転生したらダンジョン雲になった訳

一色

文字の大きさ
37 / 177
1章魔獣になりましょう

37話蜥蜴の暴走

しおりを挟む
 彼女は泣きながら、首を左右に振り、否定を示し、そして、弱々しい声で、精一杯の声で言った。

「家族が……いない……」

 たどたどしい言葉と悲壮な表情に嘘偽りは感じられない。
 それからずっと弱々しく泣き続けていた。
 彼女の境遇は思っていたよりも想像を絶するものだったのだろう。
 これ以上何かを聞くことは出来なかった。
 玄奘も最初は苛立ちを示していたが、家族を失った境遇を共有する身としては、これ以上責め立てるのは良くないと思ったらしく、後はアタマカラに任せたと肩をパンパンと叩き笑みを零し、その場を離れた。
 その行動の真意というのは今後の彼女をどうするかということも含まれているようだった。
 このまま憔悴しきった彼女を家族のいない元へ解放させるのは危険なのは確かだ。
 せめて、元気になってから解放をするのが最善ではないだろうかと思うに至った。

「少しの間一緒に来ませんか?」

 その誘いに否定されるか、あるいは押し黙ると思ったが意外なことに一生懸命に頷き、涙を拭き、視線は相変わらず下を向き、たどたどしかったが、

「はい……宜しくお願いしま……す」

 と彼女なりの真意が見えた。
 だが、そこへ水を差すようにして、蜥蜴がパイプを吹かして、横柄な態度でやってきた。
 切れ長の目で二人を睨み付ける。

「その羊女を奴隷にすると言ったらどうする?」

「何?」

「どうするって聞いてんだよ」

「俺がさせない」

 やはり、この蜥蜴は悪党。
 こんな悪党にいる団体に入団すること事態が間違いだった。
 アタマカラの体から発する冷気がこの上なく帯び戦闘態勢を整え、羊女を庇う。
 すると、そこへ、木の上で休んでいた玄奘が顔を出し、冷徹な目で敵を見下ろし、補足する。

「今……アタマカラと羊女はパーティー契約を結んだ……奴隷契約は無効になるはずや」

 その時、蜥蜴がパイプを投げ捨て、全身から炎を湧かし、炎の柱を発生させる。
 灼熱の炎がぐるぐると円柱を形成する姿は圧巻。
 この魔力、殺気を鑑みるにこの三人だけでなく、森全体を焼き尽くすことさえ感じられる。

「果たしてテメェらでその羊女を守れるかぁぁぁぁぁ? うちはな鬼団15番隊長……炎の狩り獣だぞ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

悪役令嬢ではありません。肩書きは村人です。

小田
ファンタジー
 6才までの記憶を失った村人の少女ルリが学園に行ったり、冒険をして仲間と共に成長していく物語です。    私はポッチ村に住んでいる。  昔、この村にも人が沢山いたらしいけど、今はだいぶ廃れてしまった。  14才を迎えた私はいつも通り山に薬草採取に行くと、倒れている騎士を発見する。  介抱しただけなのに、気付いたら牢屋に連れて行かれていた!?  どうしてだろう…。  悪いことはしていないのに!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...