分水嶺は突然に

komatsu

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ムーンズロック

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5分程で大の家に着いた。

携帯を取り出し中野大と表示された項目をスライドさせる。

【大ちゃん?着いたよ。道場で面白い物見つけたけん早よ出てきてや。】

すぐ出ると言い、電話は切られた。
大は助手席に座り、面白い物って何?と尋ねる。

【後ろに脇差があるじゃろ?あれ道場の壁の中に隠されてた。】
尾熊は左手親指で後ろの脇差を指差し言った。

【これは…、昔道場に飾ってあった物じゃないかな。確証はないけど。】

【やっぱりそう思う?俺も二本あった内の一振りかなって考えてた。あっ!行き先はムーンズロックでええんじゃろ?】尾熊は車をムーンズロックへと向かわせながら尋ねる。

【…うん、呑みに行くって時はあそこしかないでしょ。ミイさんにも見せてみたら?あの人ならすぐ分かると思う。】

【すぐ分かるって言えば家のおかんに見せたら早かったな。まあええか。】

【…先生の墓には行ってないの?今日手を合わせてきたけど多分ミイさんも来てたんじゃないかな、お供え物たくさんあったし。】

【骨が無えのに行っても意味ないってば、俺は仏壇だけええんよ。それより今日休みやったん?あ、そういえばお盆じゃったなあ。っと、着いたぞ。】

車はJR福山駅近くのコインパーキングへ停められた。ここからムーンズロックまで徒歩5分程だ。

【ミイちゃんの所も駐車場作ってくれたらええのにな、一台分でええから。】車から降りながら尾熊は大に話かける。


【…BARなのに車で来る人も少ないと思うし、駅近くだから駐車場もきっと高いよ。】

【それもそうか、あ!】

【どうしたの…?】

【脇差忘れた!でもあんなの持って職質されたら言い訳出来んけ、逆に忘れとって良かったわ。】

【…持ってくつもりだったの?てっきり写真でも撮ってると思ってた。今日は花火大会で警察も多いよ。】

【浴衣美人も今日は多いぞ、ほらあそこ!二人組だし声かけるか?】
尾熊は前方を歩く女性を見ながら言った。

【…とか言って声かける勇気もないでしょ。その証拠に26にもなって結婚もしてないし彼女の影すらない。】

【おー、おー、めっちゃ言ってくれるじゃん。ご機嫌斜めやな。でも大ちゃんも同んなじで?自分の言葉がブーメランしてる。】


【…看板光ってるね。】
大は尾熊の発言を無視して前方へ指を差す。

【営業するか電話してなかったんか?やってなかったらどうするつもりやったんや。】
ムーンズロックの休みはマスターであるミイの気分次第で不定期なのである。だから尾熊と大は呑みに行く時は電話一本入れるのが習慣となっていた。

【…休みだったら花火でも見ればいいかなーって、営業してるんだしいいじゃん。】

【野郎二人で仲良く花火観賞か…言葉にするのもおぞましいぞ。でも呑みに行くのも似たようなもんか。】

尾熊はムーンズロックと書かれたドアを開ける。

【こんばんわー、呑みに来たよ。】

【えっ!…久しぶりね。今日先生のお墓参りに行ったのよ?慶ちゃんは行ってないんでしょ。】
大は尾熊と顔を合わせて、ほらね?っと言った。

【大ちゃんの言う通りやったな、ミイちゃんと大ちゃんは入れ違いになったみたいじゃね。それにしてもビックリしすぎだよ。】

【ごめんごめん、大ちゃんはちゃんと行ったのね、それにしても二人は相変わらず仲がいいわね。小さな頃からいっつも二人で遊んでた。】ミイは昔を懐かしむように呟く。

尾熊と大はカウンターへ座る。尾熊がメニュー表を掴み大へと手渡す。

【俺はいつものコーラで、大ちゃんは決まった?】

【…じゃあ、kamikazeをお願いします。】

【暑い日には最適ね。私もkamikaze呑もうっと。】

【マスターが呑んでいいんかい、俺が頼んだコーラも暑い日には最適じゃろ?】

【慶ちゃんは年がら年中コーラでしょ。】ミイはkamikazeを作りながら鼻で笑った。

【酒苦手なんだからしょうがないじゃん、俺だって大ちゃんみたいに洒落た酒を呑んでみたいといっつも思うよ。】

【先生もすっごく弱かったわよ。きっと遺伝ね。】
はいっ、と尾熊と大の前にコーラとkamikazeを置く。

【音頭はやっぱり先生よね、ほら慶ちゃん仕切って!】

【いや、普通に乾杯でいいよ。湿っぽくなるのは性に合わんし、親父も嫌がると思うよ?】

【それもそうね、それじゃ独身に乾杯。】

3人はグラスを合わせ呑む。


【それはそうと慶ちゃん…】
ミイは真面目な顔をして尾熊に尋ねる。

【最近なんか変わった事はなかった?】

【変わった事って言えばさっき道場で脇差見つけたよ。】尾熊は煙草に火を付け答える。

【脇差?昔道場に飾ってあったあの脇差?】

【そこまで分からんけどかなり年季が入ってたな、実物持って歩くのは危ないと思って置いてきてるけど。】

【…やっぱり写真撮っておけばよかったね。ミイさん同じ物をお願いします。】
そう言う大のグラスは空になっていた。

【大ちゃん早いよ、いくら酒が強いからってハイペースで呑んだら倒れるで!】

【はいはい、羨ましがらない。その脇差は抜いてみたの?】

【いや、抜いてない。抜こうとした瞬間に大ちゃんから電話きてさ、古いしもしかしたら錆び付いて抜けんかもな。そうだ、壁の中に隠されてたんよ。】

【壁に…】ミイは顎に手を当て考えてる仕草をする。

【…なんで壁の中にあったんだろうね、先生が隠したのかな。】

【大ちゃんの言う通り親父が隠したんじゃろ、太刀もあるかと探してみたけど無かったな。ミイちゃんなんか知らん?親父の一番弟子だったんじゃけ。】

【ううん、分からない。ただ…】ミイが言いかけた時、微かにドン、ドンと音が聞こえてきた。

【始まったな。来年は彼女と見れたらええな、なあ大ちゃん。】

【…来年もここで呑もうよ、落ち着いていてここが一番居心地が良い。】

【あら、大ちゃん嬉しい事言ってくれるわね。これサービス。】
チョコとピーナッツが入った皿を大の前に置く。

【ミイちゃん俺にはないの?】

【しょうがないなあ、じゃあこれ。】

尾熊の前に出された皿にはピーナッツの殻があるだけだった。

【ごめんって!もし彼女が出来てもここに来るよ。うん。】

【ふふ、冗談よ。】ミイは皿を下げ大と同じ物を出してくれた。



三人は道場でしごかれ続けた思い出を肴に酒とコーラを呑む。


【もうこんな時間か、楽しい時間ってのは早いな。】尾熊は携帯をポケットから出し、液晶を見ていた。

【慶ちゃんは明日も仕事なの?】

【仕事じゃなあ、ウチの職場はお盆も年末年始もあんまり休めんからなー、大ちゃんは休みか?】

【…うん、明後日まで休み。】
尾熊はええなー、と呟く。それはホワイト企業に勤めている事と、あれだけ呑んでも赤くならない酒の強さを羨む言葉だった。

【…慶ちゃんそろそろ帰ろうか?朝も早いんだし。】

【そうじゃな、ミイちゃん勘定してもらえんかな。】

ミイは、ちょっと待ってねと言い電卓を叩く、が酔っていてなかなか計算が出来ないようだ。

【はい、5600円ね。】
尾熊は財布を出そうとしたが大に止められた。

【…誘ったのはこっちだから今日は奢るよ。】

【いやいや、俺も結構飲み食いしたけえ出させてーや。】

尾熊はそう言うが大は決して譲らず、ついには尾熊が折れた。

【大ちゃん今度は俺が奢るけん、また来ような。】

…うん、とだけ返事をし、会計を済ます。

【大ちゃん、慶ちゃん気をつけて帰ってね。とくに慶ちゃんは。】

【なんで俺をとくに心配してるん?酒呑んでないけ運転余裕よ!】

【そうじゃないけど色々とね、女の子の感よ。】

【大ちゃん聞いた?女の子だって、何歳か教えてくれんけどだいぶ年食ってるはずだよな。】

ミイが椅子を持ち上げたのを見て二人は慌てて、ごちそうさまと言い外へと飛び出す。

20m程走り振り向く、どうやら追ってきてはないらしい。

【おー、怖かった。椅子で殴られる所じゃったな。】尾熊はイタズラが成功した子供のような笑顔で大に喋りかける。

【そりゃ怒るよ。でも実際何歳なのかな?小さい頃から見た目があんまり変わってないよね?】

【いっつも歳を聞いたら怒るもんな、俺らが子供の頃からって言えば20年はたってるよな…、40は過ぎてんじゃねえの。】

【…それであの見た目だもんね、テレビ出られるよ。】

二人はコインパーキングに着き、尾熊が財布を出そうとしたのだが、ここの精算も大が出すと言って譲らなかった。

【奢って貰ってばっかで悪いよ、大ちゃん。】車に乗り込みエンジンをかけながら言う。

【…車も出して貰ってるしこのぐらいはさせてほしい。だから気にしないで。】

尾熊は昔っから大ちゃんは義理堅かったなと思い出した。
大人しそうに見えて案外頑固な性格をしている。

【ありがとう、んじゃ帰りますか。混んでるだろうから裏道ばっかり通るよ。】

二人を乗せ大の家へと向かう。

【…坂道でもグイグイ登っていくね。】

【うん、ディーゼルエンジンだからな!トルクが太いんよ。】

尾熊は愛車を褒められ嬉しそうに答える。裏道を使って帰るには山を一つ越えなければならない。それでも、花火大会を終え帰宅ラッシュとなっている国道を通るより、随分早く帰れるだろう。


運転している尾熊が、ルームミラーに映る2つの赤い点を見つけた。

この辺りにイノシシが出るのは珍しい事ではない。しかし、赤い点の周りの影はイノシシの身体の何倍もあるように見えた。

【大ちゃんっ!なんかが追って来とる!しっかり掴まれ!】

そう叫ぶとアクセルを力強く踏む。


【慶ちゃん…!なにあれ、イノシシか!】興奮しているようだ、普段大声を上げない大が叫んでいる。

尾熊は分からんとしか答えられない、運転操作を誤ると崖へと真っ逆さまだ。かといってスピードを緩めると追いつかれてしまう。



カーブに差し掛かる為、減速をした瞬間二人の体は強い衝撃を感じた。




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