契約葬域〈ネクロ・ドミナス〉 —血と誓いが死を招く、黄昏の幻想譚—

ナイトメア・ルア

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第一章:焔に刻まれた予言

第十三話:影を喰らう刃と、沈黙の契約者

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湿り気を帯びた冷気が肺の奥まで染み込む。足元の石畳は苔に覆われ、踏みしめるたびにじゅくりと水を吸い上げる音を立てた。
リセルとルカは、先ほど現れた漆黒の外套の人物を前に、息を呑む。

その男は、亡霊の剣を受け止めたまま微動だにしない。外套の裾が微かに揺れるたび、闇がそこに吸い込まれていくように見えた。
「……お前は誰だ」リセルの声は鋼のように硬い。
「名は捨てた。呼びたければ、ただの“契約者”とでも」低く響く声が、回廊に重く沈む。

亡霊は言葉を発さない。代わりに剣を押し返し、外套の男に連撃を浴びせる。空を裂く金属音が何度も反響し、石壁から石片が飛び散った。
だが男は、一歩も退かない。
その剣――黒い光を帯びた双刃――が振るわれるたび、亡霊の輪郭が歪み、形を保てなくなる。

ルカはその光景を見ながら、壁の古代語を必死に読み解いていた。指で文字をなぞり、口の中で呪文を繰り返す。
だが文中には“契約の権能”という言葉があり、その意味がわからない。
「……契約の権能? 何のことだ……」
ルカの呟きに、外套の男が片手を挙げた。
「それは、この場で血を流す者だけが行使できる。選べ――生き延びたいなら、血を捧げろ」

リセルが振り向く。「ふざけるな! そんな条件――」
しかし、その瞬間亡霊の剣が脇から突き込まれ、リセルの鎧を裂いた。鮮血が飛び散り、熱が冷気に奪われていく。
「――ッ!」
傷口から流れた血が、足元の刻印に染み込み、赤黒く脈動を始めた。

亡霊が咆哮を上げる。耳障りな金属音と低い唸りが混ざったような声。
ルカは恐怖で足がすくむが、それでも呪文を途切れさせなかった。
「リセル、耐えてくれ! あと少しだ!」

だが亡霊はルカを狙い、一直線に踏み込む。外套の男がそれを迎え撃つが、亡霊は体を霞のようにすり抜け、背後からルカに迫る。
その刹那――
リセルが倒れ込みながらも腕を伸ばし、亡霊の脚を絡め取った。亡霊は一瞬バランスを崩し、霧が乱れる。

「今だ!」外套の男の声が響き、黒い刃が亡霊の首を貫いた。
刃が通った瞬間、亡霊は爆ぜるように霧散し、回廊は再び沈黙に包まれた。

リセルは荒い息をつき、膝をつく。ルカは駆け寄り、布で傷口を押さえる。
「……助かったのか?」
外套の男は首を横に振った。
「今倒したのは“影”だ。本体は、契約の間で待っている」

男は剣を鞘に収め、ゆっくりとこちらを見た。
「お前たちは既に、この場の契約に足を踏み入れた。血は捧げられた。あとは――魂だ」
その言葉に、ルカの顔色が失われる。リセルは薄れゆく意識の中で、男の瞳が燃えるような赤に染まっているのを見た。

次に目を開けた時、二人は見知らぬ広間に立っていた。壁一面に鏡のような水面が張り付き、そこには無数の自分たちの姿が映っている。
だが、その中の一人だけ――目の色も、表情も、全く違う“もう一人”が、じっとこちらを見返していた。

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