黄泉がえり陽炎姫は最恐魔王に溺愛される

彪雅にこ

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9.陽炎姫の刺繍-③

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 ヨアンは、午前に剣術や体術の鍛錬、午後に読書と魔術の研鑽を日課としていて、フェリシアが来てからはいつも読書の時間に誘ってくれていた。
 毎日のヨアンとの読書の時間は、フェリシアにとって大切な時間になっている。ただそれぞれ思い思いの本を読むだけなのだが、あの居心地の良い図書室でヨアンとその時間を共有するのは、不思議と心が満たされる思いがする。
 テーブルを挟んだ向かいにヨアンが座り、一緒に読書をしているというだけで、深い安心感に包まれるのだ。読書の合間にフェリシアがお菓子を用意してお茶を入れるのも習慣化していた。
 再び剣を振り始めたヨアンを少し眺めた後、フェリシアは城内に戻った。

 自室のテーブルに先程のデザイン画を並べ、ハンカチを持つヨアンの長い指を想像して考え込む。
 どのデザインが映えるだろう。どのデザインが、ヨアンが纏うあの気高さを引き立てられるだろう。
(これと…これ。それからこれも…)
 いくつかのデザインを選び取り、早速作業を開始した。ヨアンを思いながら、針を刺していく。

――コンコンコン。
 ノックの音にはっとして顔を上げる。時計を見ると、いつの間にか昼食の時間になっていた。
「フェリシア様、昼食の準備が整いました」
 ユーゴの穏やかな声。フェリシアは慌てて立ち上がった。いつもなら時間より少し前に階下に降りてユーゴを手伝っていたのに、没頭しすぎて時間を忘れてしまった。
「すみません。熱中しすぎてしまったようで、失礼いたしました。すぐに参ります」
「大丈夫ですよ。ヨアン様より、ゆっくりでかまわない、とのことです」

 一枚は刺繍が完成している。フェリシアはその一枚を持って部屋を出た。
「お待たせしてしまい申し訳ございません」
 部屋の外で待っていたユーゴに詫びる。
「急かしてしまったようですね。失礼いたしました。――もう一枚完成されたのですか?」
 フェリシアの手元に目をやり、ユーゴが驚く。
「ええ。刺繍を始めるとついつい没頭してしまう癖がございまして…」
 ユーゴが厳選した質の良いハンカチに見合う刺繍になっているだろうか。フェリシアは少し不安になった。
「そちらも大変美しいですね。ヨアン様も喜ばれることでしょう」
 感心したように頷くユーゴを見て、フェリシアは胸を撫で下ろす。
「そうだといいのですが…」
「大丈夫です。必ず気に入られますよ」
 にっこりと笑ったユーゴとともに、ダイニングルームに向かった。
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