黄泉がえり陽炎姫は最恐魔王に溺愛される

彪雅にこ

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9.陽炎姫の刺繍-⑤

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 考え込むフェリシアに、ヨアンは言った。
「それと、実は癒しの力を感じたのはハンカチだけじゃない。フェリシアが作るお菓子もだ。口にすると身体の中から癒されていくのを感じる」
「え?お菓子にもですか?」
 ヨアンの言葉に、ダイニングの入り口付近に立っていたユーゴも頷いている。いつもユーゴにもお菓子を振る舞っているため、その効果に彼も気づいていたようだ。
 自分でも知らぬうちにそのようなことになっているとは。最早驚きを通り越して戸惑いすら感じる。
 ヨアンが穏やかな笑みを浮かべ、フェリシアの肩に手を置いた。
「フェリシアの人を思いやる心が、その気持ちを向けた相手に伝わるのだと考えればいい。思いやりに溢れるフェリシアだからこそ、成しえた魔術だろう。そんな気持ちを向けてもらえたことが、俺は光栄だ」

 今まで自分に備わった僅かな魔力は、一体何のためにあるのだろうと無力感しかなかった。しかし、その力で少年時代のヨアンを癒やすことができた。そして微々たるものとはいえ、今また感謝の気持ちが伝わる程度には役に立っている。
 助けてもらってばかりだと感じていたヨアンに心ばかりの恩返しができているようで、フェリシアは初めて自分に魔力があったことを喜ばしく思えた。

(私にも、やれることがある…)
 差し出がましいかもしれない。調子に乗るなと思われるかもしれない。それでも…。いや、ヨアンならそんなことは絶対に思わない。胸の前でぎゅっと手を握りしめ、勇気を振り絞る。
「あの、ハンカチ以外にも…、たとえば、タオルやピローカバーなどの身の回りのものに、少しずつ刺繍を入れさせていただけないでしょうか?邪魔にならないよう、目立たないようなデザインにしますので…。どうか、お願いいたします」
 許されるなら、どんなに些細なことであっても、ヨアンの役に立ちたい。フェリシアの真剣な表情と震える指先からその気持ちを感じ取ったヨアンが、フェリシアの気持ちを包み込むような優しい表情で頷いた。
「もちろんだ。フェリシアをいつでも感じていられるなら、そんな嬉しいことはない。でも、重ねて言うが無理は絶対にするな。俺が、フェリシアにこの城にいてほしいと望んで、ここにいてもらっているのだということを、忘れないでくれ」

 フェリシアは自分の思いが、願いが伝わったことに深く安堵して微笑んだ。
「はい、ヨアン様。本当にありがとうございます」
「ああ。――さあ、昼食にしよう。あまり遅くなると午後のお茶の時間が押してしまう。今日のお菓子は何を用意してくれたんだ?」
「本日はシブーストをご用意しています」
「いいな。シブーストも大好きだ。お茶の時間が楽しみだ」
 その美貌を無邪気に輝かせるヨアンに、皿を運んできたユーゴが苦笑しながら釘を刺す。
「ヨアン様、まずはきちんと昼食を取ってくださいよ」
「わかってるよ」
 三人で顔を見合わせ笑い合う。昼食の時間は穏やかに過ぎていった。
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