分水嶺は突然に

komatsu

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混乱

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【少し大きくなっんじゃないか?慶人、慶人とは言いづらいな。…熊でいいか。】


【お、お前は俺を知ってるのか?】
尾熊は突然現れた少女、獣、刀、それらを目の当たりにし、酷く混乱していた。

【知ってるも何も、ずっと道場でお前を見ていた。こうして会うのは初めてだがな。】

もう、本当に何が何だか…

【とりあえず服を着ろよ…、目のやり場に困る。】

【ウブな奴よのう、龍太なんぞ鼻の下を伸ばしておったぞ。】
そういうと少女の体は瞬く間に小さくなりネズミの姿になった。

【これなら問題あるまい。】
ネズミは尾熊のポロシャツの胸ポケットへと入り込む。
もはや気絶しそうになる尾熊はハッとし、大の元へと駆け寄る。

【いいか、大ちゃんの前では絶対にしゃべるなよ。ネズミが
喋ってると頭がおかしくなるからな。】

ネズミに念を押し尾熊は助手席のドアを開け、大ちゃん、大ちゃん、と数回叩く。

【ん、慶ちゃん…】
よかった、気絶していただけのようだ。

【ごめんな大ちゃん、事故っちまった。無事で本当によかった。】

【…事故?そういえば何かに追われてなかった?】
尾熊は一瞬獣が横たわっていた場所へと目を向けるが死体は消えていた。

【い、いや追われてないよ、カーブでスピンしちゃってさ。酔っぱらって夢でも見たんじゃない?】

【夢にしちゃリアルだったけど…】

【あ、どっか痛い所ないか?救急車呼ぼうか?】

【ううん、どこも痛くないし大丈夫。慶ちゃんは大丈夫?】
大は手のひらを開いては握りを繰り返し、たずねる。

【よかった、俺も怪我は無いよ。車は重傷だけどな!】
安心を与える為にわざと笑って見せた。

【…慶ちゃん車を大事にしてたもんね、僕が誘ったばっかりに…】

【大ちゃんは全然悪くないって!俺の運転ミスがいけんかったんよ、でもお互い命があってよかった。車は変えがきくけど体はそうはいかんからな!】

そう言うと尾熊は車の後ろを確認しに行った。
運転席側のブレーキランプ辺りを斜めにえぐられており、バンパーが脱落しかけていた。どうやらタイヤは無事の様だ。ブレーキランプや周辺のパーツは落ちてないか探してみるがよく分からない。

バンパーを力任せにもぎ取り後部座席の足元へ置く。

【大ちゃん、なんとか自走出来そうだ。帰ろうか。】
そう言い後部座席のドアを閉めた。

【熊、刀を拾ってこんか。】

ああ、忘れてた。

刀はもう炎を吹いてはいなかった、刀を拾い鞘に納め、車に乗り込む。

【よし、帰ろう。】
尾熊はズボンのポケットから鍵を取り出し、キーホルダーとして付けていた十徳ナイフを、運転席と助手席のエアバッグに突き立て、中のガスを抜く。

【くっさいな、きっとこのエアバッグで気絶したんじゃろうな。】

ステアリングとダッシュボードから飛び出たエアバッグを根元から切り落とし、アクセルを踏む。

【…慶ちゃんが事故なんて初めてじゃない?本当に何にもなかったの?】

【何にもないよ、スピンしてケツをぶつけちまった。これからは安全運転で帰るわ。】

【…修理費をせめて半分出さして。タクシー代わりにしちゃってたんだし。】

【いいって、車両保険入ってるから大丈夫!それより今痛くなくても明日、明後日に痛みが出るかもしれん。一応病院に行った方がええと思う。】
任意保険の対人対物無制限の保険には入っているが、車両保険には入ってはいなかった。大を納得させる為に嘘をつく。

車は大の家の前へと停められた。

【到着、今日は本当にごめんな、また呑みに行こうや。】

【…こっちこそごめんね、また絶対行こう。】
そう言って大は家へと入って行く。

尾熊は人通りの少ない路肩へ向かい車を止めハザードボタンを押す。

【…お前はいったいなんなんだよ。】
胸ポケットにいるネズミに話かける。

【お前とはなんだ、年上に向かって。】

【もう…、色んな事が重なって頭がおかしくなりそうだ…。お前は誰でなんで俺や親父を知ってるんだ、あの獣は?刀は?…ああ、気が触れてしまいそうだよ。】
尾熊はステアリングに頭を乗せ独り言をつぶやくように話す。

【…まあ混乱するのは分かるがとりあえず落ち着け。今は家へ帰り、寝た方がいいだろう。】

【寝て起きたら全て夢でした。ってなる事を祈ろうか。】

尾熊は少しづつ喋るネズミに慣れていた。無理やりでも自分を納得させないと本当に発狂しそうだったからだ。

家に帰り自室のソファに脇差を放り投げる。
【こら、粗末に扱うな】
ポケットから飛び出しベッドの上へと着地し、言った。

【もう喋るな、虫かごに突っ込むぞ。それからベッドの上に乗るな、病気になってしまう。】

ネズミの首根っこをつまみ床に下ろした。誰もいなくなったベッドに尾熊は倒れこむ。

【私を汚い物扱いするな!だいたいこの私に向かってなんと言う口の聞き方だ!】

ネズミは再びベッドに登り問い詰めようとするが、尾熊はすでに意識はなく寝息を立てていた。

【無理もないか、…おやすみ。熊。】




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