4 / 7
『固い約束』<♂♀>
しおりを挟む~白菜の花言葉~
小学生の頃、塾の帰りが遅くなり真っ暗な道を一人駆け足で走り抜けていた私は、街灯の付いてない電柱の陰から伸びて来た手に捕まった。
突然の事に驚きと恐怖が込み上げて来て、大声で叫びかけたその時、荒い息づかいを顔に感じ何かで口を塞がれた。
今にして思えば、私の口を塞いだのは私を捕らえた者の唇だったのだろう。
その時はただ怖くて、口を塞がれたまま涙を流していた。
口が自由になる頃には足に力が入らなくなっていて、掴まれた手を離された事で私は座り込んでしまった。
相手はしばらくその場に立っていたが、小さな声でそれでもはっきりと一言言葉を発すると、私に構う事無く走り去った。
結局その日は、震える足をなんとか動かして家まで帰れたけれど、玄関に入って早々、ホッとしてその場に座り込んだ。
そんな私の姿を見た母は心配した様子で駆け寄ってきて、何があったのかと聞きながら怪我や服の汚れを気にしていた。
あの日から、私はどこへ行くにも父か母に送迎してもらうようになり、二人が無理な時は、年の離れた従兄弟のお兄ちゃんに送迎してもらう事になった。
事情を話したら、快く引き受けてくれたお兄ちゃん。
お兄ちゃんは、父のお兄さんの息子さんで、私達が今の家へ来る少し前からその近くに住んでいた。
私が小学1年生に上がった時は道に迷わないようにと、よく一緒に登校してもらっていた事もある。
その頃から、私はお兄ちゃんを‘お兄ちゃん’と呼んで慕っていた。
「あ、お兄さん来てるよ!」
「良いね~。行きも帰りも送り迎えなんて、お金持ちみたい」
「も~、そんなんじゃないって…」
「相変わらず格好いい~!!彼女がいないなんて不思議よね」
「そう言えば…」
「ほら、早く行かないと」
「うん。皆、またね!!」
タタタッ
ガチャッ
「お兄ちゃん、遅れてごめんなさい!!」
「ん~?別に構わねえよ」
バンッ
「ちょっと委員会が長引いちゃって…」
「高校生も大変だな」
高校へ入ってからは父も母も仕事が立て込んでるみたいで、いつもお兄ちゃんが車で高校への送迎をしてくれている。
ここで出来た友達は私の送迎理由を知らなくて、知り合った当初は変な顔をしていたけれど、理由を話したら納得してくれたみたいだった。
今ではすっかり馴染んで、お兄ちゃんが迎えに来るとからかわれる様になったけど…。
「…ねえ、お兄ちゃん」
「ん~?」
「嫌じゃない?」
「何が?」
「私の送り迎え…」
「いいや~」
「嫌になったら、言って…。父さんと母さんに話してみるから…」
「…どうした、急に?」
「えと…、もし彼女さんとかいたら迷惑かなって、思って…」
「………彼女なんていねえよ」
「それに、もう大丈夫かなって…。あれから特に何も無いし、来るならとっくに来てるだろうし…」
「…用心するに越したことはないだろ。伯父さんや伯母さんの気持ちも分かるしな」
「…それは…」
「まあ、お前が嫌なら仕方ねえけど…」
「私は、嫌じゃないよ。けど…」
「なら、俺の事は気にすんなって、な?」
「………」
私がお兄ちゃんに迷惑じゃないかと聞いた理由は、本当にそう思ったからもあるけど、もしお兄ちゃんに彼女がいて鉢合わせしたくないと思ったからでもある。
お兄ちゃんの言葉に頷く事は出来なかったけれど、とても嬉しいと思った。
だけど、その気持ちはすぐに打ち消されてしまったのだ。
お兄ちゃんの一言で…。
「…‘数年後、必ず迎えに行く’だったか…」
「!」
「お前はそいつの顔、見たのか…?」
「………ううん…」
「声に聞き覚えは?」
「多分、無い…と思う…」
「他には覚えて無いのか?」
「うん…」
「そうか…。………もしそいつが今、目の前に現れたら…やっぱり怖いか?」
「…よく分かんない…。けど…」
「けど?」
「やっぱり、怖いと思う…」
「…だよな」
呟いたお兄ちゃんの横顔はどこか遠くを見つめているようで、その姿が私にはとても格好よく見えた。
同時に、私の胸は高鳴った。
「………お兄ちゃん」
「ん?」
「私、お兄ちゃんが迎えに来てくれるなら嬉しい、かも…」
「え…」
「なんて、ちょっと思ったんだ…」
「………いいぞ」
「え?」
「お前が高校卒業したら、迎えに来てやるよ」
「…お兄、ちゃん…?」
「嫌か?」
「う、ううん!嬉しい…」
「…あの時の、約束も兼ねてな…」
「え?」
「こっちの話だ。約束するよ」
「っ~…、ありがとう…」
最後の言葉は聞き取れなかったけれど、お兄ちゃんのしてくれた約束に私は卒業式の日が待ち遠しくなったのだった。
(約束、か…)
終わり
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる