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少女
しおりを挟む【慶人よ、お前の記憶をちょっといじるぞ。なに、時期がくれば思い出す。それまでは忘れていろ。】
なんだろう、これは。
夢か…、親父がいるわけがないもんな、ああ今日も仕事だ、早く起きないと。
何やら騒がしいな、人が寝てんのに…
尾熊は目を覚まし、気絶していた事を理解した。
ああ、うるさかったのはこの車か…
グルルル…
低い唸り声が聞こえ、ヘッドライトの照らす先を見る。車ほどある犬のような狼のような獣が牙を剥き、一歩、また一歩と近づいてくる。
隣を見ると大も気絶しているようだ。
【この畜生が…、ローンがまだ残ってんだぞ…】
このままじゃ二人共食われちまう、なんとか大だけでも逃がさねえと。
尾熊はなんの策もなく車外に出、獣と向かい合う。
【この犬畜生が、食うんなら俺を食え、ただし俺は刺し違えてもお前を殺すぞ…】
言葉が理解出来るとは思ってはいなかったが思わず声が出た。
獣は身を低く構え、今にも飛びかかってきそうだ。
尾熊は頭の中で殺す策を練っていた。爪も牙もない人間がまともに戦って勝てる相手ではないのは一目瞭然だ。
どんな生き物であろうと目だけは無防備だ、その目は脳に繋がっている。大きく口を開け、食らいつくその一瞬を逃すな。渾身の貫手で目といわず脳みそを潰してやる。尾熊は刺し違える覚悟を決めた。
大ちゃん、必ずお前を守るぞ。
両膝を軽く曲げ深く息を吸う。
【来いやあああっ!犬っころっ!!】
ありったけの大声を出す、獣はそれが合図と言わんばかりに走り出した。
【私を抜けっ!】
頭の中で響いた声に思わず振り返る。
何かがこちらへ飛んで来ている。
手にした瞬間、脇差であると気が付いた。また振り返り獣と向き合う。
獣はもう尾熊の首を目掛けて飛んで来ている、1mもない。
尾熊はその場で身を低くすると同時に抜刀し、頭上に来るであろう獣の体に刀を振り抜く。
しまったっ!
刀から腕へと何の感触もなかった。
躱されたと思い勢い良く振り向く。
そこには両断された獣が横たわっており、切り口から炎が揺らめいていた。
手元に視線を落とす。握られていた脇差は炎に包まれており僅かに見える刀身は2mほど伸びていた。
ここで刀が発する熱に腕が焼かれる激痛が走り思わず手を離す。
【な、なんなんだよ、この刀は…、それにあの獣。】
尾熊は自分が正気を失ってしまったと思いその場でしゃがみ込む。
昼間に話していた事を思い出した。
でも自分はシャブやドラッグの類なんぞしていない。
まさかムーンズロックで薬を盛られたか、そんな考えが頭をよぎる。
いや、ミイちゃんはそんな事はしない。
頼む。夢なら早く覚めてくれ、頭がおかしくなりそうだ。
【やっと私の声が届いたな。さっきの焔の一閃は見事だ、龍太の小倅よ。】
振り返ると一糸纏わぬ一人の少女が手を叩いていた、周りの炎で揺らめくその体、雰囲気に背筋が凍る程の美を感じた。
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