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第3章:届ける想い、文化祭
5.想いをのせて
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何度もユウカちゃんとの連絡画面を開いては閉じ更新を繰り返していた。
スポン、と音を立て画面が更新される。
少し前に送った、私のたどたどしいメッセージが上に押し上げられた。
目を見開いてそのメッセージを読む。本当は少し寝かせて駆け引きとかしたいのに、連絡が来た喜びから、待つ余裕なんてなかった。
ユウカちゃんは私の送った候補日の中から、自分と予定の合う日を何日か教えてくれた。
そして最後にかかれたメッセージをみて私はベッドから飛び起きる。
『私もユキちゃんと連絡先交換できてうれしい!』
わーと、心の中の盛り上がりはスタジアムの歓声レベルだった。やった、やった。ユウカちゃんも同じ気持ちだった。
送るか迷ったメッセージ、送ってよかったと胸を撫で下ろし高鳴らせる。そうこうしている間にスポンとまた画面が更新された。
『私いいスタジオ知ってるから、この予定合う日全部予約しちゃっていい?特訓だー!』
普段上品しとやかな印象のユウカちゃんのパワフルさに意外性を感じつつ、何日もユウカちゃんと会えることが確定して舞い上がる。
二つ返事といえるスピードで了承のメッセージを送った。
ある程度振り付け覚えておこうかな。
動画サイトでダンス動画を探す。何となくの流れでも把握できるように繰り返し見ては鏡の前で踊ってみた。
ピロン。
動画の上部に誰かからメッセージが来たことを知らせる通知がきた。ユウカちゃんかもしれないと、慌てて動画を止めた。
「なんだミユか…」
ユウカちゃんではなかったメッセージの主に分かりやすく凹む。
『ユウカちゃんとの練習の日程決めれた?』
ちょうど決まったばかりの事で、さすが!と手を叩きたくなる。
決まったよと返す。スポンと間髪入れずにメッセージが来る。
『明日暇?放課後カフェ行こう』
いつもは直接突然誘ってくるのに、珍しいなと気味悪くなる。とりあえずユウカちゃんの話もしたかったので了承した。
「で?どうしたのミユ」
翌日放課後。
私とミユはいつものカフェにいる。
わざわざ事前に誘ってくるということは、何か用があるんだろうと思い聞いてみた。
ミユはふんぞり返ったまま頷く。
「文化祭、昨日から有志発表の募集が始まったらしいの。それで、私はユキと一緒に歌を披露したいと思ってる。私たち二人で歌いたいの。」
姿勢を少し治して前のめりになったミユを見ながら、それぞれのやりたいことリストを思い出す。そういえばお互い、有志発表で歌いたいと書いていた。
「いいね、一緒にやろうよ」
親友と一緒に出来るなんて夢のようだ。
私は一切の濁りなく了承した。私たちは歌うことがとても好きなので、カラオケにいってデュエットをすることがしばしばあった。
恥ずかしいけど、私は音楽活動をしたいという夢があった。だけどきっとほんのひと握りしか輝けない世界。安定を求める私は、その夢をとっくに諦めていた。
だけどもう先は短いし、音楽活動とまではいかないかもしれないけど、誰かに自分の歌声を届けてみたいと思った。それをミユとできるのはとても心強い。
「それで、やりたい曲があるんだけど」
ミユが携帯をスイスイと指でなぞる。ある程度なぞってからピタッと止めた。これこれ、といって画面をみせてくれた。ミユの画面にはファンファーレという曲が表示されていた。
「これ、私がめっちゃ好きな路上ライブで活動してる人達。聴いたことあると思うけど」
かなりバズった、路上ライブで活動している二人組。二曲目のオリジナル曲だ。メジャーで活動している人達では無いが、本当に多くの人に届いた楽曲なので、高校生は概ね知っているはずだ。
「私自身すごいこの曲に勇気を貰ったっていうのと、残りの人生を全力出して駆け抜けようとしてるユキに凄く重なって、この曲を披露したいと思ったの。」
ミユが見たこともないくらい優しい表情で言った。なんだかすごくむず痒く、でも心がほんのり温まる感覚だった。
「うん、やろう。私もその曲、私の気持ちで届けたい」
私が微笑むと、ミユは満面の笑みで頷いた。そのあとユウカちゃんとの練習日程を伝え、それ以外の休みでミユと練習することになった。
翌日、二人で申し込みをしに行った。
これからもっと色々考えて、自分だけのファンファーレを披露できるんだと思うとワクワクした。
その日から帰りはダンスをする曲とファンファーレの二曲を交互で聴く日々だった。
ユウカちゃんと練習する日にスムーズに覚えられるように雰囲気だけでも掴んでおこうと思ってみていた振り付けは、いつの間にかたどたどしくなら一人で踊れる程になった。
歌は歌詞を手書きして、聴いて感じたこととかこう歌いたいとか、歌っていて感じるポイントとかを書き入れて練習した。ミユと会う日はそれを見せて、二人で捉え方の擦り合わせをした。
「私の目線でこの曲を聴くならなんだけど」
ここ数日考え込んだ私なりの曲の解釈をミユに伝える。ミユは私の歌詞カードを見ながらうんうんと頷いて聞く。
「歌詞にある誰かの決めた幸せっていうのは、私にとっては生きることだと感じて。命の期限が見えた時、別に不幸だなんて思わなかった。むしろ、楽しく生きるための原動力になったから、私はこうなって幸せだったと思ってる。」
ミユの頷きが止まった。表情を見る限りちゃんと聞いてくれてはいるようだが、何かを考え込んでいるようでもあった。
「勝手なレッテルっていう歌詞もめっちゃ分かって。お医者さんとかやっぱり入院しての治療勧めてくるんだけどさ、治療でしんどくなったまま死ぬなら、ギリギリまで自由に生きて死にたいっていうのが私の願いというか幸せで。どういう気持ちで作られたかは分からないけど、私はこの曲を、自分にとっての幸せを強く貫いて歌いたいなって思った。」
私が話終わる頃、ミユはやっぱり何か考え込んだ様子だったけど、でもその隙間に優しい表情も見えた。
「そうだね。私はまだそんなに明確に幸せが分からないから、自分にとっての幸せがなんだろうって考えながら歌いたいかな。」
ミユの少し悲しそうな目に、吸い込まれそうになった。
スポン、と音を立て画面が更新される。
少し前に送った、私のたどたどしいメッセージが上に押し上げられた。
目を見開いてそのメッセージを読む。本当は少し寝かせて駆け引きとかしたいのに、連絡が来た喜びから、待つ余裕なんてなかった。
ユウカちゃんは私の送った候補日の中から、自分と予定の合う日を何日か教えてくれた。
そして最後にかかれたメッセージをみて私はベッドから飛び起きる。
『私もユキちゃんと連絡先交換できてうれしい!』
わーと、心の中の盛り上がりはスタジアムの歓声レベルだった。やった、やった。ユウカちゃんも同じ気持ちだった。
送るか迷ったメッセージ、送ってよかったと胸を撫で下ろし高鳴らせる。そうこうしている間にスポンとまた画面が更新された。
『私いいスタジオ知ってるから、この予定合う日全部予約しちゃっていい?特訓だー!』
普段上品しとやかな印象のユウカちゃんのパワフルさに意外性を感じつつ、何日もユウカちゃんと会えることが確定して舞い上がる。
二つ返事といえるスピードで了承のメッセージを送った。
ある程度振り付け覚えておこうかな。
動画サイトでダンス動画を探す。何となくの流れでも把握できるように繰り返し見ては鏡の前で踊ってみた。
ピロン。
動画の上部に誰かからメッセージが来たことを知らせる通知がきた。ユウカちゃんかもしれないと、慌てて動画を止めた。
「なんだミユか…」
ユウカちゃんではなかったメッセージの主に分かりやすく凹む。
『ユウカちゃんとの練習の日程決めれた?』
ちょうど決まったばかりの事で、さすが!と手を叩きたくなる。
決まったよと返す。スポンと間髪入れずにメッセージが来る。
『明日暇?放課後カフェ行こう』
いつもは直接突然誘ってくるのに、珍しいなと気味悪くなる。とりあえずユウカちゃんの話もしたかったので了承した。
「で?どうしたのミユ」
翌日放課後。
私とミユはいつものカフェにいる。
わざわざ事前に誘ってくるということは、何か用があるんだろうと思い聞いてみた。
ミユはふんぞり返ったまま頷く。
「文化祭、昨日から有志発表の募集が始まったらしいの。それで、私はユキと一緒に歌を披露したいと思ってる。私たち二人で歌いたいの。」
姿勢を少し治して前のめりになったミユを見ながら、それぞれのやりたいことリストを思い出す。そういえばお互い、有志発表で歌いたいと書いていた。
「いいね、一緒にやろうよ」
親友と一緒に出来るなんて夢のようだ。
私は一切の濁りなく了承した。私たちは歌うことがとても好きなので、カラオケにいってデュエットをすることがしばしばあった。
恥ずかしいけど、私は音楽活動をしたいという夢があった。だけどきっとほんのひと握りしか輝けない世界。安定を求める私は、その夢をとっくに諦めていた。
だけどもう先は短いし、音楽活動とまではいかないかもしれないけど、誰かに自分の歌声を届けてみたいと思った。それをミユとできるのはとても心強い。
「それで、やりたい曲があるんだけど」
ミユが携帯をスイスイと指でなぞる。ある程度なぞってからピタッと止めた。これこれ、といって画面をみせてくれた。ミユの画面にはファンファーレという曲が表示されていた。
「これ、私がめっちゃ好きな路上ライブで活動してる人達。聴いたことあると思うけど」
かなりバズった、路上ライブで活動している二人組。二曲目のオリジナル曲だ。メジャーで活動している人達では無いが、本当に多くの人に届いた楽曲なので、高校生は概ね知っているはずだ。
「私自身すごいこの曲に勇気を貰ったっていうのと、残りの人生を全力出して駆け抜けようとしてるユキに凄く重なって、この曲を披露したいと思ったの。」
ミユが見たこともないくらい優しい表情で言った。なんだかすごくむず痒く、でも心がほんのり温まる感覚だった。
「うん、やろう。私もその曲、私の気持ちで届けたい」
私が微笑むと、ミユは満面の笑みで頷いた。そのあとユウカちゃんとの練習日程を伝え、それ以外の休みでミユと練習することになった。
翌日、二人で申し込みをしに行った。
これからもっと色々考えて、自分だけのファンファーレを披露できるんだと思うとワクワクした。
その日から帰りはダンスをする曲とファンファーレの二曲を交互で聴く日々だった。
ユウカちゃんと練習する日にスムーズに覚えられるように雰囲気だけでも掴んでおこうと思ってみていた振り付けは、いつの間にかたどたどしくなら一人で踊れる程になった。
歌は歌詞を手書きして、聴いて感じたこととかこう歌いたいとか、歌っていて感じるポイントとかを書き入れて練習した。ミユと会う日はそれを見せて、二人で捉え方の擦り合わせをした。
「私の目線でこの曲を聴くならなんだけど」
ここ数日考え込んだ私なりの曲の解釈をミユに伝える。ミユは私の歌詞カードを見ながらうんうんと頷いて聞く。
「歌詞にある誰かの決めた幸せっていうのは、私にとっては生きることだと感じて。命の期限が見えた時、別に不幸だなんて思わなかった。むしろ、楽しく生きるための原動力になったから、私はこうなって幸せだったと思ってる。」
ミユの頷きが止まった。表情を見る限りちゃんと聞いてくれてはいるようだが、何かを考え込んでいるようでもあった。
「勝手なレッテルっていう歌詞もめっちゃ分かって。お医者さんとかやっぱり入院しての治療勧めてくるんだけどさ、治療でしんどくなったまま死ぬなら、ギリギリまで自由に生きて死にたいっていうのが私の願いというか幸せで。どういう気持ちで作られたかは分からないけど、私はこの曲を、自分にとっての幸せを強く貫いて歌いたいなって思った。」
私が話終わる頃、ミユはやっぱり何か考え込んだ様子だったけど、でもその隙間に優しい表情も見えた。
「そうだね。私はまだそんなに明確に幸せが分からないから、自分にとっての幸せがなんだろうって考えながら歌いたいかな。」
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