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『マッチ売りの少女~少女視点~』
しおりを挟む「マッチはいかがですか?」
「う~ん、今はいらないよ」
「そうですか…」
人通りの多い路地の一角で、マッチを売っていた。
通り掛かる人に声を掛けては見るものの、なかなかマッチを必要としてる人はおらず、手さげの籠にいっぱいに入ったマッチは減る様子を見せなかった。
「どうしよう…。このマッチが売れなくちゃ、お父さんに叱られちゃう…。それどころか、お婆ちゃんにも迷惑掛けちゃう」
少女は母親を早くに亡くし、今は父親と二人暮らし。
そんな父親は、妻を亡くしてからは酒ばかり飲むようになり、少女にも暴力を振るう様になった。
母親が亡くなってからも様子を見に来てくれていた祖母も、少女が暴力を振るわれる様になってからは何度も引き取ると言ってくれてはいたのだが、父親はそれをよしとせず、祖母が少女を自宅に招いただけで警察沙汰にする程だった。
ヒュ~…
「寒っ…。だんだん寒くなって来たわ…。マッチはいかがですか~?」
なかなか買ってくれる人はいないと知りつつも、陽が沈むまで少女はマッチを売り続けた。
結局この日売れたマッチの数はたった3個で、殆ど人の通らなくなった通りをトボトボと歩きながら少女は家へと帰った。
「ただい…」
ドサッ
「え…、何の音?」
「金額が少ない」とか、「もっと稼いで来い」などと言われる事を覚悟してドアを開けた少女の耳に飛び込んで来たのは何かが落ちる様な音で、不思議に思いながらも少女は音のした部屋へと近付き、ドアを開けた。
次の瞬間、少女の目に飛び込んで来たのは口から大量の血を吐き、目を見開いた状態で倒れている父親の姿だった。
驚きながらも慌てて近寄り、身体をゆすって声を掛けた少女だったが反応は無く、既に息絶えている事を知ると床に座り込み静かに涙を流した。
「おとう…さん…」
サァッ
「…風…?」
涙で濡れた頬にひんやりとした風が当たり、吹いて来たであろう方へ顔を向けた少女は窓が開いている事に気付くと、静かに立ち上がり窓へと足を向けた。
「どうして、窓が開いてるんだろ…」
バタン
「え?」
「お~、本当にいたぜ」
「だ、誰…?」
「俺はお前の親父の知り合いだ。お前の親父、俺に借金があってな…って、本人死んでんのかよ…」
「お父さんの…知り合い?」
「ま、本人は死んでても契約は契約だよな。お前を引き取りに来たんだ」
「引き取るって…」
「お前を担保に金を借りてたんだよ」
「嘘…」
「本当だって、ホレ」
無断で家へと入って来た男の話に、少女は固まった。
そして、同時に見せられた紙に書かれている内容と、そこにサインされてる父の名前と印に男が言っている事が嘘では無いと知り、その場に崩れ落ちた。
男は少女の様子を見つめながら小さく溜め息を吐き、亡くなっている父親へと視線を向ける。
「…ひでえ親父だな。娘を身代わりに金借りるとか…」
「………」
「さ、早く立て。一緒に来て貰うぞ」
グイッ
「…いや…」
「仕方ねえだろ。契約なんだ」
「そう言う事かい…」
「あ?」
「え…、お婆ちゃん!」
「その手をお離し」
少女の腕を引っ張り、家から連れ出そうとした男の耳に何者かの声が聞こえ、声のした方へ顔を向けたのと同時に少女は声の主を呼んだ。
声のした先は部屋の入り口で、そこにはお婆ちゃんと呼ぶにはまだ若いのではないかと思われる女性が立っていて、男は思わず凝視していた。
女性は、未だ男に掴まれている少女の腕を見てゆっくりと二人に近付くと、男の手首を掴んで力を込めた。
グッ
「痛ててて!止めろ、離せよ!!」
バッ
「離せと言っているのに、離さなかったのはお前さんだよ」
「何だって言うんだよ!俺は、この娘の親父からこの娘を借金の担保として受け取るって約束なんだよ」
「はあ…」
「お婆ちゃん、私…」
「お前は気にしなくて良いよ」
「でも、契約書が…」
「お前さん、その借金と言うのはいくらなんだい?」
「あんたが払うってのか?」
「孫の為だよ」
「ほ~。金額はざっとこんなもんだが、あんたに払えんのかい?」
「…安いね。これから家へおいで、払ってやるさ」
「そうかい」
二人の会話を聞いていた少女は目を見開き、女性の腕にしがみついて払わなくても良いと訴えた。
少女のそんな姿を見つめた女性は優しく微笑むと、そっと頭を撫でながら「払わせて」と答えた。
次いで、「さ、行くわよ」と言いながら少女の手をキュッと握ると、男へついて来る様に促して部屋を後にする。
手を引かれて部屋の入り口へ差し掛かった少女はふと、亡くなった父親を振り返り見つめ、口を一文字に結びピタリと足を止めた。
「!…どうしたんだい?」
「………」
「…父親かい?」
「………お父さんは…」
「ん?」
「お父さんは、どうして死んでしまったのかしら…」
「さあね…。酒の飲み過ぎか、寒さにやられたか…」
「…私…」
「…」
「お父さんを置いていけない…」
「…大丈夫だよ。父親もちゃんと、うちで引き取るからね」
「…本当?」
「ああ。だから安心して、家へおいで」
真っ直ぐに少女の目を見つめながら話し、女性は再び歩き始めた。
その後、少女は祖母に引き取られ、何不自由無い生活を送ったのだった。
「お婆ちゃん、本当にありがとうございます」
「気にしなくても良いよ。…やっと、手に入れられた」
「え?」
「これからは、私の言う事をきちんと聞くんだよ?」
「は、はい!」
「良い子だね。それじゃ、食事にしようか」
(あの父親、本当にろくでも無い男だったね…。うちの娘も見る目が無かったんだね。まあ、でも…)
サラッ
「お婆ちゃん…?」
「本当に良かったよ…」
「?」
(これで、この娘は私のものだ。もう誰にも渡しはしないよ…)
終わり
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