カフェと古書店

315 サイコ

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 「…何で…付き合ってくれないんかなぁ…」

 モデル並のルックスに眉目秀麗な顔立ち。
 これでモテないはずがない高2の佐賀野は、ボーッとしながら思わず口に出てしまった自分の言葉に自分が、一番驚いていた。

 「…佐賀野…お前…そう言うヤツいんの?」
 「……えっ……」

 佐賀野が、前を向くと教室中の視線を集めている事に気付く。
 それもそうだ。
 校内モテ度高目のトップに入る佐賀野からの『…何で…付き合ってくれないいんかなぁ…』の発言だ。
 クラスメイトの大半が、部活や勉強に受験対策にと奔走する中でも、自分にだってチャンスや切っ掛けがあればと、恋愛に興味を持ちながらも…
 中々、一歩を踏み出せない奥手なクラスメイト達に対して…
 リア充まっしぐらで、何でも持っているような態度を取る佐賀野の発言に耳を疑った。

 「えっと…その話だと…全く相手にされてないって感じに聞こえてくるんだけど……まさかなぁ…」

 明らかに佐賀野の目付きが変わった。
 
 「そのまさかだけど…」

 クラス中の空気が、どことなく凍った。

 モテ要素高目だろうが、非モテ要素高目だろうが…
 クラスの全員が、声にならない『えっ…?』を、内心に思い浮かべ持ち場に戻るように散っていく。
 
 その場に残ったのは、いわゆる気心が知れたような連中だ。

 「佐賀野くんの付き合いたいってコは、どう言うコ?」

 どう言うコか…

 「そう。ウチら興味ある!」

 ワザワザ、同じ目線になって覗き込んで来る勢いで…
 わざとらしく開けたブラウスから胸の谷間を、チラ見せしてくるヤツがよく言う…
 下劣とまでは、言わねぇーけど…
 品がねぇ…

 一時期、
 顔は好みの部類だったけど、誰に対してもこうだと知って、正直幻滅したっていうか、見る目ねぇーなぁ~と、アホらしくなった。

 でも、実際は俺自体。恋愛なんって二の次で、簡単にヤれるコを物色してた訳だし。
 俺は、選り好みしないから顔さえタイプならって…
 どっかで、線引みたいな解釈だった。
 恋愛って、面倒だし。
 時間ばっか消費されて、1人で居られる気ままな今が、無くなるのは嫌だったし。
 それこそ気軽にヤれるヤツ限定に限るし
 1回限りとか、気が向いたらのセフレみたいなそんなのが、居心地よくて…
 誰か1人とか、絞った試しなんってなかった。

 「ねぇ。どんなコ?」
 
 相変わらず胸の谷間を強調しまくる女子を冷ややかに見つめつつ俺は、淡々と言葉を選んだ。

 「…可愛い。後は、小柄…華奢って言うの?」

 そんな言葉にピクッと、眉を動かしながら迫る勢いで女子は、続ける。

 「どこで知り合ったの? 同じ学校とか?」

 周りは、それに相槌を打つ。

 仮にここで、同じ学校なんって言ったら。
 追求は免れないだろいな…

 「マッチングだよ」
 「へぇ~…意外…」

 嘘は、言ってない。

 「そう?」
 
 実際、下手に連絡先を交換したり迂闊に自分の事を、喋らなきゃ身バレする心配もない。
 相手も、やましい気持ちで会いに来てるからバレバレのマッチングだとしても、相手の都合も、似たようなもんだろ?
 
 「それってさぁ…最初は、佐賀野自身も、ヤリモクだったの?」

 俺は、そう言うのは隠すつもりもないし言われれば、普通に喋ってしまう。

 まぁ…俺以外にもかなりヤバいことになっている生徒も、居るって言うし。

 「ヤバいって?」
 
 何も知りませんよ。
 みたいなトボけたふうな作り笑いは、同じだとしても…

 「パパ活みたいなやつでしょ?」
 「マジで?」
 「あくまで噂よ…近くの大学に行った先輩の繋がりでとか? 3年生がって話と、ウチら2年の…ね…」
 「あぁ? そこは察せって?」

 伍藤って言う小学からの友人で、幼馴染みの見掛け黒髮短髪の優等生に見えるヤツが、その容姿とは似つかわしなく薄笑って嗜める。

 「伍藤さぁ…アンタ…色々と顔効くんでしょ?」
 「いいや…何で?」
 「見掛けの割には、遊んでるとかって…先輩から話きくし?」
 「噂だろ? 俺は、毎晩塾で遅くて忙しいの…」

 スマホ片手に指で軽やかにタップしながら俺を、ニヤケ顔で見下ろしてきた。
 伍藤も伍藤で、硬派に見えがちで勉強できる優等生タイプだが、こう見えて女性関係が派手だ。
 こう言うヤツだから女から言い寄られるし年中女には、困ってない。
 しかも、親がデカい会社の重役で将来は、大学を卒業すればその関連子会社に修行に行かされて、それを乗り越えればそれなりの待遇で本社に迎えられて将来安泰とか…
 ツイてるヤツは、生まれからツイてんだよ…
 で、コイツは、それを自慢しない。
 小学生の頃に担任(どうやら遠い親戚)が、それを知って妹だとか姪だとかを縁故してもらおうと画策して(何だっけ? 伍藤を特別扱いして)それが、伍藤の親にバレて伍藤父が学校に出張って、その遠縁の親戚筋にあたる担任を別な学校に追っ払ったんだよな?
 あの時のホッとした伍藤の顔は、マヌケだったが…
 アレだけあからさまにヨシヨシされたらさすがの伍藤も、キレたんだろうな… 

 「佐賀野…何?」
 「いや…また…月曜日か?…」
 「…あぁ…そうだな。またな…」

 去り際にチラッと見えたスマホの画面には、女からと思われるメッセージ。
 今日の塾帰りも、女の所だな…

 「あぁ~っ…伍藤くんって、やっぱりカッコ良いよね! 佐賀野の並ぶと2人とも最高!」
 
 別な生徒が、うっとりした風に身体をクネらせる。
 
 「そりゃどうも…」

 厚手のパーカーを着て帰り支度する俺は、スマホで時間を確認する。

 「佐賀野の帰り?」
 「んー…」
 「どっちよ?」
 「帰る…」

 どうせ…
 待っても、返事は来ないし。

 無視されてる。

 妙に淋しい気持ちを抱えて教室を離れると、数分前に帰ったはずの伍藤が、シラットした表情して俺が来るのを予期した風に待っていた。

 「なぁ…」 
 
 俺は、伍藤の前を素通りする。

 今は、親友よりも返信だ。
 また俺は、素早くスマホをタップしてメッセージを送信する。

 「佐賀野!」
 「…っ何だよ…」
 「お前さぁ…ここ数ヶ月何なの? なんか一方的メッセージばっか送ってねぇ?」
 「…………」
 「返信ないんだろ?」

 伍藤が言うように、略と言うよりも、全くない。

 「相手にされてないんだろ?」
 「っうっせーな…」 
 「諦めたら?」
 
 その言葉を伍藤から聞いたのは、ニ度目だ。

 「相手にされてないは、無視だろ? 返信ないのは、ブロックとか、敢えて表示されないようになってんじゃねぇ?」
 「会いたいって、送っただけで無視なの?」
 「時と場合によるけど…相手に気が無いなら。基本的に無視が妥当だろ? お前だって、少し前までそうだったろ?」

 好きって言われるのが、ウザい。
 会いたいとか、返信ちょうだいは、ブロックか無視。

 「これで、お前と関係してきたヤツらの気持ち分かったろ?」
 「いや…でも、俺が会いに行けば会ってくるし。部屋にだって上げてくれる…」
 「それは、アレだろ? お前が迷惑にも、真夜中に来るからで、相手にしてみれば、ガキを外にほっぽり出す訳にもいかねぇーし…仕方がなくだろ? 相手は社会人だっけ?」
 「それは、関係ないだろ…」
 
 コソッと話しているつもりでも、俺と伍藤が一緒だと自然と目立ってしまう。
 
 「場所変えっか?」

 落ち着き払った声の伍藤は、ニャッと笑った。

 場所を変えるって言っても、通り道の公園だ。
 夕方何って、本当人気が無い。
 
 「で? お前は、ソイツとどうなりたいの? まともに付き合えんのかよ? それともキープの打診か?」
 「そんなんじゃねぇよ…普通に付き合いたいって思ってる」
 「へぇ~……」
 
 ドッカっとベンチに座ると、おもむろにスマホを操作する伍藤が、チラッと視線を合わせてきた。

 「さっき、送ってから数分以上経ってるけど、向こうは、その気がないらしいな…」

 会いたいと、送ったはずのメッセージには、既読すら付かない。

 「一方的に好きだ。好きだって、お前さぁ…ストーカーにでもなるつもりかよ?」
 「はぁ?」
 「じゃさぁ…簡単に言うぞ。相手の気持ち聞いた事をあるのかよ?」

 相手の気持ち?
 
 「その相手も同じように、お前が好きなの?」

 「えっ…」

 あれ?
 えっと?

 「その社会人の…カノジョ? カレシ? 今回は、どっちだ?」
 「…カレシ…」
 「そう…そのカレに好きって言われたのかよ?」

 俺が、好きだって言えば、分かったって言ってくれた。
 好き過ぎてパニクって、部屋に押し掛けた時も、落ち着けって言ってくれたし俺に抱かせてくれた。
 慰めてもらえてるようで、満たしてくれてるって言うか、年上だから安心できて居心地が良い。

 「どう言うヤツ?」
 「優しい」

 佐賀野と伍藤の間に妙に長い間が流れる。

 「……だけか?……」
 
 佐賀野は、相変わらずな表情でスマホ画面をタップすると、また短文のメッセージを送ったらしい。

 今日、目視で伍藤が、気が付いただけで、確か10数回目だ。

 案の定。

 読まれないのか、無視なのか、佐賀野のは、また直ぐにシュンとし表情を見せた。

 熱しやすくて冷めやすいを地で行く俺様気質の佐賀野は、普段から誰かに執着したりはしない。
 本人が言うように、恋人は作らずにセフレやその場限りが性に合っている。

 ガキの頃からそうだったと、幼馴染みの佐賀野の素行を振り返った。
 女性関係が派手な伍藤は、下手に助言出来る立場ではないかも知れないが、佐賀野は自分以上に真面目に付き合う事ができてないように感じていた。

 家族環境は、恵まれている。
 詳しくは聞かされてないが、どこぞの会社の営業マンで、忙しなく国内外飛び回っているが、マメに連絡を入れてくれる程に子煩悩な父親に、美人で朗らかで親友の母親ってことを抜いても、素敵な人だ。
 …ただ身体が弱くて、あまり外に出られないらしく妻大好きな佐賀野の父親は、歩きやすくするためにデカい平屋のバリアフリーの家を建てたぐらいだ。
 勿論。専属でお世話をしてくれるお手伝いさんも、数名常駐したりしていて、微妙にそう言う他人の姿を嫌う佐賀野のために庭の一角に勉強部屋という名の個室を建ててくれた程だ…

 それが、佐賀野の素行に悪い意味で拍車を掛けた。
 
 相手を、連れ込み放題。

 と、佐賀野は伍藤にヘラッと笑って答えた。

 『鍵も掛けられるし…家を通らなくても、入れるし…何ならシャワーもトイレも付いてるし。頼めばお手伝いさんが、ご飯運んでくれるし…』

 自慢気に笑って、言っているはずなのに…
 目の奥が笑ってないと長年付き合いで、伍藤にはバレバレだった。
 実際、何度かその離れの部屋には遊びに行ったこともある。
 自宅にあった部屋の内装似せて作られたシンプルな使い勝手の良い家具と広い部屋。

 誰も関わらなきゃ佐賀野以外、誰も居ない部屋だ。

 淋しいんだろう。

 そうやって相手を連れ込むぐらいだと、思っていたら。

 急にマッチングで知り合った年上のカレにハマったらしいと、伍藤に言ってきた。
 
 ただ何と言うか、伍藤は腑に落ちなかった。

 いつもは同い年とか、近いし相手を選んでいる風に思えていたからだ。
 相手が、どんなヤツなのか興味が湧いたが、そのカレを見せて来ることは無かった。
 年上と聞いた時点で、言えないような相手か、金銭的な繋がりとか…悪く考えればいくらでも想像が付いたが、年下(佐賀野)をかうって言うのは、明らかにおかしい。
 その相手だって、例の離れの部屋に連れ込んで、ヤる事ヤってんだろうし…
 平屋でもそれなりの豪邸だ。
 佐賀野のが、それなりの家に住むガキだって分かってるはずだ。
 しかも佐賀野は、自分を偽らない。

 だとしたら。
 自分は、高校生だとバカみたいにバラして相手のカレは、ハッとして佐賀野のに別れを切り出した。
 付き合えないのではなくて、高校生とは付き合えない。
 もしかすると相手は、大学生以上の社会人かもしれない。
 社会人と未成年者と言う事は、本人達が、良くても周りは放っておかないだろう。
 それに納得できないから佐賀野は、相手のカレに付きまとっている。

 佐賀野は、ヤバい行動とっているとか考えてない。
 寧ろ頻繁に会えていたカレが、急に会えないと無視してきた事から始まり会いたい一心と、別れたくない気持ちに対しての執着心が、芽生えてしまった。

 「なぁ…佐賀野…」
 「んー?」

 またスマホをタップして、メッセージを送り続けてる。

 「嫌われんぞ…」
 「えっ…嫌わせないよ…」
 「お前なぁ…」
 
 「あっ…メッセージ読まれたかも!」

 「既読? お前送ってるのDMだけじゃねぇの?」
 「メッセージアプリのにも、送ってるよ」

 耳を疑うように伍藤は、顔をしかめた。

 「ストーカーかよ」
 「……………」
 「急に黙りこくって…そのカレの弱みでも握ってんのか?」
 「……………」
 
 佐賀野は、急に大人しくなり視線を、微妙にズラした。

 「前に…付き合ったカレカノだのヤバい写真で、セフレ関係迫ってたろ? アレの再燃じゃねぇーよな?」
 「…そんな姑息な事しねぇよ…」
 「棒読みに聞こえんぞ」
 
 高校に進学して少し経ってからのことだ。
 2人ともに、その容姿とルックスからそれなりに声を掛けられ。
 連絡先を聞きたいとアレコレと、騒がれていた頃。

 急に佐賀野との遣り取りに妙なすれ違いのような関係が続いた。
 
 親友としとの付き合いが、悪いなぁ…
 最初は、そんな風に思っていた。
 その代わり。一緒に話している時に佐賀野が、スマホを見てはニヤニヤしているのをの伍藤は、不審に思い立ち上がる仕草をしながらスマホの画面を、チラッと覗き込んだ。
 写っていたのは、まぁ…そう言う写真だ。

 最初のうちは、2人で話していたが、次第に大声になり。
 佐賀野のふてぶてしい態度と、そう言う写真を、撮った事に悪びれる様子も、反省する気もなく終始ニヤついて姿に激怒した伍藤が、佐賀野のスマホを取り上げアルバムごと消去し揉み合った末にスマホ落として液晶を割ってしまった。
 その時も、怒ったのはスマホを壊したこたよりも、写真を消したことに対してと、今すぐに相手と連絡が取れない事に対して、相当悔しそうな顔をしていたと伍藤は、記憶している。
 
 歴代のカレカノのそう言う写真。
 おそらく出所が、出所だけに誰にも相談できなければ、云うことを聞いたほうが、身のためと落胆してズルズルと関係を長引かせているんだろう。
 ここでは、歴代のとは言ってはいるが…
 歴代のセフレ達を、都合よく呼び出す手段として使っていたんだろう。
 それを無かった事にしてしまった伍藤が、恨まれない訳がない。

 しばらくは、険悪な状態が続いたものの…
 結局、佐賀野の理解者は、幼馴染みの伍藤だけだったりするものだから親友は、親友として継続している。

 「社会人で…高校生のお前に手を出した。まぁ…手を出したのはお前だろうけど…関係がバレて困るのは、社会人だろうからな…」

 バレて被害届けでも出されて、警察に捕まりでもして…
 実名報道されたら職どころじゃなく将来も失う。
 
 「相手の足元見て別れたくないとか、ほざいてんなら。潰すぞ」
 「…………」

 冷めた視線を、佐賀野は伍藤に向けた。

 普段、執着心なんって持たない人間が、他の誰かに執着すると厄介だと苦々しく思うが、これ以上粘ってもおそらくは、何情報も明かされることはない。
 
 故意に他人を、欲で追いかけ回すヤツ。
 それが、佐賀野 だ。
 
 「なぁ…お前さぁ…そう言うの何って言うか知ってる?」
 「何が?」
 
 また何かメッセージを、送ってやがると伍藤は、舌打ちしするが、ご機嫌な佐賀野には何を言っても、通じない。

 「ストーカーって言いたいの?」

 あっけらかんと佐賀野は、笑って振り向く。

 その姿に思わず伍藤は、余裕かよとベタに突っ込みを入れた。

 良い話も、悪い話にも、悪乗りしてゲラゲラと笑い話して終われたのは、自分達の時間軸で言えば、最近までだ。
 気が付いたのも最近だ。
 佐賀野は、伍藤を親友とは呼ぶが、込み入った話はしなくなった。
 こうでも理由を、付けて話さないと、何も話さなくなったように感じる。
 おそらく写真なアルバムを消去してしまった事が、尾を引いているのかも知れない。
 伍藤にさえ変に思われなければ、何もバレない。

 自分の思い通りに周りが動く。
 そんな風に佐賀野が、故意に思っているのなら…

 もう既に今回のカレと言う存在に付きまとっている訳だ不安な感情が、伍藤に込み上げてくる。

 「そう言えばさぁ…今更だけど…俺がバイだって…いつ気がついたの? 話したっけ?」
 「ん?……」

 伍藤からすれば、今更だ。

 「前にスマホ取り上げた時…」
 「…ぁあぁぁ…アレね…」

 明らかに男とのアレな写真だった。

 「別にいつも、あんな事してる訳じゃないから心配しないで…アレは、向こうも同意して撮ったやつだし…脅すとか、バラ撒くとかそんな事に使わないよ…」
 
 じゃ何のために? と、伍藤が口にしようとした瞬間、佐賀野は、半分趣味かなぁ…と笑った。

 「悪趣」と、言わずに居られなかったのは、佐賀野も分かっていたようだ。

 「でも、ちょっと違う」
 「はぁ?」
 
 どこを、どう聞き取ったらそうなる?

 「だって、キレイじゃん。ヤってる時の身体とか、線とかパーツとか?」
 「何目線だ?」

 
 気持ち良さそうって、訳でもなくて苦しがってる訳でもない。

 俺以上に貪欲に勝てないと、知った時の相手の負の感情が、目の前の快楽や誘惑に書き換えられていく瞬間に適う独特な感情の流れ。

 思い出しただけで、ゾクッとする。

 「何、ヤバそうなこと考えてんだ?」

 本当に伍藤の感は、鋭いから今は特に注意をしないと…
 この間みたいにスマホを取り上げれて中身を見れでもしたら。
 
 カレとは、もう会えなくなる。

 絶対に引き裂かれる。
 そんな未来しか想像できない。

 今回は、絶対にそうはさせない。

 考えたくないけど、仮に引き離されたらと思ったら。

 追い掛けて追い付いて、もう二度と離れられないようにするから…
 
 「…コエーっ顔してんなぁ…」

 今なら。どう見られてもいい。

 「大丈夫だよ。心配すんなって!」
 「なら良いけど…お前の母親…身体弱いんだし心配掛けんなよ…」
 「うん」

 ブブブ~ッ ブブブ~ッ
 ブブブ~ッ……

 「何…返信来たの? DM? メッセージ?」

 「う~~ん。ちょっと違うね」
 
 佐賀野は、また悪そうな笑みを浮かべる。
 冗談ぽく佐賀野の眺めるスマホを、オーバー気味に覗き込むとそれマップの画面だった。
 
 「何それ?」
 「コレから。待ち合わせするカフェのマップ…」

 場所は、隣町のボートが乗れる有名な大きな池がある公園に隣接したカフェだ。
 
 「コレから行くのか?」

 佐賀野のスマホに表示されている時間は、6時を過ぎようとしている。

 「時間は、大丈夫。あのカフェって、アルコールや普通に食事もできるから。遅くまでやってるんだ…」
 「俺が、言いたいのは…帰りだ。隣町に行くには…バスしかねぇーから…こんな片田舎じゃ本数は限られてるし。乗り過ごしたら帰れなくなるっての…」
 
 すると佐賀野は、にっこりと笑う。
 
 「送ってもらうから…」
 
 相手が、社会人で車を持っているのなら送り迎えは、してもらえているのかと、伍藤は帰り支度を始める佐賀野を、横目に見上げた。

 「伍藤も、塾終わったらカノジョの所に行くんでしょ?」

 相変わらずの表情と態度に若干引いているが…
 
 佐賀野の会いたいに対しての返事が、来た風には見えない。
 それを茶化すように伍藤の顔を見るなり怖い顔と一瞥。

 「あのなぁ…相手が、未読も良いところなのに…その妙なポジティブ思考に脳内を前書きしてメッセージ送るとか、帰りは送ってもらえる気でいるとか、ホラーでしかねぇーよ」 
 「何で?」
 「そのさぁ…相手とは、もうシたの?」

 いや…
 シたから執着しているのかと、妙に納得してしまう伍藤。

 「そう言うの聞くとか、珍しい」
 「…いや…別に…」
 「気になる?」
 「だから! そうじゃなくて…」
 「素直に抱かせてくれるし。可愛いし。マジで大好き…」

 涼し過ぎる表情からは造像も付かない妙なテンションの受け答え。
 
 どれだけ都合よく前向きに脳内変換しているのかと、伍藤は呆れたと同時に、佐賀野の惚れられたカレに同情した。

 確かにカレも、マッチングアプリに登録して佐賀野に会いたい主旨を話して、会う口実を作ったにせよ。
 顔で指名して、性欲解消か簡単に事を済ませようと、安易に話に乗ったのかも知れないが、佐賀野の事だ何度目かに自分が、高校生だと素直に告白したんだろう。

 相手は、社会人で年上。

 どんな立場か、気にならないわけじゃないが、この頃たまに見せていた佐賀野の嬉しそうな顔を見て情緒不安なヤツにしては、珍しいと内心思っていた…

 いつもなら必ず言う深入りするな。
 いつも通りのセフレにしておけとも、言わなかった。
 
 どうせ佐賀野は、直ぐにその誰かを飽きるだろうし。
 貞操観念が、低くて緩い佐賀野が、1人に固執するはずないと傍観していたら…
 このザマと、伍藤はこの頃、そんな風に佐賀野を見守っていた。

 独特な独りよがり。
 しかも、その相手に対して見境なくメッセージを、送りつけ部屋に押し掛けまたは、自分の部屋に連れ込む。

 涼しい顔して抱かせてくれたなんって言っているけど、無理矢理迫った可能性だってある。
 それこそ同意無しの行為に踏み込みかねないヤツだと伍藤は、顔をしかめた。

 「何?」
 「で、顔合わせた相手は、お前に対して何って言ってんの?」

 返答次第では、シバくか? と伍藤は、ベンチの背もたれにダランと仰け反ったが、シラッとした視線だけを佐賀野に向けた。
 そうでもしないと、コイツは図に乗ると圧を送るが、呑気な事に気付いてない。

 「いや…なんかコエーんだけど…」

 伍藤に対する返答も、そんな感じだ。
 
 「だから。相手はお前をどう思ってんだよ」

 ブーッ…ブーッ…ブーッ…
 ブーッ………

 「んー…」
 「佐賀野?」

 スマホを眺めては、パァ~ッと笑顔になる。

 「おい。佐賀野?」

 「待ってるって!」

 満面の笑みで、はしゃぎ出す寸前のガキみたいな佐賀野の対し伍藤は、拍子抜けした風に口をあんぐりとさせている。

 「はぁ?」やっと出た言葉は、こんなだ…

 「話しがあるからって、やっぱりあのカフェで待ち合わせ!」

 思わず伍藤は、佐賀野のスマホを持つ腕を引き寄せて、覗き込んだ。
 
 確かに…

 「話しがあるから会いたい」と、送ってきているが…

 「その前後の誤解を解きたいからと、これっきりにしてくれるとありがたい。は、見えてねぇーのか?」
 「へぇ?」

 目が節穴説に脳内お花畑説が、頭を過る。

 「ちゃんと読め誤解を、解きたいからカフェで待ってる。これっきりにしてくれるとありがたい。だろ?」

 即決とも言える簡単明瞭な返信。
 行かなくとも、結果は丸分かりだ。

 「だって…20回に1回は、返信してくれるし…」

 はぁ~~っと、盛大な溜息を吐いた。

 「じゃ…今から行ってくる!」
 「えぇっ! いや…佐賀野! 少し待て!」

 走って、また佐賀野の腕を掴む。
 
 「えっ…何? 早く行かないと…そっち方面のバスの時間がなくなる」 
 「ここまで言われて、行かないって選択肢はないのかよ?」
 
 それこそ…俺にとっては、「はぁ?」だよ。

 今日、始めて返信が来た。
 4日ぶりに…

 誤解とか、これっきりは、相手の口癖。
 それこそ俺にとっては、いつも通り。
 俺自身が、相手にかなり迷惑掛けてるのは分かってる。
 それでも、好きな気持ちは止められないし。
 立場とか、年上だとか社会人だからは、関係ない。

 「じゃ…バスくるから!」

 タイミングよく来たバスに佐賀野は乗りこんだ。
 車内は、暖房が効いていとても暖かい。

 伍藤との会話を思い出して、気が抜けたのかデカい溜息を吐いた。
 
 そもそも、真っ当なマッチングじゃなくてヤリモク目的のマッチングだし。
 相手だって、それを承知で俺に会いに…
 
 抱かれに来た訳だし。

 まぁ…最初から2人して本名は別にして、身分っての? 社会人とか高校生とか…未成年者って言わなかったからどっちも悪いだろ?

 それなのにこの人は、自分だけが悪いと言い張った。 

 だって…
 高校生とか未成年だとか言わなかったのは、俺の責任だし。
 でもホント言うと、最初から上星さんの事、誰なのか気付いてた。

 マッチングアプリのアイコンは、微妙にバレないような写真だった。
 右向きで、鏡を見ながら耳元を撮った風な写真を見掛けてピンときた。
 その写真の人は、右の耳タブに2つのホクロと1つのピアスを付けていた。
 その特徴のある耳元に、見覚えがあった。

 どう言う人かも、知っていた。

 ナゼ知っているのかは、俺が前から気になって、1年も見ていた人だったから。
 どんなのが好みで、普段からどんな風に喋るとかも、全部知ってる。

 そんな感じに俺が、一方的に片想いしてた相手が、自分と同じヤる相手を探しているとか、ショックだっけど…

 俺にもワンチャンあるって事が、最高に嬉しかった。
 
 待ち合わせして、声を掛けられた時。
 バレるかもって思ったけど、普段はドコにでもいるチャラい高校生が、俺の姿だから。
 落ち着いた感じの私服着て会いに行った俺が、高校生だとは気付かなかった。

 コレは、シメたと思った。

 で、この関係が壊れるのが嫌で黙って会っていたのは、俺だから。

 何となく。
 思い付きで…俺達の事バラしたら直ぐに拒絶しやがった…

 『それは、良くない事だよ』

 大人の見本みたいな言い回しにカチンときて思わず押し倒してた。

 後は、ホント。
 流されたみたいな…
 
 俺としては、真面目に付き合いたいし別れるとか論外で、自分達の保身にほだされて無かった事にはしたくなかった。
 
 俺を拒んで本気で嫌がってる上星さんの身体を押さえ付けた手が震えてて、それに気付いた上星さんと目が合った時、始めて対等になれた気がしたけど…

 それは独りよがりで…

 バカな考えで…
 
 まともな考えじゃなかった。

 
 『次は、◯◯◯公園前です』

 その車内アナウンスにハッとして佐賀野は、慌てて降車ボタンを押した。

 暖かな車内とは違い。
 外の寒さは、震えそうになるほどの痛さを感じた。
 風がないだけましか? と開き直りながらバス停に降りた。
 その近くにあるカフェと公園の駐車場を見ると、駐車場の植え込み近くに真っ白なダウンを着込んだ上星 佳月の姿を確認した。

 人目を気にしてか佐賀野に気が付きながらも、軽くペコと頭を下げる程度。
 会えた嬉しさはあるのに、どうしても憂鬱さが振り払えない。

 佐賀野が、優しく触れようとすれば佐賀野を嫌うように近い目を向けてくる。
 でも内心、佐賀野はその目に優越感さえ感じてしまっていた。

 まるで、興奮してるみたいに貪欲なっていく気持ちと、それを必死に抗うみたいに抵抗する身体と、それでも佐賀野によがろうとする意識を上星は、振り払おうとするけど、やっぱり抗えずに佐賀野を受け入れる瞬間が、ドコかにあって…

 その度に佐賀野は、安堵した。

 それさえ越えてしまえば、後はどうってことないと、分かっているから。

 ただ…
 ダメだと言う意識が、はっきりと戻った上星が、泣きそうな顔をしてベッドの隅でうずくまるように毛布を、被って横たわっている姿に気付きたくない佐賀野とは、いつもそこで軋轢が生じてしまう。

 バラさなきゃ良かった。

 俺は、今高2だからこのまま高校を卒業して…
 その前に来年の今頃、2月に誕生日が来るから未成年者じゃなくなる。
 
 挨拶もそこそにカフェに入ると店内は、略満席に近くてテイクアウトを進められたけど上星さんはナゼか、このクソ寒い中でカップの飲み物を注文して受け取ると、外の池に面したデッキの席に座った。

 寒さに熱い珈琲が、染み渡る。
 上星さんもまた1口、2口と飲むとカップをその場に置いた。 

 付き合ってもないのに、別れ話をさせられる。

 この所、いつもそうだから。
 聞き飽きあなぁぐらいな感覚になるのを必死に押さえ付ける。  
 何にも無頓着で、目の前しか見えてないチャラい高校生…
 それが、俺だからって事で。

 でもまぁ…
 何って思われているのかは…
 今更になっちゃうけど、会いに来てくれたってことは、ヤらせてくれるってことでしょ?

 「あの…佐賀野くん。もう会うのよそう。それに何度も、付き合えないって言ってるよね?」

 
 聞いてるのか、聞いてないのか…
 耳にすら入ってないのか?

 スマホいじって、ニヤついてる。
 
 「どうしたら。分かってくれる?」 

 チラッと、嬉しそうにオレを見上げては、スマホを交合に見入ると佐賀野くんは、サッとスマホのシャッターを切った。

 「えっ?」

 「プッ。変な顔…撮れた」
 「佐賀野くん…」

 このコには、何を言っても通じない。
 欲まみれで、変に従順で…
 かと思えば、変に固執してきては、オレの行動を把握したがる。

 聞いてもこないのに今、どの辺りに居るのか分かった風にオレに連絡をとりたがる。

 監視されているのかも…
 えっと…GPSとか、そう言うもの手軽に手に入るって言うし。
 多分。オレの持ち物のか、スマホにか、入っているっぽい。
 兎に角、オレの目を盗んでそう言うのを仕込んでるようだ。

 オレは、それを知っているけどわざと気づいてないフリをしている。

 自分でも指摘しないは、バカみたいだって分かってる。
 思い過ごしかもしれない。
 相手は、高校生だし。

 それに付き合っている訳じゃない。
 確かに佐賀野くんとは、数回そう言うことシけど…
 カレが、未成年でしかも高校生だと…
 改めて告げられて、戸惑ったはオレも同じ。

 だって知っているから。 

 ワザと気付かないフリをしているダメな大人…

 それがオレ。
 
 その気付かないフリをしていて、ごめんなさいの償いの制裁と清算だったのに…
 カレには、それが伝わってない。
 本当の事、言ってないし仕方がないか…
 知ってて、マッチングで知り合った風に装って、会いに行っていたて、何度目かに抱かれていたとか…

 綺麗事を、丁寧に並べ立てる最低な大人。

 「あのね。佐賀野くん」
 「俺との事バレんの…怖い?」 
 「えっと…」
 「だってバレる前は、何回も普通に会ってくれて…気持ち良さそうにしてたじゃん!」

 上星さんは、シッって右手の人差し指を、ピッと立てた。

 「…ちょっと…声が、デカいって…」

 そのかぼそい声が、喘いでる時の声に少し似てて興奮する。

 イジメたくなるって言ったら引くだろうから。

 ずっと、こうやって構っていたいし俺自身構ってほしい。
 やましい気持ちが、無いわけじゃない。
 
 「俺は、上星さんが良い。上星さんじゃなきゃ嫌だよ」 
 
 精一杯の気持ちと、笑顔をしたつもりが、逆に不信感を与えたみたいに上星さんは、かなり青冷めていた。

 何で、そんな顔ばっかりするの? 

 俺は、本心で言っているのに…
 ちゃんと好きだって伝えているのに…
 
 「あのさぁ…何で、分かってくれないの? 俺の気持ちとか…」
 「間違ってるからでしょ?」
 「ドコが? 好き同士なら良いじゃん」
 「違う。そう言う問題じゃなくて…倫理って言うか、一般的に…」

 いつもそうだ。
 またそうやって、俺を突き放そうとするから。

 「離れない」

 最近は、会えてもこんな話ばっかりだ。

 何も、知らなかった振りしてたあの1ヶ月にも、満たないあの時みたいに一緒に出掛けたり。
 一緒に笑ってみたり。
 一緒にメシ食ったり。 

 ただ側に居たいだけなのにさぁ…

 カフェのテーブル席、しかもテラス席で公園の池を眺めるようなデッキの上。

 マッチングで出会って、やり取りして最初にここで待ち合わせしたのは、偶然じゃない。
 始めてここで、上星さんを見掛けた秋口の頃よりも、肌寒くて俺は、私服にジャケットみたいな上着をはおった。
 ガキに見られたくなかったのと、年上の上星さんと並んでも違和感ないようにみせるためだった。

 風は寒いけど、日差しは暖かくて…
 池の水面には、枯れ葉が池に浮かんでいて…

 近くの銀杏並木とか公園の落葉樹が、キラキラしてみえてたけど。
 今では、吐く息が真っ白だ。

 こんな真冬の夕方に好きこのんで、決まったようにデッキ席に座るとか…
 
 正直に言えば、クソ寒い。

 俺の頼んだ珈琲だって、上星さんか頼んだ甘さ控えめのラテも、冷め切って湯気も出ない。
 それを両手で包んでいるのは、決して暖を取るためなんかじゃない手持ち無沙汰と、俺との間合いを保つためだ。

 寒さで少し指先が赤くなっている。

 温めてあげたいとか、そんな迷言とはまた違って、欲を言えば身を委ねて欲しい。
 他の誰にも、なびくことなく。
 ずっと、側に居て欲しい。

 この片想いを、早く終わらせたい。

 俺は、上星さんの手の甲を包み込むみたいに両手を添えた。
 その手は、一回りぐらい小さいくてスッポリと覆うのは、難しいことじゃない。
 かじかんだ指を、弾くように驚いたみたいだった。
 戸惑いながら顔を赤くさせているのは、寒いから?
 それとも俺を少しでも、想ってるから? と問いただしたい。

 白いダウンに紺色のアーガイル柄セーター。
 栗色の髪は、地毛だと知ったのも上星さんの仕事場でもある1階が書店で、2階が古書店古を、併用した店内での店員さんと常連客との会話だった。

 『上星さんって~地毛なんですか?』

 白々しく抑揚を付けた女が、その日、上星さんの後ろに付いていた。
 
 俺は、と言うと…
 雑誌を読む振り。探す振りして、遠目に本棚に隠れて見てた。

 『えっと…父が、赤毛っぽい茶色の薄茶で、他の兄弟は、母似の黒髪なのに…オレだけこんな感じ…』
 『えぇ~っ、羨ましい!』

 そう言って、客の女は自然にそっと上星さんの髪に触れた。

 ブワッと何かが、沸騰するみたいに身体中が熱くなった。
 コレは、嫉妬。
 一方的に見てるだけで、出会えていない俺には、一瞬だって触れることなんってできから。
 余計に腹立たしかった。
 隠れ見ていたとはいえ…
 嫉妬丸出しの凄い形相だったと思う。
 冷静で居られない。
 
 でも、確かに触りたくなるぐらい上星さんの髪は、綺麗だった。

 俺みたいな染めた栗色の髪の髪じゃなくて、本当の栗色の髪でしかも淡い色合い。
 光にあたるとキラキラ透けて見える髪が、凄く綺麗で一目惚れしてしまった。

 高校に進学した1年生の秋頃。

 この公園にカフェが、出来たからって、当時付き合ってた…カノ…だったかなぁ?…に連れられて嫌々訪ねたこのカフェのテラス席に偶然にも上星さんが、居合せていた。
 西日の差すこのテラス席に1人で座って、本を読んでいる姿に目を留めた。
 日差しが、少し眩しいのか、時々顔を傾けるとサラッと目元に流れるサイドの髪を耳に掛けて本を読み続ける上星さんの姿は、とても綺麗だった。
 当時のカノには、悪いけど全く話しや話題が入ってこなかった。
 チラッと前を見ては、その人の  姿を確認してた。 

 注意して見ていると、今時なのにスマホじゃなくて腕時計を見て時間を確認する仕草が、また綺麗で…
 改めて見惚れてしまって、もうそこからは、目が離せなくなっていた。
 帰る時間になったのか、待ち合わせか…
 カフェを後にしようと、カフェを出て行こうとするから。
 思わず急用を思い出したと、カノに告げて俺も、慌てて出ていった。
 駐車スペースに車が何台か留められていたから車だと、その姿を見失うって思ったけど、そのまま公園を出て直ぐのバス停の前に進んで行くのを見てホッとした。
 他にも数人並んでいて、さり気なく隣に並んだ。
 その時、右耳に2つホクロとピアスに気が付いた。
 他にも横顔とか立ち姿が、綺麗過ぎてドキドキしながらバスを待って、一緒にバスへと乗り込んだ。

 ドコで降りるのか…

 ドコに住んでいるのか…

 気になって仕方がない。

 その人は、俺の自宅や学校がある方角にある駅の1つ手前で降りるらしく。
 俺も、部活帰り風の高校生を装って、一定の距離を保ちつつ。
 その他の降りる乗客と同じように降りると、その人の跡を追った。
 次第に日が、暮れはじめた通りを急ぐわけでもなく散歩でもするみたいに歩くから時々、追いつきそうになって焦っていた。

 たどり着いたのは、モダンな造りの書店と2階が、古書店と言う不思議な組み合わせのお店だった。

 どうやらそこの店員さんらしく1階の書店で、見掛けることもあれば、姿を見掛けないからとウロウロしながら2階の古書店にフラっと立ち寄ったらその古書店のカウンターに座っているのを見つけて、ホッとしすることもあった。

 約1年、その書店に通い続けた。

 上星さんの影響で、短編の物語や少し時間は掛かるものの単行本サイズの本なら読めるようになったし棚に置かれた本を説明するポップも、注意深く読むようになって、流行りの本や話題になりそうな本にも詳しくなった。

 で、あの時の行動力をそのまま…

 本命の上星さんと付き合えないイライラで似た感じの人と適当に遊んだりして諦めようかと、何度か思ったのは、相手が社会人だからだけじゃなくて、好き過ぎるって思えたからだ。
 ここまで付き合ってきた人にも、嫉妬なんってしてこなかった。
 
 『冷めてるから嫌だ』
 『何、考えているか分かんない』
 
 そんな言葉で、別れた事もあれば、お互いに浮気しててとか、どちらともなく音信不通でってのもあった。

 だから。常連客とのやり取りや店員さん達の挨拶程度な会話にカチンときたり。
 聞き耳を立てたりして、何気ない会話でも、話している事が許せなくなって、付き合ったら絶対に束縛する。
 必要に固執すると、分かっていたけど、やっぱり諦めきらなかった。
 出会って1年、まるでストーカーかよってぐらいの勢いで、執拗に後を付けた。

 近づきたい。
 話したい。

 それすら叶わない片想いは、ただ苦しいだけで…
 
 だから余計にあのマッチングに登録してた上星さんが、許せなかった。

 本人は、マッチングで会うのは初めてだとは言っていたけど、妙にテンション高で、元々が客商売でサービス業だから直ぐに人馴れするし。
 本人は人見知りするタイプって言うけど、人と話し慣れている。
 
 正直に言って、上星さんの言葉が信じられなかった。

 始めて会えた時、上星さんが大丈夫ならヤらせてくれんのかなって思っていたけど、上星さんは今まで会ってきた誰よりも、何も知らなさそうで…

 はっきり言って、拍子抜けした。

 あのマッチングは、略ヤリモク目的なヤツが多いのに上星さんは、俺と会うなり普通のデートでも楽しむみたいに接してきた。
 
 まさか、初回からカフェでの食事のみで終わるとか、思ってもみなかった。
 半分、呆れてもう半分苦笑状態の俺が、カフェを出ようとすると、慌てて『暗いから送るから。 待ってて…』と言ってきた。

 あぁ…コレは、この人にとって本当にデートみたいなもんか?
 モテそうな顔してるのに意外と、こう言うのに慣れない?

 カフェの駐車場に停められたわりと角張ったゴツい黒っぽい色合いワンボックスカー乗せられた。
 上星さんが言うには、黒と濃紺の中間色なんだとか…
 それでもこの顔で、こう言う車に乗るんだ…
 それも意外だった。
 そしたら…

 『この車は、元々祖父のモノで、オレのじゃないんだ』と、一言。
 いわゆる免許返納と言うやつらしい。
 後から聞いた話によると、仕事の移動や施設に向けての本やら教材の配送もしていたから大き目な車なんだとか…

 そのせいか一瞬、本の匂いがした。
 気のせいってぐらいの微かな匂いだけど、車に乗せてくれるとか半分以上下心が勝っていたからどうにかして、良い雰囲気になれないかなぁ…

 と、思ったけど……

 はぐらかされてるのか、天然か妙に会話が続かなかったことだけは、リアルに覚えてる。
 いつもなら言葉巧みに…は、大袈裟だけど、言いくるめて部屋に誘うなんって簡単なんだけど、上星さんは、違った。
 今にしてみれば、こう言う事に慣れてなくて空回りしてたのはよく分かる。
 最初に手に触れた時も、顔真っ赤だったし。
 デートの別れ際にキスした時も、目が点になって時間差で赤面してた。
 だから俺としては、ますます上星さんが、マッチングに登録した理由が謎だった。
 本当、何も分からなすぎで俺の方が、遊ばれてる気がして仕方がないぐらいで…
 ただ俺の事、好きらしい事は隠さなかった。
 嬉しいそうだし。
 楽しそうだった。

 始めてシた時も、戸惑うばっかでアワアワしてたけど…
 それなりに気持ち良さそうだった。
 
 『やっぱり慣れてない…』

 涙目で必死に抵抗するけど、組み敷かれると素直って言うか、嫌だと言う割には、大人しいし。
 優しく撫でたりしたらギュッて抱きついてきた。
 それで喘ぎながら俺を受け入れてくれた。
 それはそれで俺も、嬉しかった

 それなのに身バレした途端、コレだもんな…

 無言のまま上星さんは、席を立とうする。

 「待ってよ。先に帰んないでよ…」


 佐賀野くんは、オレを呼び止めた。
 
 「バスの時間もう過ぎたから。送ってて欲しい…」

 少し不機嫌そうに腕組みしている。

 「あっ…うん…」

 こんな中途半端な時間に呼び出してしまったしさすがに高校生を隣町に置き去りは、良心が痛む。
 今更、良心なんってものは無いのかも知れないけど、呼び出した手前責任はある。

 2人でカフェを出て、駐車場に向かうオレは、また別れ話を出来なかった事に不安をいだいた。

 当たり前のように助手席に乗り込む佐賀野くんは、慣れたようにシートベルトをする。

 エンジンをかけると、ステレオからはラジオが流れてくる。

 「上星さんって…ラジオ好きだよね…」
 「うん…」

 車では、もっぱらラジオを聴いている。
 本が原作のドラマを、よく見てる。
 後は、あまり見ない。
 車通勤だから朝晩、施設とか学校関係とかこ配送に車を使う場合も多いからおのずと時事ネタや話題の曲を耳にしているせいか、意外に周りとの会話には、困ってない。

 本来の上星は、人と話すのが苦手だ。
 学生の頃は、話をふられてアタフタする事が多く実家と言うか、父方の祖父が、趣味と実益を兼ねて若い頃に始めたこの書店と古書店で働くようになって、やっと人と関われる事が出来始めた感じだ。
 実家の面々は、ひとえに我が強く信念が半端ない。
 上星みたいな引っ込み思案は、見ていてイライラつかれていた。
 それでも今は、こうやって自分の意思で働けているし暮らしてゆけるから尚更…
 今の佐賀野との関係は、マズい。
 いくら互いに良い感情を持っていたとしても、世間体や外聞をやたらと気にする家系だ。
 タダの騒ぎで済むはずがない。
 下手したら今の職を辞めされられ遠くに追いやられる可能性大だ。
 まぁ…
 それだけの事をしている自覚は、常にあるからこそ…
 静かに別れたいのだろう。
 バレる前に別れれば、同じ街には、居られるはずだ。
 ドコかも分からない街で途方に暮れるよりも、遥かにましだと上星は、したを向き顔をしかめた。
 それを注意深く佐賀野は、見つめている。
 逆に言えば、佐賀野は上星が世間体を気にして自分と別れたがっていると思っている。
 だが、1年と少し見ていても上星の本心は佐賀野には、知られていない。
 大人だからの事情だと、捉えている。
 卒業まで後、1年を穏便に済ませて今の関係を続けられたらそんな風に思っている。
 根本的に何がダメなのかを、佐賀野は上星に聞いてこないし上星も家族の目やゴタゴタに巻き込みたくないと佐賀野には、言っていない。
 ケンカごしでも、臆せず言い合えば済むこと。
 すれ違いも、良いところだ。
 言葉足らずとは、こう言うことなのかも知れない。
 それに2人は、付き合えないダメ理由を、あぁ…だ、こうだと、はぐらかしている。
 その間に上星の運転する車が、走り出した。
 外は、2月の季節を物語るように寒そうだ。
 12月頃や年末年始までは、通りをイルミネーションが飾っていたが、季節を過ぎれば閑散として人通りもない。
 前方を走るテールランプやすれ違う対向車のヘッドライトを、やや眩しく感じるだけで、面白みがない。
 ラジオからは、季節感を感じるネタや曲が中心に流れてくる。
 トークが軽快過ぎて、佐賀野は吹き出すように笑った。
 妙な温度差はあるものの上星は、佐賀野と今を共有出来ることが、少し嬉しくもあった。
 それでも、ドコかで関係が歪んでいると思わずには居られない。
 バカ正直に好きなんだと佐賀野を、受け入れてしまえれば…
 
 「…楽なのに…」

 小さすぎる声は、自分にさえも届かないぐらいだ。
 隣を見ると、佐賀野はスマホを見ているだけだった。
 コレが切ないと言うことか、腑に落ちない気持ち落ち着けて車を、佐賀野の家に走らせていた。


 
 
 
 




 
 
 
 

 



 
 
 
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