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1章魔獣になりましょう
50話羊村
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アタマカラはハッと目を覚ます。
まず、痛みが無いことに気づく。
身体中が血塗れだったはずなのに、既にその傷の影さえない。
またしても、自然力という自身の力が発揮したのか。
だが、この異常なまでの回復力が自然力だという確証はない。
ところで、周囲は藁が大量に埋め尽くし、家族で暮らすには少し狭いと感じる広さ。
それから、脇には焚き火がオレンジ色を煌めかせ、その上でぐつぐつと煮えたぎる鍋。
その鍋からもくもくとした煙が鼻孔を刺激し、魚介類の匂いがする。
思わず腹が鳴ってしまう程の美味しそうな匂い。
すると、腹の鳴りに笑ったのは前髪が綺麗に切り揃えられた銀髪の小さな少女。
いや、耳が横へ伸びていることから羊の子供らしい。
翡翠色の瞳をした少女は小さな口でクスクスと笑う、アタマカラがムッとすると、慌てて正座し、口を隠した。
「ここは?」
「うふふ。雲さんが倒れていたからね。ママが助けたんだよ」
「え? そうだったのか」
その真実を聞いて、アタマカラはほっと胸をなで下ろした。
ここは、どうやら危険な場所ではないらしい。
そこから記憶を辿ろうとするが、嫌な記憶が再び蘇るので、止めた。
そこで、救ってくれたであろう優しい声がする。
「起きたんですね」
「あ……あの……えっ」
アタマカラはお礼を言おうと声の主を見る。
しかし、その姿に驚き硬直してしまう。
なぜなら、彼女は羊女《シエラ》に瓜二つの顔だったからだ。
あの思い出したくない惨状で、自身を蹂躙し続けた憎き獣。
忘れようと、忘れようと何度もそう念じたのに……。
「どうしたんです?」
「いえ……」
しかし、目の前にいるシエラと瓜二つの顔の彼女は何も知らないと云った表情。
また、顔はそっくりだが、シエラとはどこか雰囲気が違う。
優しさが滲み出るように、後ろから光が射しているような人。
すると、銀髪の小さな少女が首を傾げ、寂しそうな瞳をする。
無邪気な表情がアタマカラを追い詰める。
「雲さん元気出して。ね?」
「あっ……うん。そうするよ……それで。あの先程はあなたが助けてくれたんですか?」
「はい。大雨が降ってるあの場所で寝てると風邪を引いちゃいますからね」
「そうですね。助けてくれてありがとうございます」
「いいですよお礼なんて……」
しかし、なぜだろうか。
こんなに美しく、素敵な笑顔で、幸せそうなのに、どこか苦しみを抱えているようだった。
「俺はアタマカラと言います。あなたは?」
「カエラです。そしてその子が」
「ミエだよ」
「もう一人いて三人家族なんです」
「そうでしたか」
アタマカラは軽く頷き、何か考える素振りをして、宙を見上げる。
一方、カエラは夕飯支度の最中だったのか、束になった緑草を持ち上げ、台所らしき火釜へと放り込み、ぐだぐだと煮込んでいく。
今日は色々ことがあって、とても疲れた。話す余裕や考えることすら億劫になっている。
やはり、お腹が空いているからだろうか。
「雲さんのお椀。どうぞ」
「あっ……ありがとう」
まず、痛みが無いことに気づく。
身体中が血塗れだったはずなのに、既にその傷の影さえない。
またしても、自然力という自身の力が発揮したのか。
だが、この異常なまでの回復力が自然力だという確証はない。
ところで、周囲は藁が大量に埋め尽くし、家族で暮らすには少し狭いと感じる広さ。
それから、脇には焚き火がオレンジ色を煌めかせ、その上でぐつぐつと煮えたぎる鍋。
その鍋からもくもくとした煙が鼻孔を刺激し、魚介類の匂いがする。
思わず腹が鳴ってしまう程の美味しそうな匂い。
すると、腹の鳴りに笑ったのは前髪が綺麗に切り揃えられた銀髪の小さな少女。
いや、耳が横へ伸びていることから羊の子供らしい。
翡翠色の瞳をした少女は小さな口でクスクスと笑う、アタマカラがムッとすると、慌てて正座し、口を隠した。
「ここは?」
「うふふ。雲さんが倒れていたからね。ママが助けたんだよ」
「え? そうだったのか」
その真実を聞いて、アタマカラはほっと胸をなで下ろした。
ここは、どうやら危険な場所ではないらしい。
そこから記憶を辿ろうとするが、嫌な記憶が再び蘇るので、止めた。
そこで、救ってくれたであろう優しい声がする。
「起きたんですね」
「あ……あの……えっ」
アタマカラはお礼を言おうと声の主を見る。
しかし、その姿に驚き硬直してしまう。
なぜなら、彼女は羊女《シエラ》に瓜二つの顔だったからだ。
あの思い出したくない惨状で、自身を蹂躙し続けた憎き獣。
忘れようと、忘れようと何度もそう念じたのに……。
「どうしたんです?」
「いえ……」
しかし、目の前にいるシエラと瓜二つの顔の彼女は何も知らないと云った表情。
また、顔はそっくりだが、シエラとはどこか雰囲気が違う。
優しさが滲み出るように、後ろから光が射しているような人。
すると、銀髪の小さな少女が首を傾げ、寂しそうな瞳をする。
無邪気な表情がアタマカラを追い詰める。
「雲さん元気出して。ね?」
「あっ……うん。そうするよ……それで。あの先程はあなたが助けてくれたんですか?」
「はい。大雨が降ってるあの場所で寝てると風邪を引いちゃいますからね」
「そうですね。助けてくれてありがとうございます」
「いいですよお礼なんて……」
しかし、なぜだろうか。
こんなに美しく、素敵な笑顔で、幸せそうなのに、どこか苦しみを抱えているようだった。
「俺はアタマカラと言います。あなたは?」
「カエラです。そしてその子が」
「ミエだよ」
「もう一人いて三人家族なんです」
「そうでしたか」
アタマカラは軽く頷き、何か考える素振りをして、宙を見上げる。
一方、カエラは夕飯支度の最中だったのか、束になった緑草を持ち上げ、台所らしき火釜へと放り込み、ぐだぐだと煮込んでいく。
今日は色々ことがあって、とても疲れた。話す余裕や考えることすら億劫になっている。
やはり、お腹が空いているからだろうか。
「雲さんのお椀。どうぞ」
「あっ……ありがとう」
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