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第8話
しおりを挟む「僕は魔獣が苦手なんだよ」
不機嫌な表情を隠そうともせず、アルマンは椅子の背もたれに顎を乗せて、逆向きに座っている。
彼らが泊まることになった宿屋は、それほど高級とは言い難いが、必要な設備は整っていた。
レオネールの交渉により、金銭の前借は出来なかったものの、宿と食事を用意して貰うことになったのだ。
その功労者である彼女が、腰に手を当てて言う。
「仕方ないでしょう。旅の路銀も底をついて、今日の宿さえ無かったんですよ? それに比べれば、多少の面倒はあってしかるべきです」
「魔獣を相手にするよりは、野宿した方がマシさ」
「野宿でも、物取りや強盗は出てきますよ?」
「そいつらは出るとは限らないだろう? 魔獣は――――必ず現れるんだよ。僕だけを狙って執拗にやってくるんだ」
「それは単に、魔界を呼び出したのがあなたなので、恨まれているのでは?」
「そうだとしても、恨みを持った魔獣に近づきたいと思わないよ」
「私がいるではないですか」
自信を誇示しているわけではなく、至極真っ当に答えるレオネールだった。
単体の魔獣ごときに遅れを取るなど、微塵も考えていない。
筆頭騎士とは、選りすぐりのエリートであり、その中での最高位だ。
一対一なら並ぶ者の無い、人類暫定一位の化物が、このレオネール・コルザ・ゼルフォンである。
「君を信用していない訳じゃない。だけど僕は、魔獣も信用しているんだよ」
「魔獣を信用、ですか」
腕組みをした彼女の表情が、僅かに崩れる。
人類の敵を信用する倫理観を攻めた訳ではなく、万が一にも敗北を喫する可能性について考えた為だ。
アルマンは椅子を座りなおして、手を組んで膝上に置いた。
「戦闘経験については、レオネールの方が遥かに上なのは認めるよ。でも、囮として魔獣をおびき寄せた数は、僕に勝てる者はいないさ」
「自信満々に言うことですか? ……というか、それはもしかして、サブトナル様の実験ですか」
「そうでもないと、僕が魔獣のいるところへ行くと思うかい?」
にこり、と笑うアルマンの眼だけが、笑っていなかった。
使ってはいけない召喚魔法しか使えない無力な男に、何が出来るというのだろう。
レオネールが、少し身を乗り出す。
「何があったんです?」
「あまりにも僕が魔獣を集めすぎるんで、魔界の門の前に連れて行かれたんだよね。そしたら、死に物狂いの魔獣が大挙して押し寄せてきて、押し返すのに連合側が相当な犠牲を払ってしまったんだ。それからは犠牲が増えるからって、むしろ遠ざけられてるよ」
「あー……それ、大魔界会戦です。歴史に残るしかない戦いですよ。被害が大きすぎて、勝ったのに負けたという、異常な会戦です。そのきっかけがあなただったとは、知りたくありませんでしたね」
「だよね。僕を守っていた兵士からも恨まれて、散々だったよ。恨むならサブちゃんの方だろうに」
嫌になるよね、と怒るアルマンだった。
彼女がそれに答えるはずもなく、手を叩いて話を変えた。
「ま、まあ、逆に考えましょう。二人で魔獣を捜索するのは困難でしたし、探す手間が省けたということです。アルマン様も戦う必要はありません。むしろ足手まといです」
「もう少し優しい言葉で言い繕ってくれないかな」
彼は口を尖らせていた。
レオネールが微笑む。
「ということは、協力してくれるんですね」
「手伝うって、言っちゃったしねぇ。魔獣と聞いて即座に逃げ出せなかったことを考えると、もう僕は『捕捉』されちゃってるだろうし。任せるよ」
「では、場所を移さなければいけませんね。幸いにして、戦う場所は選べますから」
戦士の顔つきとなった彼女が、顎に手を当てて考え事をしている。
アルマンはそれを邪魔することなく、部屋の窓から外を見た。
日は暮れ始め、夜が来る。
ふと聞こえた犬の遠吠えが、魔獣のそれと重なって聞こえたように思えるのだった。
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