【花言葉~野菜編~】

色酉ウトサ

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『よい語らい』<♂♂>

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~茄子の花言葉~



「ま~た、そんな本読んでんのか?」

「………」

「お前も飽きないな~」

「………」

「…何か言い返して来いよ」

「…いつもいつも飽きないですね」

「おっ!やっと返して来たな」

 嬉しそうに話す男の言葉に、青年は再び本へ視線を移した。


――青年は、本を読むのが好きだった。

 内容は特に、童話や児童文学、オカルトチックなものや哲学書など、夢があるような無いような本を読むのが好きだった。

 場所は公園のベンチで、時間帯は正午過ぎ。

 天気さえ良ければずっとそこに居て、自ら持参した本を読み耽っていた。
誰にも邪魔されず、ただ一人、本の世界に入り込める静かな時間だった。

 そんな日々がある日、少しだけ変化した。

 いつもの様に青年がベンチへ腰掛け、本の世界へ旅立とうとした瞬間、ある男に声を掛けられたのだ。

 声を聞いただけで、青年はその人物が何者なのかが分かったものの、敢えて聞こえない振りをして本へ目を落とす。
それを知ってか知らずか、男は青年の隣に腰掛けると一人で話し続ける為、青年は本に集中出来ず、それでも男と関わりたく無い為に読んでる振りを続けていた。

 けれど、そんな日々を過ごす内に青年は男の存在が嫌では無くなり、本を読む振りをしながら話を聞くのが楽しみにさえなっていった。

 普段から人と関わりを持たない青年にとっては、人が自分へ話し掛けて来るという事自体が新鮮で、ずっとそれを繰り返して来る事にも興味がわいた。

 そんな時間を重ねる内に、青年は自らも男に言葉を返してみようと思ったのだ。

「あちゃ~、また本の世界に行っちゃったか…。まあ、言葉を返してくれただけましか」

「………どうして、僕に構うんですか?」

「ん?お、お?漸くそっちから話し掛けて来てくれたか!!」

「………」

「どうしてって、そりゃあ俺がお前の義父さんになるからだよ」

「………嫌じゃないんですか?」

「嫌?」

「…今まで、母さんは何回も色々な男の人達と付き合ってきました。その男の人達は皆、僕の存在を無いものと考えて付き合っていた」

「ああ~、ま、そんなもんなんじゃないか?」

「…だけど貴方は、僕の存在を無いものとは考えずこうして話し掛けて来る。しかも、結婚まで…」

「お、ヤキモチか?母さんが取られるのが悔しかったのか」

「違います!!…母さんが結婚するなら、幸せならそれで良い。その時は僕も、家を出て行きますから…」

「駄目だ」

「え?」

「家族は皆一緒に暮らすものだろ?俺は、お前が居るのを承知で付き合い、結婚も決めた」

「どうして?」

「…お前は気付いて無いだろうが、俺はお前の事を知ってるんだ」

「………」

「お前の母さんの仕事場に、お前も何回か足を運んでいただろ?」

「はい…」

「その時にお前、俺にスゲエ優しい顔を見せてくれたんだよ」

「優しい、顔…?」

「ああ。周りの奴らに話しを聞いたら、お前の母さんの子供だって教えて貰ってな。…同時にまあ、色々聞かされたよ」

「………」

「その時に、俺はお前の家族になりたいって思ったんだ」

 真っ直ぐに正面を見つめながら話す男に、青年は掛ける言葉を失った。
その事に気付いた男は苦笑し、青年の頭を撫でながら「駄目か?」と訊ねた。

 俯いてしばらく黙り込んだ青年だったが、ゆっくりと顔を上げ男の方へ向けると、「宜しくお願いします」と言って微笑み、涙を一筋流したのだった。

「泣くなよ~」

「すみません…」

「…なあ」

「何ですか…?」

「義父さんって、読んでみてくれねえか?」

「!…義父、さん…」

ギュッ

「ありがとよ!!」



終わり
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