39 / 111
10.魔王は陽炎姫に酔う〈side ヨアン〉-②
しおりを挟む
最上階には小さな部屋があり、毎夜ヨアンはここで国を守る結界に力を注いでいた。
正直、国の行く末などヨアンにはどうでもいいことだったが、フェリシアが暮らす国を守ると思えば、俄然やる気が湧く。そうして10年以上もの間、この日課を続けてきた。
胸に抱くのは、いつでもフェリシアのこと。すべては、フェリシアを守るために。
窓を開けると、すうっと夜の冷たい風が流れ込んでくる。遠くの空が一部分だけ少し明るい。王都の明りだ。過去の自分が捨てられ、捨てた場所。
ヨアンは目を閉じて、国全体を覆う結界に意識を集中した。
ひんやりとした夜の空気が身体を包み込み、魔力を研ぎ澄ましていくのを感じる。結界をより強固なものにするイメージを頭の中で描き、魔力を送り込む。
魔力を消費すると、体力もかなり消耗する。日々の鍛錬で鍛え上げているため、この日課くらいは何ともないが、それでも疲れが蓄積すれば支障が出ることもある。だが、フェリシアが城に来て以来、そうした心配は皆無だった。フェリシアのお菓子と刺繍のおかげだろう。フェリシアは自分の魔力は微々たるものだと言うが、どうやらヨアンに対してフェリシアの癒やしの力は相当に相性が良いらしい。
(フェリシアはすべてにおいて女神だ。あんなに美しく愛おしく、心を温かく満たしてくれるというのに、そのうえ俺の身体も癒してくれるなんて。フェリシアのために、もっと強くなりたい。今日より明日、明日より明後日。フェリシアに害成すものすべてから守れる力を身につけるのだ)
ヨアンはぎゅっと眉間に力を込めた。
フェリシアは、どうやらヨアンが自分に恩義を感じているために自分のことを守ろうとしてくれていると思い込んでいるようだが、ヨアンがフェリシアに抱いている感情は、明らかに恋慕だ。
フェリシアに救われた当初のそれは、ただ純粋な感謝と恩義だったように思う。まあ、今となればそれも怪しいところではあるが…。もしかしたら、彼女に救われたとわかった瞬間にはすでに、ヨアンは恋に落ちていたのかもしれない。
ともかく、受けた恩を返したいという強い思いから、使い魔を通してフェリシアの成長を見守るうち、その感情は確固たる恋へ、そして愛へと変わっていった。フェリシアの清らかな心根と、何事に対しても真摯に向き合う姿勢、他者への優しさ。すべてが恋に落ちるには十分過ぎた。もちろん、見た目の完璧なまでの美しさは言葉にするまでもない。
ヨアンがそんな自分の思いを確信したのは、フェリシアが甥アレクシスの婚約者になった時だ。
当時フェリシアは8歳、ヨアンは15歳だった。自分より7歳も年下の少女にそんな感情を抱いていると気づいた時には、正直自分に嫌悪感を抱いたが、愛しく思う気持ちはどうにもならなかった。だが、フェリシアとアレクシスの婚約は決定事項。ヨアンは恋心を自覚すると同時に、その思いを封印しなければならなかった。
それでも、もとよりフェリシアの前に再び姿を現そうとなど考えてもいなかったヨアンが取った行動は、変わらずフェリシアを見守り続けることだった。
いついかなる時も、何があっても、命を賭してフェリシアを守ると誓い、実行してきた。
だから一月前、フェリシアが隣国の好色伯爵に嫁がされると知った時は、冷静でなどいられなかった。それがフェリシアの幸せにつながるとは、到底思えなかったからだ。
正直、国の行く末などヨアンにはどうでもいいことだったが、フェリシアが暮らす国を守ると思えば、俄然やる気が湧く。そうして10年以上もの間、この日課を続けてきた。
胸に抱くのは、いつでもフェリシアのこと。すべては、フェリシアを守るために。
窓を開けると、すうっと夜の冷たい風が流れ込んでくる。遠くの空が一部分だけ少し明るい。王都の明りだ。過去の自分が捨てられ、捨てた場所。
ヨアンは目を閉じて、国全体を覆う結界に意識を集中した。
ひんやりとした夜の空気が身体を包み込み、魔力を研ぎ澄ましていくのを感じる。結界をより強固なものにするイメージを頭の中で描き、魔力を送り込む。
魔力を消費すると、体力もかなり消耗する。日々の鍛錬で鍛え上げているため、この日課くらいは何ともないが、それでも疲れが蓄積すれば支障が出ることもある。だが、フェリシアが城に来て以来、そうした心配は皆無だった。フェリシアのお菓子と刺繍のおかげだろう。フェリシアは自分の魔力は微々たるものだと言うが、どうやらヨアンに対してフェリシアの癒やしの力は相当に相性が良いらしい。
(フェリシアはすべてにおいて女神だ。あんなに美しく愛おしく、心を温かく満たしてくれるというのに、そのうえ俺の身体も癒してくれるなんて。フェリシアのために、もっと強くなりたい。今日より明日、明日より明後日。フェリシアに害成すものすべてから守れる力を身につけるのだ)
ヨアンはぎゅっと眉間に力を込めた。
フェリシアは、どうやらヨアンが自分に恩義を感じているために自分のことを守ろうとしてくれていると思い込んでいるようだが、ヨアンがフェリシアに抱いている感情は、明らかに恋慕だ。
フェリシアに救われた当初のそれは、ただ純粋な感謝と恩義だったように思う。まあ、今となればそれも怪しいところではあるが…。もしかしたら、彼女に救われたとわかった瞬間にはすでに、ヨアンは恋に落ちていたのかもしれない。
ともかく、受けた恩を返したいという強い思いから、使い魔を通してフェリシアの成長を見守るうち、その感情は確固たる恋へ、そして愛へと変わっていった。フェリシアの清らかな心根と、何事に対しても真摯に向き合う姿勢、他者への優しさ。すべてが恋に落ちるには十分過ぎた。もちろん、見た目の完璧なまでの美しさは言葉にするまでもない。
ヨアンがそんな自分の思いを確信したのは、フェリシアが甥アレクシスの婚約者になった時だ。
当時フェリシアは8歳、ヨアンは15歳だった。自分より7歳も年下の少女にそんな感情を抱いていると気づいた時には、正直自分に嫌悪感を抱いたが、愛しく思う気持ちはどうにもならなかった。だが、フェリシアとアレクシスの婚約は決定事項。ヨアンは恋心を自覚すると同時に、その思いを封印しなければならなかった。
それでも、もとよりフェリシアの前に再び姿を現そうとなど考えてもいなかったヨアンが取った行動は、変わらずフェリシアを見守り続けることだった。
いついかなる時も、何があっても、命を賭してフェリシアを守ると誓い、実行してきた。
だから一月前、フェリシアが隣国の好色伯爵に嫁がされると知った時は、冷静でなどいられなかった。それがフェリシアの幸せにつながるとは、到底思えなかったからだ。
14
あなたにおすすめの小説
過保護な幼馴染の愛は想像以上に重たい
陽
恋愛
イケメンで優しい幼馴染に甘えて、勉強も友達作りもかまけてきた私は中1の冬に痛い目をみる。このままでは駄目だと思い、心機一転幼馴染とは距離を取り勉強、部活に力を入れる。知り合いには内緒で地元から離れた高校を受験するも何故かそこには、幼馴染がいて、、しかも私をストーキングしている…?
今まで恋愛になんて興味のかけらもなかった私だが、彼と再び同じ学校になってから色々と狂い出す。というか彼に狂わされてる気が…。過保護で甘やかしたい幼馴染と、自立したい主人公の戦いがはじまる。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
隠された第四皇女
山田ランチ
恋愛
ギルベアト帝国。
帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。
皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。
ヒュー娼館の人々
ウィノラ(娼館で育った第四皇女)
アデリータ(女将、ウィノラの育ての親)
マイノ(アデリータの弟で護衛長)
ディアンヌ、ロラ(娼婦)
デルマ、イリーゼ(高級娼婦)
皇宮の人々
ライナー・フックス(公爵家嫡男)
バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人)
ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝)
ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長)
リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属)
オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟)
エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟)
セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃)
ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡)
幻の皇女(第四皇女、死産?)
アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補)
ロタリオ(ライナーの従者)
ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長)
レナード・ハーン(子爵令息)
リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女)
ローザ(リナの侍女、魔女)
※フェッチ
力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。
ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様
助けた騎士団になつかれました。
藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。
しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。
一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。
☆本編完結しました。ありがとうございました!☆
番外編①~2020.03.11 終了
紅に咲く ー鳥籠の姫君と忠義の軍師ー
やまだ
恋愛
『わたしの初恋は、決して口にできない。』
季の国の姫・伽耶は、生まれながらに国のために生きることを定められた存在だった。
それが、どれほど息苦しい生き方かを、彼女は誰にも言えなかった。
感情を抑え、期待に応え、
ただ“姫”として正しくあること。
それが彼女のすべてだった。
そんな伽耶のそばに、幼い頃からただ一人、変わらず仕える護衛がいる。
誠。
彼は剣となり、盾となり、姫を想う気持ちだけは、決して許されないものとして胸に秘めていた。
恋を知らない伽耶は、無邪気に笑い、無自覚に心を許し、その優しさで、ただ一人の護衛を何度も追い詰めていることに気づかない。
しかし、恋は、許されない。
姫と家臣である限り、決して。
だが、静かに積み重ねられた時間は、
やがて戦乱と陰謀の中で、二人を否応なく引き裂いていく。
これは、
初恋を知らぬまま姫であろうとした少女と、
彼女のすべてを守ることを選んだ護衛の物語。
⭐︎やけくそあらすじ⭐︎
普通に恋愛できない幼馴染が仲良くなりすぎて情緒と立場と運命がめちゃくちゃになる我慢系忠犬と無邪気お姫様のお話です。
とっても可愛いです。
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】
mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。
ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。
クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は
否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは
困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる