫の結晶が何個も出来上がり、鋭い槍のような結晶へ変化し、そして、それは発射される。
 氷の矢はホホジロザメの急所へ放たれ、ホホジロザメは痛みで悲鳴を上げ、悶える。
 氷の矢は傷口からホホジロザメの内部まで刺さり、相当な致命傷を与え、更に氷の矢は食い込む。
 何とかホホジロザメは矢を取ろうと必死でもがくが上手くいかない。
 その隙にホホジロザメの頭上へ着陸するアメシストは右手から紫の氷状の剣を作り上げ、振り上げる。 

「氷剣《エイジソード》」

 振り下ろし、次の瞬間、ホホジロザメの頭部と体躯が縦に真っ二つに割れた。

「シッッッッッ!!!!」

 無音に近い音だった。
 更に瞬時にアメシストはホホジロザメの尾鰭に移動し、氷剣で頭部へ進みながら斬る。全身を斬る。
 一瞬だ。
 ホホジロザメは一瞬で切り刻まれた。高速だ。
 ホホジロザメのレベル500前後。
 なかなか一瞬で倒せるものじゃない。
 しかもスピードは俺のシルバディウスと同等かそれ以上だ。
 強ギルドの団長レベルの腕前だぞ。
 結局異世界神杯はホホジロザメ暴走により大会の続行は不可能となった。
 ホホジロザメは討伐されたものの、原因が分からないままにしておくのは危険と判断したのだろう。
 賭け金は払い戻しになったのでよしとしよう。

 
 
 
 
 
 
 
 

 
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