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第一章:焔に刻まれた予言
第十一話:呪縛の森と黒き魔導書
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カイルは息を切らせながら、森の奥へと駆け込んだ。湿った腐葉土の匂いが鼻腔を満たし、背後からは亡霊の剣が幹を叩き割る鈍い音が響く。
だがその追撃音が徐々に遠ざかっていくことに気付いた瞬間、カイルは不自然な静寂に足を止めた。
……音が、消えた。
まるで森全体が息を潜め、彼の動きを見守っているかのようだった。耳を澄ますと、先ほどまで聞こえていた詠唱の声が再び現れる。今度はもっと近い。低く、湿った声が、どこか血の匂いを孕んでいた。
「来たか……忌まれし契約の継承者よ」
声の主は闇の中から現れた。全身を漆黒のローブで覆い、顔は仮面に隠されている。手には分厚い古書――その表紙には銀の鎖と、蛇が己の尾を喰らう紋章が刻まれていた。
カイルは短剣を構えたまま、一歩も動かず相手を睨む。
「誰だ。あの亡霊を止めたのは……お前か?」
「止めた? 違うな。あれはお前の罪の影。完全に消えることはない。……だが、契約を交わせば、今だけは封じてやろう」
仮面の下から覗く口元が、歪んだ笑みを浮かべる。その瞬間、カイルの全身を見えない鎖が絡みつくような圧迫感が包み込んだ。呼吸が重くなり、指先が震える。
それでもカイルは剣先を向けたまま吐き捨てる。
「契約? ふざけるな……俺はお前の操り人形になる気はない」
「操る? 違う。お前の“記憶”を差し出せばいいのだ。その代償として、望む力を与えよう」
記憶――その言葉に、カイルの胸が強く脈打つ。亡霊の胸に刻まれていた王国の紋章。見捨てた仲間たちの叫び。それらを消せるなら……。
だが同時に、記憶を失うということは、自分自身の一部を殺すことと同義でもある。
ローブの男はゆっくりと魔導書を開き、血のように赤い文字が空中へ浮かび上がった。
「選べ。時間はない。あの亡霊はすぐにここを嗅ぎつける」
森の奥から再び響く、甲冑の擦れる音。遠くで木が倒れる重い衝撃音。亡霊は確実に迫ってきている。
カイルの喉が乾き、心臓が耳の奥で鼓動を打ち続ける。選択を誤れば、ここで全てが終わる。
……記憶を捨てて、生き延びるか。
……記憶を守り、死と向き合うか。
カイルは短剣を収め、男の差し出す魔導書に手をかけた。赤い光が一瞬で彼の腕を這い上がり、視界が白く染まる。
その直後、亡霊が森を切り裂いて現れた――だが、その足が境界線のような赤い紋章に触れた瞬間、灰のように崩れ落ちる。
「契約は成された。お前は……もう、元のカイルではない」
男の言葉と共に、カイルの中で何かが静かに崩れ落ちた。残ったのは、力と――説明のつかない虚無だけだった。
だがその追撃音が徐々に遠ざかっていくことに気付いた瞬間、カイルは不自然な静寂に足を止めた。
……音が、消えた。
まるで森全体が息を潜め、彼の動きを見守っているかのようだった。耳を澄ますと、先ほどまで聞こえていた詠唱の声が再び現れる。今度はもっと近い。低く、湿った声が、どこか血の匂いを孕んでいた。
「来たか……忌まれし契約の継承者よ」
声の主は闇の中から現れた。全身を漆黒のローブで覆い、顔は仮面に隠されている。手には分厚い古書――その表紙には銀の鎖と、蛇が己の尾を喰らう紋章が刻まれていた。
カイルは短剣を構えたまま、一歩も動かず相手を睨む。
「誰だ。あの亡霊を止めたのは……お前か?」
「止めた? 違うな。あれはお前の罪の影。完全に消えることはない。……だが、契約を交わせば、今だけは封じてやろう」
仮面の下から覗く口元が、歪んだ笑みを浮かべる。その瞬間、カイルの全身を見えない鎖が絡みつくような圧迫感が包み込んだ。呼吸が重くなり、指先が震える。
それでもカイルは剣先を向けたまま吐き捨てる。
「契約? ふざけるな……俺はお前の操り人形になる気はない」
「操る? 違う。お前の“記憶”を差し出せばいいのだ。その代償として、望む力を与えよう」
記憶――その言葉に、カイルの胸が強く脈打つ。亡霊の胸に刻まれていた王国の紋章。見捨てた仲間たちの叫び。それらを消せるなら……。
だが同時に、記憶を失うということは、自分自身の一部を殺すことと同義でもある。
ローブの男はゆっくりと魔導書を開き、血のように赤い文字が空中へ浮かび上がった。
「選べ。時間はない。あの亡霊はすぐにここを嗅ぎつける」
森の奥から再び響く、甲冑の擦れる音。遠くで木が倒れる重い衝撃音。亡霊は確実に迫ってきている。
カイルの喉が乾き、心臓が耳の奥で鼓動を打ち続ける。選択を誤れば、ここで全てが終わる。
……記憶を捨てて、生き延びるか。
……記憶を守り、死と向き合うか。
カイルは短剣を収め、男の差し出す魔導書に手をかけた。赤い光が一瞬で彼の腕を這い上がり、視界が白く染まる。
その直後、亡霊が森を切り裂いて現れた――だが、その足が境界線のような赤い紋章に触れた瞬間、灰のように崩れ落ちる。
「契約は成された。お前は……もう、元のカイルではない」
男の言葉と共に、カイルの中で何かが静かに崩れ落ちた。残ったのは、力と――説明のつかない虚無だけだった。
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