見当違いの召喚士

比呂

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第9話

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「流石は――――サブトナル様の実験結果ですね」

 余裕の笑みを湛え、レオネールが槍を取る。
 いかにも安物の、衛兵が持つような簡素な槍だった。

 それが、地面に幾本も突き刺さっている。
 彼女が戦場に選んだのは、街から離れた草原だ。

 この場所であれば、人にも建物にも被害が無く、敵のやって来る方向も見通しが良いので奇襲も難しい。
 月夜が煌々と光り、篝火を焚いているおかげで、どうにか視界も確保している。

「やはり、この人を魔界から遠ざける方が正解です」
「褒めるとこ、違くない?」

 女騎士の背後に庇われているのが、アルマンだった。
 彼は身を縮め、敵である魔獣を見る。

 ギルドマスターが説明した通り、尻尾が三つに分かれた虎の姿をしていた。
 眼が赤く光り、牙は鋭い。

 そしてその横には――――外套を羽織った人影があった。
 深いフードに顔が隠されて見えはしないが、外套からわかるシルエットから考えると、女と思われる。

 レオネールが問うた。

「魔獣に襲われないところを見ると、人間ではありませんね。魔族の方ですか」
「…………」

 人影が声を発することは無かった。
 代わりに、魔虎が唸りをあげた。

「私が話をしているのです。黙っていなさい」

 表情も変えずに、槍が投射された。
 空気を捩じり曲げ、大気を裂く奇妙な音が瞬間的に響く。

「――――」

 魔虎の瞳が、レオネールを見つめたまま瞳孔を開き始めた。

 額から槍を生やし、穂先は顎を突き抜けて地面に埋まっている。
 遅れて気付いたのか、頭は貫かれた状態で、体だけが崩れ落ちた。

「……タケ、ツ――――ミ、ァァアァァッァァァァ」

 耳を裂く高音で、人影が叫ぶ。
 レオネールが後ろを向いて、アルマンに聞いた。

「あれもアルマン様が呼んだのですか」
「そうだったら、お帰り願うところだけどね。話通じるかなぁ」
「聞いてみます?」
「そうだね。……あのー、マントの人? もう帰って貰っていいよ。君は呼んでない」

 魔族の女が、急に首を曲げた。
 アルマンを見つめ、微動だにしない。

「何か怖いんだけど、この人」
「流石の煽りです、アルマン様。自分ではなく敵に向けられていると、これほど気持ちの良いものとは思いませんでした」
「そういうつもりは無いんだけど。君も苦労してるね」
「……ぐっ、流れ矢ですか。魔獣と魔族を前にして、初撃を味方から受けるとは――――この戦い、読めませんね」

 彼の何気ない煽りに、精神的ダメージを受けたレオネールだった。

 アルマンは表情を変えず、彼女の背中に隠れる。
 そして、魔族の足元を指さして言った。

「魔族が歩いたよ?」
「それはまあ、足があれば歩くでしょうね」

「あ、マントから剣が出てきたんだけど」
「武器くらい持ってますよ、当たり前です」

「ちょっとまって、この人パンツ履いてない! 変態だ!」
「何処を見ているのですか、あなたは――――くっ」

 剣戟が鳴る。
 気を取られて集中力の欠いたレオネールが慌てて剣を抜き、魔族の剣を弾き返した。

 その一合で、相手の膂力は知れた。
 剣に関しては警戒するほどの相手ではない。

 人の形をした魔族は魔法を使うので、油断は出来ないことを差し引いても――――アルマンの行動が読めなかった。

「まさか、ここまでとは」
「そんなに強いんだ」

 彼の言葉に、呆れたレオネールが答えた。

「予想以上の足手まといです、アルマン様」
「それ、色んな人に言われるんだよねぇ」

 うんうん、と頷くアルマンに、悪気がある訳では無かった。
 ただ、味方の士気を下げるには、充分すぎるのだった。


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