見当違いの召喚士

比呂

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第7話

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「えっと、まだ何も説明していませんけど……」

 冒険者ギルドの受付嬢が、不安げな顔を見せる。
 アルマンは馴れ馴れしく彼女の肩を叩き、胡散臭い笑顔を作った。

「いやいや、任せてくれて大丈夫! 僕は何も出来ないけど、こっちの女の子は強いからね」
「私にまるっと放り投げないでください」

 レオネールが薄目になって抗議していた。
 やれやれ、と言わんばかりに彼が肩を落とす。

「いいのかい、僕が働いてもさ。僕が働くってことは、魔法を使うってことだよ。それはつまり、僕を働かせてはいけない、ってことじゃないの?」
「くっ、私を脅す気ですか。とてもではないですが、良い人には見えない行動ですね」

 アルマンは心外だと言わんばかりに、腰に手を当てた。

「何を言ってるんだい、僕は君に仕事をあげてるんだ。言わば雇用主といったところかな。だったら雇用主が部下に対して仕事を与えるのは悪い事じゃないよね」
「確かに悪い事ではありませんが、私はあなたの部下ではないです」
「そう、部下じゃないね。だからこそ、僕は善意で君の言うことに従っている。ほら、君の前で魔法を使ったことなんて一度も無いじゃないか」
「それは、そうですが……」

 少し煮え切らない表情のレオネールだが、確かに言っている通りではあった。

「そうだろう? 僕は善意を見せたよ。なら次は君の番だ。心配しないでよ、僕も手伝うからさ」
「はあ、まあ、それなら良いですが。本当に手伝ってくださいよ?」
「任せてよ。……で、何の話をしてたっけ?」

 笑顔を浮かべたアルマンは、首を振って受付嬢を見た。
 彼女が胸の前で手を重ね、怯えながら言う。

「詐欺師、の人ですか?」
「あっはっは。善は急げ、悪は延べよ、って言うでしょ。早く依頼内容を教えてくれないかな。僕は君の味方だ」

 アルマンは詐欺師のように自信満々だった。
 受付嬢が一歩引いた。

「詐欺師の方を、否定しないんですね」
「違うよ。僕が詐欺師なら――――ん?」

 弁解しかけたアルマンの肩を、レオネールが引いて前に出た。
 彼女が仕方なさげに溜息を吐いた。

「はあ、あなたに任せると碌なことが無いので、私が代わります」
「えっと」

 受付嬢がカウンターの方を向いて、奥に立つ大男を見た。
 ギルドマスターらしき人物が、面白くなさそうに頷いてから、二階に上がっていった。

「で、ではお願いします。ここではお話できませんので、こちらへご案内します」
「あれ、僕の立場は?」
「そんなもの最初からありません」

 眉を曲げて不満を現したアルマンだったが、腕力でレオネールに勝てるはずも無い。
 彼が動かないでいたら、肩に担いで連れていかれてしまった。

 受付嬢の案内で、冒険者ギルドの二階に上がる。
 廊下の奥にある部屋に行くと、扉は開いていた。

「ギルドマスター、入ります」
「おーう」

 扉の奥から、野太い声が聞こえた。

 レオネールと、彼女に担がれたアルマンが部屋に入ると、受付嬢が外から扉を閉めた。
 アルマンは笑顔で彼女に手を振っていたが、愛想笑いと苦笑いを混ぜた表情しか返ってこなかった。

「いつまで担がれてるんだ?」

 年季の入った執務机に書類を置いたギルドマスターが、顎で応接用の椅子を示した。
 アルマンは椅子の上に座らされ、ギルドマスターの正面にはレオネールが座る。

「では、要件を聞きましょう」
「ああ。すぐ帰ってくれても構わねぇから、茶は出さないぜ」
「?」

 彼女の顔には、疑問しか浮かんでいなかった。
 それを当然として、大男が続ける。

「報酬は金貨百枚だ。依頼は討伐クエストになるな。相手は――――魔獣だ」
「よし、断る」

 それを聞いて、即座に立ち上がるアルマンだった。

 レオネールが彼の手を掴みながら言う。
 それでも暴れていたら、口を塞がれてしまった。

「魔獣ですか? それは領主軍に任せれば良いでしょう」
「そりゃあな、任せたさ。しかし、返り討ちにあっちゃあどうしようもねぇだろう」

 聞き飽きた問答を繰り返すように、ギルドマスターが言う。
 それこそ彼女が首を傾げた。

「それにしては、この街は平和過ぎませんか」
「あー、そりゃなんつーか、特殊な魔獣でな。めっぽう強ぇくせに、積極的に人間を襲わねぇんだ。しかも群れじゃなくて一匹だけだ。領主軍も被害が出てからは及び腰でな。大人しくしてるなら放っておけとさ」

 匙を投げた顔のギルドマスターが、口を曲げた。
 付き合いやしがらみに捕らわれた哀愁が漂っている。

「しかしだな、夜中に徘徊する魔獣をほっとけねぇだろう? だから領主から冒険者ギルドに、猛獣クエスト扱いで依頼が来たんだがね。領主軍も負ける相手に、地元の冒険者がクエストを受けるはずがねぇのさ」
「それで、私たちに?」
「いや、アンタだ」

 人差し指で自分を示すレオネールだった。
 ギルドマスターが大きく頷く。

「達人ってのは、普段から立ち居振る舞いが違うもんだ。相当な腕だろ」
「誰にでも、そう言って勧誘しているのではないですか」
「いんや、人を見る目は、少しはあると思ってる。こいつで飯を食ってきたわけだからな。……まあ、そこの兄ちゃんの実力は俺にも分かんねぇんだが」
「同感です。それでは、どんな魔獣です?」
「受けてくれんのか」

 ギルドマスターの表情が明るくなりかけて、止まった。
 レオネールが言う。

「話を詳しく聞かせてください。もちろん、口外はしません」
「ああ、もちろんだ。あいつは、虎みてぇな姿だが、尻尾が三つに分かれてて、爪も牙も鋭い。頭は随分いいと聞いている。軍で取り囲んでも、まんまと逃げられるくらいだ」
「虎、ですか。まあ、それくらいなら」
「本当か?」
「ええ、似たような魔獣とは、何度か戦ったことはあります。情報の提供もできますよ」

 身を乗り出すギルドマスターだった。
 経験者というものは、現場では最上級に重宝される。
 
「そいつは心強ぇってもんじゃねぇか。いや、それならこちらから是非にお願いしたい」
「ええ、任せてください。ところで、準備にお金が必要なのですが、報酬の先払いについてご相談させてくれませんか?」

 にこやかに笑うレオネールと、口を押さえられながら、ぶんぶんと首を横に振るアルマンであった
 
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