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2章英雄と龍魔王

豚飼いの商人

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 早速、依頼主と待ち合わせ場所であるグラード王国の門前へ足を運ぶ。
 早朝ということもあり、人通りは少なく、いても後ろに巨大な荷物を背負った人達が数人。
 その中でも、門前の外で大量に横に並べられた馬車。
 その長方形の荷台には夥しい数のピンク色の豚がブーブーと鳴いている。
 数分、いや、一時間、二時間。
 アタマカラは苛立ちを露わにしながら、呟く。
 
「遅いな」

「うん。遅い」

 あの無表情で、冷静沈着のイリスでさえ、少し眉根を細め、苛立ちの片鱗を見せている。
 そこで、二人はずっと空を見上げながら、遅いなの応酬を繰り返して待っていると、一人のオシャレな金髪の男が現れる。
 白と金の庶民風の民族衣装を着用する細身の男。
 笑顔を作り、癖毛が跳ねているところを見るとどこかルーズっぽさを感じる。
 その頼りなさを感じるのは若さのせいなのか。
 でも、まあ割と友達にいそうな奴ではある。
 青年の男が頭を掻きながら、舌をぺろっと出し、詫びる様子も無く、唐突に出発を促す。

「じゃ行きますか?」

「はぁ?」

 アタマカラはあまりの態度に思わず変な声が出てしまう。
 一方、イリスは苛立ちを抑え、手に力を込める。
 男は二人の驚きっぷりに、少し腹を抱えて、笑う。

「ハハハ……冗談、冗談。でも、まさか、あの英雄様がいるとは思わなかったけどね」

 イリスは意図を理解したらく、無礼な態度は揺らさないとばかりに、女英雄の心が疼き、剣を抜き取る。
 アタマカラが慌てて制止する。

「いやいや、そこまでしなくてもさ……」

 イリスは頭を振って、今までに無い強い顔で、主張する。

「英雄なら無礼な輩を斬り捨てても良い法律がこの国にはある」

「いや……」

 すると、イリスは魅惑の眼差しで、前を見据える。

「きっと、その人は私達が駆け出し冒険者だから、わざと時間に遅れてきた」

「そうなのか」
 
 何となくそんな気がしてはいたが。
 男は小さく何度も頷きながら、目を細め、両手を合わせる。

「いやぁ……本当に悪かったよ。今回は許してくれよ」

 イリスは眉根を細め、悔しそうな表情をし、剣を振り上げようとする動作をする。
 
 アタマカラはこれでは埒外があかないと思い、場を治めるため、間に入って男と1対1で対応する。

「あなたが豚飼いの商人フレッドさんですね?」

「うん。そうそう。まだ、数日しか働いていない見習いだけどね」

「……」
 
 
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