見当違いの召喚士

比呂

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第5話

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「どうも、影武者です」

 そう言い放ったのが、カレス・ゾンブリムの第一声だった。

 垂れ目で肌は小麦色をしており、遊び人としか思えない姿をしていた。
 革張りのソファを背もたれにして床に座っているのは、別にずり落ちたわけでないらしい。

「やあ兄弟。そんな顔してないで、座ったらいい」
「あー、そうだね。うん。馴れ馴れしいな、こいつ。ところで、レオネール知らない?」

 アルマンは、眠そうな顔で首を巡らせた。

 彼女と夕食後に別々の部屋で就寝し、次の朝に起きてすぐ、メイドに連れてこられた部屋が、この場所だった。
 一応は護衛という名目なので気にしてあげたのだが、カレスの言葉ですべてを把握した。

「知っているとも。彼女には、足止めをしてあるのさ。アルマンと二人で話をしたかったものでね」
「何か用事? 僕は朝御飯もまだなんだよ」
「結構。では会食といこう」

 ソファに合わせた低いテーブルへ、所狭しと食事が運ばれてくる。
 アルマンの両側には、昨日の世話係だったメイドたちが静かに寄り添っていた。

 にやり、とカレスが笑みを浮かべる。

「お気に召したかい?」
「どうだろうね。まだ僕は、本気を出していないから」

 アルマンはそう言うと、カレスの対面まで歩いて行って、床に寝転がった。
 ちらり、と横目でメイドを見る。

 何かに気付いてはっとしたメイドが、彼の頭元へふわりとエプロンスカートを広げて座り込み、膝枕をする。

 されるがままのアルマンだったが、眠そうな目で言った。

「……いや、凄いな。君んとこのメイドさん。わかってる」
「そうだろう。伊達にいつも甘やかせてもらってないぞ」
「影武者のくせに、良い生活してるなぁ」
 
 顔では無関心としか見えないにも関わらず、羨望と嫉妬が滲み出た言葉だった。
 田舎の低賃金クエストを受領して失敗し、血を取られた男と雲泥の差である。

「そう言うな兄弟。こちらにも悲しい事情というものがある」
「聞きたくないけど言いたそうだから、勝手にすれば?」

 膝枕されて色々なことがどうでも良くなってきたアルマンだった。
 カレスが俯いて呟く。

「すまんな。……実はな、商売が軌道に乗って優秀な部下に仕事を任せていたら、何と商売を乗っ取られてしまったのさ。それ以降、このカレス様は名前だけ使われて、仕事もさせて貰えずに遊び惚けているというわけだ。だから影武者なんだよ」
「何処にも悲しさが見えないんだけど。召喚魔法ぶっぱなすぞこの野郎」

 苦笑いを浮かべたカレスが、顔の前で手を振った。

「それは勘弁して欲しい。サブトナル閣下の耳に入れば、今度は血だけでは済まないかもしれないぞ?」
「ふん、サブちゃんは僕が口だけの男だと、よぉく知ってるよ」
「信頼かい? 羨ましいね。こう見えてこのカレス、友達がいないんだ」

 当然のことのように、アルマンは大きく首を振った。

「そうだろうね。僕とサブちゃんは血の約束(搾取的な意味)で成り立っているのさ」
「あ、やべ、何それカッコいい。それは負けてられんな。兄弟との特別な何かが欲しいところだが……。でも同じネーミングは無い。うん、無しだ」
「それじゃあ、僕とカレスの間には、金鎖の契り(搾取的な意味)を結ぼう。だから、会うたびにお金ください」
「ぐっ。心惹かれる提案だが、あまり兄弟に金を渡すなと、サブトナル閣下に言われていてな」
「何でだよ」
「無駄遣いするから、らしい」

 アルマンは黙った。
 彼としては無駄遣いではなく先行投資のつもりであったが、結果として無駄になっただけの話だ。
 揚げ足を取られても困る。
 反論しても言い訳と言われればそれまでだ。
 彼は、窓から差し込む光を見た。

「……そろそろ、頃合いみたいだね」

 アルマンは寝転がって膝枕されたまま、不敵に笑う。
 カレスが顎に手を置いた。

「それは良いとして、何買って怒られたんだ?」
「良くないよ。言いたくないからごまかして――――いや、何でもない。時間稼ぎに付き合ってくれてありがとう、カレス」
「時間稼ぎ、だと」

「ああ。お金をくれないなら、ここに居る意味は無いよ」
「兄弟、そのセリフは人としてどうかと思うけどな」
「――――残念、時間切れだ。僕の護衛は耳が良い」

 アルマンが両手を広げると、部屋の窓が吹き飛んだ。
 腕を重ねて飛び込んできたのが、レオネールだった。

「今! 召喚魔法とか! 言いませんでしたか!」

 獲物を探す魔獣にも似た殺気を放ち、アルマンを見つけるや否や、襟首を掴んで振り回す。

「あなたという人はっ! 昨日のことも忘れてるんですか!」
「ぐえっ、く、苦し、ちょっと間違えたかな……」
「何が間違いですか!」
「いや、何でもない、レオネール。それより君は、窓を突き破って入って来るべきでは無かった。わかるね?」

 口を尖らせた彼女が、入り口辺りを見つめた。
 視線を戻してアルマンに言う。

「だって、入り口には面倒そうな護衛がいましたからね。時間の節約です」
「その壊した窓の修理代は、誰が払うのかな」

 ビク、と震えたレオネールが、恐る恐るカレスを見た。
 遊び人風の男が、ニコニコ笑っていた。
 
 アルマンの言葉が続けられる。

「魔法強化された、純度の高いクリスタルガラスの窓だね。ここまでの強度と透明度は、他に無いからね。同量の金銀を積んでも作れないよ」
「ご」

 顔を青くした女騎士がアルマンを小脇に抱え、胸元から全財産入った革袋を取り出して床に置き、走り出す。

「ごめんなさいいいいいっ、いつか、いつか返します!」

 飛び込んで来た窓から、男一人を抱えて飛んだ。
 地面に着地すると、加速しながら大地を滑空していく。

 それを追おうとするメイドが、カレスに止められた。

「ウチの魔法防御結界が破られるとは思わなかったな。閣下から頂いた技術を流用して作成した一級品だぞ、流石に驚いた。作り直しだな。――――まあ、話が出来てよかったよ、兄弟」

 遠く走り去った景色を見る。
 破られた窓の外から、心地よい朝風が舞い込んでくるのだった。
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