銀のリボンを結んで

吉岡果音

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境界

変異体

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 少し開けた場所に出た。ミルゼがギルウから降りた。


「私の調べでは、この先にキノコの群生地があるようです。そこの藪を抜けたらすぐだと思いますので、歩いて行きましょう」


 その言葉が通じたかのように、ギルウたちはゆっくりと草をはみ始めた。


「ギルウちゃん、いい子で待っててな」


 またディゼムがギルウの頭をわしわしした。


「さて、凛子」


 ミルゼが凛子のもとへ近づく。


「目を、貸してください」


「えっ?」


「私の力で、凛子の見えたものを短時間ですが、みんなで共有できるようにします」


「それがミルゼの力……。でも、いったいどうやって?」


「手をつないでください」


 凛子の右手をミルゼが握る。


 ――わ。ミルゼの手……。少し……、冷たい。


 どきどきして、凛子の手は熱くなっていた。


 ――手を握るって、こんなにどきどきするんだ――。


「リールもディゼムもつないでください。皆で円になります」


「じゃあ凛子の左手を私が。凛子の手、あったかいね」


 リールに言われ、凛子はどきっとする――。


 ――リールに、どきどきがばれちゃったかな。ミルゼにも……、ばれちゃったらどうしよう――。


 ますます手が、顔が熱くなる。

 リールの左手を、がしっとディゼムが握った。


「ちょっと、ディゼム! ひとの手をクマみたいに乱暴に握らないでよ!」


「クマに手を握られたことあんのかよ!?」


 リールの頬はほのかに赤く染まっていた。照れ隠しであるのは一目瞭然だったが、ディゼムは気が付かないようだった。最後にディゼムとミルゼが手を握る。

 ミルゼは銀の瞳を閉じた。


「では……。『同調』! 我らは凛子の目を借り、見えなきものを見、隠れしものを見る!」


 ミルゼの声と共に、一瞬辺りが光に包まれた。風が通り抜け、美しい鈴の音が聞こえた気がしたが、ほんのひとときの出来事で、そのあとは森の静寂に染まった。


「これで……、大丈夫なの?」


 おそるおそる凛子が尋ねた。


「はい。大丈夫です」


 ――でも、本当に、私の目で見えるんだろうか――。


 もしも、自分に「見る力」がなかったら、そのせいで皆を危険に晒してしまうのではないか――。凛子は皆の安全が気掛かりだった。いつの間にか自分のことよりも――。


「そんな心配そうな顔しないで。大丈夫よ。自分の力を、それから私たちの力を信じて」


 凛子の不安を見透かすようにリールが声をかけ、凛子の頭をぽんぽんとたたく。リールの落ち着いたハスキーな声は、凛子の胸の奥底まですうっと染みわたっていくような気がした。


 ――そうだ。疑ってばかりいないで、信じなくちゃ。行動してみなくちゃ。


 凛子は力強く一歩踏み出した。

 藪の中をかき分けて進む。ミルゼの言った通り、すぐにまた開けた場所に出た。


「な……、なにこれ!」


 そこには、一面ぼんやりと発光するキノコが群生していた。軸の部分が細く長く、傘の部分は、雨傘が少し開いたというような感じの形をしていた。上の方が濃い紫で、下にいくほど薄い紫色をしている。そしてそれらのキノコの奥には――。巨大な漆黒のドラゴンが横たわり、目を閉じていた。固い鱗に覆われ、恐竜に翼が生えたようなその姿は、凛子が本や映画やゲームなどで見たドラゴンそのものだった。


「うわ! こいつはデカいな! 色も……、こいつはまさか……」


 ディゼムが思わず声をあげる。


「変異……、体!?」


 リールが声を震わす。


「えっ!? 『へんいたい』って!?」


「脱皮の時期が通常より早く、もうすっかり完成体となっている――。突然変異の個体です! これはまずい!」


 ミルゼが叫ぶと同時に、ドラゴンが黄金の瞳を開け、漆黒の巨大な翼を広げた。風圧でキノコが一斉に揺れる。


「ちっ!」


 ディゼムが構えると、空中から光の結晶でできたクロスボウのようなものが出現した。そのクロスボウは実在する物質ではない。ディゼムの魔力による武器だった。


 ゴウウウウウウウッ!


 リールが口から炎を吐いた。炎は渦を巻き柱のようになり、まっすぐドラゴンへ向かう――。同時にドラゴンが氷の柱を吐く。炎と氷は猛烈な勢いでぶつかり合う。ディゼムがドラゴンめがけて光る矢を放つ。ドラゴンはかわしながら宙を飛ぶ。


「スピードが通常のドラゴンと違う! 桁違いだ!」


 凜子を守るように立つミルゼの上空にドラゴンが――。そして、一瞬の出来事だった。


「きゃあああああああっ!」


 ドラゴンが凛子をつかみ上げ、空へと――、飛び去る。


「凛子さん!」
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