高火力に転生したけど、コントロールがダメでした

カズキ響ゼツ

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高火力に転生したけど、コントロールがダメでした 1話

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 その日もありふれた朝の事だった。
 ありふれた平凡な中学生だった僕は、ありふれた交通事故で命を落とした。

 僕は自分の血で染まっていく文庫本を呆然と見つめて『ああ、自分は死ぬんだな』とシンプルに思った。

 死後の世界はちょっとだけ信じてたから『生まれ変わるならライトノベルの主人公になりたいな』だなんて考えた。
 重い剣を軽々振りかざして、派手な魔法をバンバン放ってモンスターをやっつける。
 そんな主人公。
 
 こうして、僕の短い生涯は閉じた。




 ――そう、考えていた。




 真っ暗な世界から、真っ白な世界になったかと思えば、よくある神様との超然とした存在の対面も会話もなく、僕は転生していた。
 どうしてそれに気づけたのかと言えば、目の前には知らない天井。
 素朴な木造りの天井が見えたのと、ふくよかな母親らしき女性に自分が抱っこされてるのが分かったからだ。
 体は自由に動かせない。
 なんとか自由になる視界を動かせば、見えたのはあまりに小さな赤ちゃんの手。
 どうもそれが僕の手であるらしいことがわかって、意外とすんなり転生を自覚したんだ。

 それから、父親らしき男性がそばにやってきて、教会で授かった僕の名前は『ハレル』というらしかった。

 本当に自分が新たな生を受けたことを実感すると、次第に僕はわくわくしてきた。
『もしかして、自分は勇者だったりして、この世界は剣と魔法の世界なんだろうか?』って。




 …けど、そうなんでも上手い話はないみたいで。
 僕はありふれた農民の息子らしかった。

 その現実が認識できるようになったのは、十四歳になった頃だ。

 それまでは、目に映るすべてのものが目新しくて楽しかった。
 なにせ、転生したのはまさしく剣と魔法の世界だったのである。
 剣や弓を装備した冒険者がいて、魔法使いもいて、モンスターがいる。
 街に出れば、回復のためのポーションや薬草が売っており、移動の足は自動車でなく馬車だった。
 作り物でない本物の世界に、僕はひたすら感動した。
 父や母は、なんにでも「すごい、すごい!」と繰り返す幼い僕を微笑ましく見ていたものだ。

 だけど目新しい日々も毎日続けは、飽きてきた。
 でも、一方で『もうすぐ自分には特別な力が目覚めて冒険に出かけるんじゃないか?』と密かにわくわくしていた。
 けれども、待てど暮らせどそんな気配は一向に訪れず……
『あれ? もしかして自分、単なる一般市民じゃね?』と、昼食の豆のスープを食べている最中に気が付いた。

 非常にがっかりした。

 いや、確かに毎日が平穏で生命がおびやかされず、食べるにも困らず、仕事があり暮らしていける。
 その事実は、素晴らしいことなはずで。
 とても尊いことであるはずだった。

 だけど、やっぱり……
「……勇者とか、なりたかったなぁ……」
 僕は手のひらにトクベツな証である紋章とか浮かんでこないだろうか?
 とありもしない期待を込めて眺めては毎日を過ごしていた。



 この日は、街で開かれる朝市に収穫した野菜を売りに行った帰りのことだった。
 村に帰ってくると、大人たちが数人、難しそうな顔をして何かを話し合っていた。
 その中に自分の父親の姿を見つけ話しかける。
「父さん! ただいま、なにかあったの?」
「おお、ハレルかお帰り。
 それが、またイノシシが村の近くに出たんだ」
「ああ、村はずれのヤコブの畑がやられたらしくてな。
 罠をしかけるべきかギルドに討伐を依頼するかどうか話し合ってたんだ」
「金属のトラバサミはダメだ。
 あれは盗んで売り飛ばす悪い奴が出る」
「そ、そっか大変だね……」
 僕は大人たちの愚痴大会がはじまりそうな気配に少し怯む。
「こら! ハレル! 大変だねだなんて他人事じゃないんだぞ?
 今日から畑の見回り頻度を増やすからお前も手伝うんだ」
「うん……わかった」
 親に叱られてしまったので少々ヘコみながら僕はうなづいた。

『こういう時、魔法が使えたら簡単に追い払えるのになー』
 と、現実を知った今でもやっぱり夢想してしまった。

「た、たいへんだーッ! 魔猪がでたーッ!!」
 そこへ、大声を上げながら走ってきたのは、マタイという村の青年だ。
 そして、大人たちは【魔猪】という言葉に殺気立った。
「マタイ、どこに出たんだ?!」
「北だ! ヤコブじいさんの畑の向こうからだ!
 すごい勢いで走って来てるッ!!」
 ぜいぜいと肩で息をしながらもマタイは、はっきりと答えた。
 魔猪とは、普通のイノシシと違って牙が鋭く、体力もものすごく高く、そして体も倍以上大きいのだ。
 通常ならダンジョンの浅い階層を住処にして、奥深い森なんかに出現するものらしいと、
野菜を買いに来た冒険者から聞いたことがある。
 クワやスキを構えた村人には手に余る相手だ。
 だとしたら、出来ることといったら逃げることだけ!
 そして瞬時に父さんはやるべきこと判断した。
「ハレル! 家の中に避難するよう、急いで村中に知らせろ!」
「う、うん、わかった……!」
 父さんに肩を叩かれ、僕は走り出す。
 正直僕もすぐに避難したかったけれど、農村で働き手である若い男である以上、
こういった村の自治に無関係ではいられない。
「魔猪がでたぞー! 家の中に隠れろーッ!!」
 大声を出しなれてない肺で、一生懸命に叫ぶ。
 外で赤ん坊を子守していた女性が乳母車を放置して慌てて家の中に入る。
 日向ぼっこをしていた耳の遠いお爺さんを孫が必死に、家の中へ押し込めている。
 僕は走りながら同じ文言を繰り返し、村人たちを避難させ続けた。
 しかし、それも長く続かず、すぐにヘトヘトになって立ち止まってしまう。
「ま、魔猪がー……げほげほっ」
 むせていたらドドドドドドッ、と地響きのような足音が近づいてきた。
 場所はちょうどトマスおじさんの畑のそばだ。
「やばっ」
 逃げなければ。
 と思う。
 けれども、足がうごかない。
 バキッ とその牙で木製の柵をへし折るのが見える。
 魔猪と目が合う。
 魔猪の怒気を孕んだ視線が間違いなく僕をとらえていた。
『あ、マズイ、死ぬ……!』
 直感した。
 突進されただけで、間違いなく僕は死ぬ。
『そんな前の人生も十四までだったのにッ?!』
 僕は真っ蒼になりながら、じりじりと後ずさる。
『ああ、こんな時に――特別な力に目覚めてくれれば――』
 こんな時までありもしない可能性を求めてしまう。
 魔猪が助走をつけて突進してる。
 血まみれになった自分を予想して、僕は叫ぶ。

「うああああああああッ?!」

 意味もなく両手で宙を掻いたのだと思う。
 ごぉうっ!!
 何が起きたのかわからない。
 急に目の前が真っ赤になって熱かった気がする。
 目がくらんでどうなったのか見えない。

「あああああ――ひぃっ、ひぃっ……?!」

 何時までたっても訪れない痛みに僕は戸惑った。
 そして、自分がきつく目を閉じていたことに気が付いて、ゆっくりと目を開くと――

 丸焦げになった魔猪がしゅうしゅうと煙を噴き出して目の前に転がっていた。

「うあああああああッ?!」

 僕は再び悲鳴を上げて、腰を抜かし尻もちをついた。
 その拍子に片手をついたはずが、ガクンと上体が倒れてしまった。
 僕は何が何だか分からなくなって、ひたすら手足をばたばたさせた。
 その一方、頭の奥で冷静に考える。
『誰か魔法で助けてくれた?』
 あたりをキョロキョロするがそれらしい誰かは見当たらない。
 なら、目の前の魔猪の丸焼きは一体なんなのか?
『こんな一瞬で丸焼きにできるなんて、魔法でしかありえない…!
 なら、その魔法を放ったのは――』
「――僕?」
 その可能性におそるおそる自分の右手を見て……

「ひぃッ?!」

 僕は血の気が引いて悲鳴を上げた。
 右手の先が黒焦げになって、しかも欠けていた。
 左手は欠けてこそいないがこちらも黒焦げ。
 痛いとか熱いとかの感覚が――ない。
 煤で汚れているとかでもない。
 間違いなく両手が炭になっていたのだ。
「うああああああああぁッ!!」
 僕はこの日何度目かわからない叫び声をあげる。

『そんな、あんまりだ!
 せっかく目覚めたトクベツな力の結果がこんななんて……!』

 僕はどうにかしたらもとに戻るんじゃないか? と両手を交互に見る。
「そうだよ、火が出せたんなら、治すのだって楽勝だろ? なぁ?」
 誰か相手がいるわけでもないのに話しかけてしまう。
『いやだ、いやだ、いやだ!
 こんな風に両手がなくなるなんていやだ!』
 それから必死に祈る。
『そうだ、治れ!
 元通りに治れ! 治れ! 治れ! 治れ! 治れ!』
 目を閉じ、必死に念じる。
 そうしているうちに誰かが駆け寄ってくる足音がした。
「どうしたハレルッ?! これは……魔猪か? おい、ハレル!
 一体何があったハレル?!」
「なおれ、なおれ、なおれ、なおれ、なおれ、なおれ、なおれ……!」
 僕は父さんに肩をつかまれ揺さぶられても、そう念じ続けた。
「おい、ハレル! しっかりしろっ!」
「あっ……と、父さん???」
 父さんに頬をはたかれ、我に返る。
「一体何があったんだ? どうして、魔猪が丸焦げになってるんだ?
 もしかして、お前が――」

「お前がやったのかッ?!」
「……へっ?」

 突然、トマスおじさんに怒られた。
 トマスおじさんは丸焼きの魔猪……いや、丸焦げになった畑を指さしカンカンに怒っている。
 僕は自分が怒られているのは分かったけれど、どうして怒られているのかまるでわからず、
呆然と父さんにはたかれた頬に右手を当てていた。

 そう、炭化して欠けていたハズの右手は、治っていたのだ。
 

つづく
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