血濡れの美姫~奴隷商人の掌で咲く、氷の薔薇~

ナイトメア・ルア

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プロローグ:血と泥濘のガルヴ

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ガルヴ平原に、朝靄が深く立ち込めていた。

夜明け前の静寂を破るのは、泥濘に埋もれた亡骸を啄むカラスの不吉な鳴き声だけ。昨夜、この地を灼いた血と硝煙の匂いは、冷たい湿気を含んだ空気の中で一層濃厚さを増している。大地は敗者も勝者も区別なく、等しく深紅に染め上げられていた。

奴隷商人、カイル・ラドクリフにとって、この戦場跡は最高の狩場だった。

彼は、貴族の亡骸から金目の装飾品を剥ぎ取り、慣れた手つきで麻袋に放り込んでいく。その灰色の瞳は冷たく、一切の感情を宿さない。彼の真の獲物は、まだ生きていて、精神的に打ち砕かれた、**「価値ある生きた商品」**だけだ。最高の価格がつくのは、高潔な魂を持つ者が屈辱に喘ぎ、その身を屈服させる姿。それが女性、特に騎士や貴族であれば、その価値は天井知らずだ。

カイルは己の経験則に従い、最も激戦の地へと足を進めた。

古びた石橋のたもと。血で染まった土の窪みで、銀色の甲冑を纏った人影が横たわっているのを見つけた。

カイルは息を止めた。

全身を覆う白いマントは泥と血で濡れて重い。甲冑は女性の曲線に合わせて特注されており、背中にはリーゼンベルク王国の紋章が深く刻印されている。そして、右肩から脇腹にかけて、深々と剣が突き刺さった跡があった。

カイルの胸に、一種の冷たい興奮が走った。それは、稀少な獲物を見つけ出したときの、冷酷な商人の本能だった。

彼は音を立てずに剣を鞘から抜き、ゆっくりと獲物に近寄った。

「目を覚ませ、騎士殿。お前は運良く死に損ねたようだ」

カイルの声は静かだが、甲冑の中に届いた。

甲冑の中で微かな動きがあった。長い睫毛が震え、その隙間から透き通るような青い瞳が、カイルを捉える。

アリアナ・フォン・エルトマン。リーゼンベルク王国で**「氷の薔薇」**と謳われた、誇り高き女騎士団長。

彼女は傷の痛みで全身が熱く、視界も定まらないようだった。しかし、目の前の男が、命ではなくその肉体の価値を値踏みしていることだけは、本能的に理解できた。

「下がれ……汚らわしい……」

掠れた声が、気力を振り絞って発せられた。アリアナはわずかに右手を持ち上げ、折れた剣の柄を握ろうとする。

しかし、カイルの動きは速かった。彼女の手首を硬いブーツの底で踏みつけた。

「抵抗は無駄だ。その傷で、満足に息もできまい」

カイルはアリアナの顔を覗き込む。泥に塗れてはいるが、彼女の髪はまるで月の光を溶かしたような白銀(プラチナ)の輝きを放ち、その青い瞳は、冷たい湖面のような高潔な美しさを保っていた。この相貌は、市場で最高額をつけられるに違いない。

「お前はもう騎士ではない。ただの……商品だ」

カイルはそう宣告し、手早く甲冑を解体し始めた。

金属製のベルトを外し、胸当てを緩める。甲冑の重圧から解放されるにつれ、そこに隠されていた、鍛え抜かれながらも女性的な柔らかな曲線が露わになっていく。脇腹の傷から流れた血が、彼女の肌の白さを際立たせていた。

アリアナは悲鳴を上げようとした。口から出たのは、激しい咳と、血の混じった嗚咽だけだった。

「やめろ……汚物め!触れるな!」

カイルは表情一つ変えない。胸当てを剥がし終え、下に着ていたインナーが露わになる。汗と血と泥で濡れた下着が豊満な胸と引き締まった腹部に張り付き、彼女の肉体的な魅力を強調していた。カイルは冷酷な目で彼女の肢体を値踏みする。

「悪くない。最高の肌だ。これならば、高く売れる」

カイルは甲冑から抜き取った分厚い革紐を取り出し、冷たい声音で告げた。

「だが、逃げられては困る。騎士殿、少し手足を縛らせてもらうぞ」

カイルはアリアナの手首と足首を、手早く、そして逃げられないが、血行を妨げない絶妙な力加減で結びつけた。白銀の髪が泥に散らばり、彼女の青い瞳は恐怖と屈辱で大きく見開かれていた。その高貴な美貌が、今、奴隷商人の掌の上で、泥に塗れて喘いでいる。この光景こそが、カイルにとって最高の価値だった。

「騎士の誇り? それはな、俺の市場では何の価値もない。だが、その誇りが砕かれ、その身を屈辱に晒す姿は、金になる」

カイルはアリアナの濡れた顎に指を這わせ、冷たい笑みを浮かべた。

「安心しろ。上客に届くまで、俺はお前を汚さずに守ってやる。だが、その代わりに、お前の自由と魂は、全て俺のモノだ」

アリアナは抵抗の言葉を失った。カイルの指は、彼女の熱を持つ肌の上で、氷のように冷たかった。それは、勝利者と敗北者、支配者と奴隷という、二人の絶対的な立場の差を明確に示した。

カイルは、己の最高の商品であるアリアナを担ぎ上げ、馬車へと続く道を踏みしめた。泥濘の戦場跡を後にしながら、彼の心は既に、新たな富と、目の前の**「氷の薔薇」をどう咲かせて、どう貪るか**という快楽的な計画で満たされていた。

ガルヴの戦いは終わった。しかしこの瞬間、【血濡れの美姫】アリアナ・フォン・エルトマンの、真の戦いと転落の物語が始まったのである。
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