黄泉がえり陽炎姫は最恐魔王に溺愛される

彪雅にこ

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10.魔王は陽炎姫に酔う〈side ヨアン〉-①

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(フェリシアの可愛さは一体どうなっているんだ…。こんなに幸せでいいのか?もうすぐ俺は死ぬのか?)
 深夜、塔へと続く螺旋階段を上りながら、ヨアンは感慨に耽っていた。

 フェリシアがこの城に来て早一月。
 最初にカヌレを焼いてくれて以来、毎日自分のためにお菓子を作ってくれている。ハンカチをはじめ、ヨアンの持ち物にはフェリシアが刺繡を施したものが増えた。今着ている黒色のシャツの裾にも、藍色のナイトローブの胸元にも、ヨアンが気に入ったと言った金糸が混ざった金青色の糸で小さく薔薇の印章が縫い取られている。
 ヨアンの衣類はほとんどが黒を基調とした暗い色ばかりだが、フェリシアはあえて同系色の糸を使うことで、刺繍が目立ちすぎないように気を配ってくれているようだった。

 ヨアンとしてはフェリシアが施してくれた刺繍ならこれ見よがしに見せびらかしたいくらいだが、フェリシアは自分が表立つことを望まない。控えめなフェリシアらしい配慮だった。
(まあ、フェリシアはそこにいるだけで人の目を惹いてしまうがな…)
 その天国的な美貌と溢れ出る気品。口を開けば繊細で透き通るような迦陵頻伽で知性ある言葉を紡ぐ。
(そのうえ人の痛みに寄り添うことができるあの優しさと穢れのない心。誰もが一目でフェリシアに心酔してしまうのも無理はない)
 フェリシアへの気持ちが溢れ出し、ヨアンはぐっと胸に手を当てた。

 フェリシアが手掛けたものにはいつも癒しの力が宿っていて、お菓子ならば口にするだけで、刺繍されたものならば持っているだけで身体も心もほんのりと温かくなり、癒されていくのを感じる。まるで、フェリシアがいつも寄り添っていてくれるかのように。
 鍛錬後も疲れを感じることがほとんどなくなり、体力が向上しているのを実感していた。

 フェリシアが自分の城にいるだけでも信じられないほどの幸福をもたらしてくれているのに、そのうえ自分のために何かをしてくれるなんて、覚めない夢の中にでも閉じ込められているのではないだろうか。

 フェリシアは身の回りのこともすべて自分でこなし、ユーゴの手伝いも進んで行う。ユーゴも最初は主人の客人である侯爵令嬢に家事の手伝いをさせるなど、と遠慮していたが、ある程度何かを任せた方がフェリシアが心情的に楽になることを悟って、あえて細々とした仕事をお願いしているようだ。
 主人の気持ちに敏いユーゴは、特にヨアンの身の回りの世話をフェリシアに任せることが多く、ヨアンが鍛錬をしているといつも、フェリシアが冷たい飲み物とタオルを用意してくれていた。
 図書室で一緒に読書をする時間にも、お菓子を用意して美味しいお茶を入れてくれる。二人で過ごすその時間は、ヨアンにとって至福のひと時だった。

 初めて森に連れて行った時にはとても喜んだので、その後も天気が良く、フェリシアが用意してくれるお菓子が外でも食べやすいものの日を選んで、何度か森に出かけていた。美しい景色に目を輝かせたり、無邪気に動物と戯れたりするフェリシアは、抱きしめたくなる衝動を抑えるのが難しいほど愛らしい。

(何でもできることは知っていたが、侯爵令嬢なのに家事も厭わないなんて。お菓子作りの腕も、刺繍の腕も職人並だ。気遣いもできるし、そこにいるだけで癒しをくれる。守護魔術を自然に会得していたのにも驚かされたし…。非の打ち所がないとはまさにこのこと。さすがフェリシアだ)
 自分のことのように誇らしい気持ちになりながら、塔の最上階に足を踏み入れた。
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