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『洒落』<♂♀>
しおりを挟む~胡瓜の花言葉~
今、わたしの目の前には頬を赤らめて気恥ずかしそうに俯いている部下の姿があり、そんな姿の彼女に目のやり場に困って思わず視線を逸らした。
‘貰い手が無ければ、わたしが貰ってやろうか?’
(あれは、冗談で言っただけなのだが…。)
退社の時刻になり、部下数人を誘って飲みに行こうとしたが用事があるからと断られ、仕方無く寂しい部屋へ帰ろうとした時に彼女が声を掛けてきた。
「あの、部長お話が…。」
「何だい?」
「部長のお宅へ伺っても、よろしいですか…?」
「…まあ、構わないが。」
「!っありがとうございます!!」
「話とは…。」
「あ、いえ…。部長のお宅でお話させて頂きたくて…。」
「?」
会社では話せない内容なのかと思いながらも、彼女の様子に深刻な内容なら大変だしなと考えて、わたしは彼女を連れて家路に着いた。
部屋に着き、ドアを開けて中へ入る様に促すと彼女はどこか緊張した面持ちで‘お邪魔します。’と言ってゆっくりと足を踏み入れた。
そんな様子に苦笑が零れ、微笑ましいなと見つめていると、わたしの方をチラッと振り返った彼女がわたしの顔を見て、‘部長も早く入って下さい!!’と言って再び顔を逸らされてしまった。
夕飯は冷蔵庫の余り物を出し、一緒に食べながら彼女に話したい事について訊ねる。
すると、彼女は箸を置き、少し戸惑った様子でわたしを見つめながらある事を訊ねてきた。
「部長、あの…。…今年のお花見で、私に仰った言葉を覚えてますか?」
「花見の時に、君に言った言葉…?」
「はい…。あの…、その…、‘貰い手が無ければ、わたしが貰ってやろうか?’って…。」
「!」
頬を赤らめ、視線を逸らしながら放った言葉の内容に、花見の席でほろ酔い気分で発した言葉を思い出し目を泳がせる。
あの日、社長への酌を終えて部下達の元へと戻ったわたしの耳に飛び込んで来たのは、同僚の女性社員達から‘結婚したい相手は居ないの?’や‘付き合ってる男は居ないの?’などと絡まれて困っている彼女の声だった。
聞いては失礼だと思いつつ、彼女を好意的に見ていたわたしは何と無く立ち止まり、彼女の言葉に耳を傾けていた。
相手は居ない事や居たら紹介して欲しいと話している彼女の言葉に、内心少しだけ‘良かった…。’と思う自分と、‘もしここで名乗りを上げたら…。’と考える自分が居て、祭り気分と社長に勧められて飲んだ酒の酔いが後者の意思を強くし、気付いたら口走っていたのだ。
結局、その時は彼女の返事を聞く前に他の女性社員から茶茶を入れられて聞けず終いだったが、まさか、ここに来てその話になるとは…。
「………覚えているよ…。」
「!………あの…、あのお話…。」
「いや、あれは…。」
「…もし、宜しければ…、その、私を貰って下さいません、か?」
「………えっ!?」
少し俯き加減で放たれた彼女の言葉の意味を理解するまで少し時間が掛かったが、理解したらしたで思考は停止してしまった。
わたしが固まっていると、上目遣いでわたしを見つめた彼女は少し驚いた顔をした後、クスッと笑って‘冗談ですよ~。’と言葉を漏らした。
「…え、じ、冗談…?」
「はい。花見の席であんな簡単にあんな言葉を掛けて来たから、からかってしまいました。すみません…。」
「………。」
話しながら再び食事を始めた彼女に、呆けながらわたしも箸を取り、食べ物を口に運んだ。
先程までしていた味はせず、咀嚼しながらチラッと彼女に向けた目には、普段と変わらない彼女の姿が映っただけだった。
(…理由は兎も角、わたしも冗談だったんだよな…。)
「…部長すみません。今の冗談は冗談です…。」
「あ、ああ…。分かったよ。」
「そうではなくて…。」
「?」
「冗談は冗談ですから…。」
終わり
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