【色欲物怪物語】

色酉ウトサ

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『川赤子』<妖怪?・人間♀>

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 その日、娘は隣町にある病院へ母親の見舞いへ行っていた。

 娘の母親は現在、第二子出産のため入院しており、忙しい父親の代わりに娘は学校帰りに毎日病院へ母親の様子見と洗濯物を受け取りに通っており、その日もそんな変わらない日々の1日だった。

『来てくれるの、毎日じゃなくてもいいのよ…?』

「も~、お母さん私に気を使いすぎ。私が好きで通ってるだけなのに…。でも、日が落ちるの早くなったな…」

 娘たち家族が住む町は長閑な田舎町で、自然は多いが買い物などは隣町まで行かなければならないような所だった。

 そのため、学校から病院まではバスですぐに向かえたが、病院から自宅まではバスを乗り換えたあと、しばらく歩かなければならなかった。

ガサガサ

「今日の晩ご飯は安くお魚買えたから…」

「――ギャァ――」

「…ん?カラスかな…」

「――ギャァ……ギャァ…」

「猫?も、いない…」

 買い物袋の中身を見ながら川原を歩いていた娘の耳に何かのなき声が聞こえ、立ち止まり辺りを見回した娘だったがそれらしい生き物は見当たらず、気のせいかと再び歩を進めた。

 しかし、娘が歩き始めるとその声ははっきりと聞こえ始め、娘はその声が人間の赤ん坊の声だと気付くと、声がする川辺へと歩き始めた。

「オギャア、オギャア――」

「こっちかな…?なんで赤ちゃんの声が…。近くに人のいる気配はないし…!まさか、捨てられ…」

 数日前に子供を捨てた母親が捕まったと言うニュースを見たばかりだった娘は鞄や買い物袋を投げ捨てると、青ざめながらも声のする川の淵を更に必死に探し回った。

「オギャア、オギャア」

「え、こっち?」

「………オギャア、オギャア…」

「そ、そっち?」

 近付いたと思えば離れ、離れたかと思えば近付く。
姿は一向に見えない赤ん坊の姿に娘は次第に気味悪さを覚え始めた。

「な、なんで?さっきはあっちで泣いてたのに…それに、キャッ!?」

ズルッ

バシャン

思わず後退りしたその瞬間、娘は湿った草に足をとられ川の中に座り込んでしまった。

 大きな怪我などはしていなかったが、腰から下が水に浸かってしまい、娘は大きな溜め息を吐いた。

「はぁ~…。浅くて助かったけど、なんでこんな目に遭わなきゃいけないのよ…」

「オギャアッ、オギャアッ」

「えっ!?」

ザバッ

ガサガサッ

「あ、こんな所にいたの…」

 娘が立ち上がろうとしたその時、すぐそばの茂みから赤ん坊の声が聞こえた。
慌てて草を掻き分けた先にいた赤ん坊の姿を確認した娘は、少しほっとしながら赤ん坊を抱き上げると、軽く背中をポンポンと叩きながらあやした。

ポンポン

「ふぇっ…ふぇっ…」

「よしよし、良い子だね~」

(赤ちゃんの抱き方、勉強しといて良かった…。それにしても、なんでこんな所に…?それに、ここはさっきも…)

「…フギャァ…」

「え?あ、もう大丈夫だよ~。お母さん探してあげるからね~」

(早くお巡りさんの所に連れて行かないと…)

ズルッ

「あっ、ヤバッ!?」

ドサッ

 再び泣き出しそうな赤ん坊の様子に、親を探して貰うため慌てて交番へ向かおうと膝を返した娘だったが、またも草で足を滑らせ転んでしまった。

 しかし、赤ん坊だけはしっかりと抱き締めていたため、怪我をさせずにすみ、ほっと胸を撫で下ろした。

「イタタ…って、怪我は!!…大丈夫、みたいね…良かった…」

トサッ

 ほっとして思わずそのまま仰向けに倒れこんだ娘。
けれどこのままではいけないと上体を起こそうとしたその時、腹部に乗せたままの赤ん坊が裾から服の中に潜り込んでいるのが目に入った。

 驚きながらも引っ張り出さなくてはと考え、赤ん坊の腰の辺りに手を掛け引っ張った。

「ちょっと、駄目だよ。出て来て」

グッ

ズルッ

「…え、あ、ちょっ!」

 引っ張った瞬間、服の中で下着がズレて胸が露になるのを感じた娘は思わず赤ん坊から手を離し、下着を元に戻そうと自身も服の中へと手を入れた。

 しかし、下着は赤ん坊が掴んで離さず、なかなか元に戻せずに苦戦する娘。

グググ

「おねがっ…離して…」

ギュッ 

「やっ…って、え?あ」

コリ

「なっ!?あっ…ん…まさか…」

 娘が下着を元に戻そうと苦戦している最中、不意に胸を直に掴まれる感覚がして、驚いて動きを止めた。
同時に胸の先端を何かが掠り、娘は嫌な予感を覚えた。

 その予感はすぐに的中した。

 赤ん坊が露になった娘の胸に吸い付き、必死に母乳を吸い出そうとし始めたのだ。
初めての感覚に娘は驚きと恥ずかしさでいても立ってもいられず、赤ん坊を引き剥がしにかかった。

グッ

「止めて…、お姉ちゃん、おっぱい出ないの…」

チュッチュッ

グググッ

「お願いだから…、離れて…」

ギュムッ

「やぁ…おねが…」

 必死に引き剥がそうとするが赤ん坊は胸の突起に吸い付いたまま剥がれず、しまいには反対側の胸を鷲掴み、離れたくないとの意思を示しているようだった。

 いつ誰が通るかも分からない川原で、音を立てながら胸を吸われながら揉まれ、恥ずかしさと赤ん坊が離れてくれない恐怖から娘は涙を流し続けた。

チュッチュッチュッチュッチュッチュッ

「…ふぅぅ…もぅっ…」

チュパッ

「…あ、終わっ…、た…?…はぁ~…」

 どれくらいそうしていたかは分からないが、ようやく赤ん坊は娘の胸から口を離した。
離れてくれた安堵感から娘は身体の力が抜け、赤ん坊を服の中から出すことも出来ず、その場から動けずにいた。

 ようやく気持ちが落ち着き、赤ん坊を交番に連れていかなくてはと服の中から出そうと手を伸ばした娘。
瞬間、先程まで感じていた腹部の重みが無くなっていることに気付き、慌てて服の中を覗いた。

 けれどそこに赤ん坊の姿は無く、露になった胸だけが目に飛び込んできた。

 ぼんやりしている内にどこかへ行ってしまったのかと、急いで辺りを見回した娘だったがどこにも赤ん坊の姿は無かった。

 まさかと考えながらも、ヨロヨロと川の淵まで歩いて行き、川に落ちていないことも確認した。

パシャ

(まさか、川に落ちてないよね…。う~ん…、よく見えないな…)

「――オギャア――」

「あ…」

 辺りはすでに暗くなっており、川の中までは見えなくなっていたため木の枝を川の中に差し込み、川底を漁りながら赤ん坊を探す娘。

 しばらくそうしているとどこからともなく赤ん坊の泣き声が聞こえ始め、娘は顔を上げると声のした場所がどこなのか辺りを見回した。

 始めは川に落ちてなかったことに安堵した娘だったが、次第に声の聞こえる場所が一ヵ所だけではないことに気付き青ざめた。

「オギャアッ オギャアッ」

「…え?あっちからも?」

「ォギャア ォギャア」

「――オギャア オギャア」

「な、なんで…、こんなに声が…」

チャプン

「!」

 背後から水音がして勢いよく振り返った娘の目に飛び込んできたのは、川面から伸びている無数の子供の手だった。

 恐怖からその場にへたりこんでしまった娘。
娘が動けなくなると、無数の手は一斉に彼女を目掛けて伸びてきて、足をしっかり掴むとそのまま川の中へと引きずり込んだ。

「キャッ!!」

ズルッ

ドボンッ

「っ…な、なんだったの…?ヒッ!?」 

 川に落ちはしたが川底が浅かったため溺れずにすみ、驚きながら辺りを見回した娘だったが、視界に飛び込んできた光景に目を見開いた。
辺りはすっかり暗くなっているのに、はっきりと分かるほどたくさんの白い赤ん坊の手が娘の周りを囲むように水中から伸びていたのだ。

 異様な光景に恐怖から慌てて立ち上がろうとした娘だったが、伸びていた手が娘の腕や腰にしがみついて離れず、立ち上がることもその場から動くこともかなわなかった。

 そうこうしている内に娘の身体は徐々に水の中に沈み始め、必死にもがいた娘だったがしがみついている手は離れることはなく、水に沈みながらも目を見開いて状況を確認した。
 
ゴボッ

(い…、一体、なにが…っ?!)

ガボッ

(そ、んな…)

 もやける視界に飛び込んできた光景は、娘の逃げる気力を奪うのに充分だった。

 娘の周りには先程の赤ん坊と同じくらいの赤ん坊が囲むようにたくさん浮いていて、その赤ん坊達が娘に手を伸ばしながら向かって来ていたのだ。

(…こんな…に、いたの…)

ゴボッ

 息苦しさと恐怖、赤ん坊達にしがみつかれ逃げられないことへの絶望で娘はそのまま意識を失った。

「――あ~、う~」

「!…ん…、あれ…、私…」

 どこからか聞こえた赤ん坊の声にハッと意識を取り戻した娘が辺りを見回すと、そこは水の中ではなく草の上だった。

 ぼんやりしながら上体を起こした娘は、意識を失う前のことを思い出しながら自身の状態を確認する。

 水に落ちた筈なのにどこも濡れておらず、ましてや水辺にすらいなかったのだ。
狐につままれた気分で川の方へ目を向けたが、黒々としている以外は特に変わった所はなく、川が流れる音が聞こえるだけだった。

(…さっきのは一体、なんだったんだろ…)

ガサッ

「!」

サァァァ

(…風?)

「―――オギャア」

「!…は、早く、帰らなきゃ…」

 不意に近くの茂みから草が動く音がして身体をビクつかせた娘だったが、肌に触れた空気と草木を揺らす音に風が吹いていることに気付き胸を撫で下ろした。

 瞬間、風音の中に赤ん坊の泣き声が聞こえた気がして、背筋に寒気をおぼえた娘は慌てて近くに落ちていた鞄に手をかけると立ち上がり、その場から逃げるように早足で立ち去ったのだった。

(あれは、夢…?それとも…)

 未だしっかりと残っている胸への刺激に気付かない振りをしながら…。





終わり
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