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19 失礼な来客ー2
公爵は何も言わず、ただ私の隣で紅茶を口に運んでいた。その沈黙が、むしろ私に『好きにしていい』と背中を押してくれているように感じた。
「あの子は、『手懐ける』ような存在ではありません。私の大切な家族であり、日々まっすぐに育ってくれています。バルバラ様について何かお感じになられることがあるのはご自由ですが――あの子の人格までおとしめるような物言いは、キーリー公爵家への侮辱でしょうか?」
アベラールは私の可愛い天使であり、正統なキーリー公爵家の後継ぎ。大事な息子をけなされて黙っている母親なんていない。
早めに厳しくしておけ、ですって?
なぜ、ドーハティ伯爵に言われなくてはならないの?
親戚でもないのに――いいえ、親戚であっても許せないことだわ。
すると、公爵がメラメラと深紅の瞳を怒りで燃やした。
「……俺の息子に対して、随分と無礼な物言いをするのだな。俺の妻に対しても失礼だろう? 伯爵、あの子のしつけをどうこう言う前に、まず君の夫人と君自身の歪んだ性格を矯正するべきだ」
その場の空気がピンと張り詰めて、暖炉の薪がぼわっと燃えあがる。ちなみに、今日は汗ばむほどの暑さなのだけれど。
公爵の魔力の揺らぎが、暖炉の薪に引火したのね。
伯爵夫人はぎこちなく笑い、伯爵も咳払いひとつでごまかそうとした。
「いやはや、少々言葉が過ぎましたな。ご無礼を――」
「次回の訪問は、もっと穏やかな話題にすべきだろうな。まぁ、次回があるかどうかはわからんがな。それと、俺の妻がどこの出身であろうと、品位においては伯爵家の誰よりも上だと思っている。ドーハティ伯爵夫人は自分が俺の妻より上だと勘違いしているようだが……爵位の階級すら理解していないのか?」
公爵の声音は鋭く明らかな怒りを含んでおり、退室を促すには十分だった。伯爵夫妻はお茶も飲みきらぬまま、気まずそうに立ち上がり、あたふたとキーリー公爵家を後にした。
「私はエッジ男爵家で育ったことを少しも恥ずかしいとは思っていませんわ。ですが、かばってくださりありがとうございます。やはり夫が妻の味方をしてくれるのは、心強いですわね」
「いや、当然のことだとも。ここは暑いな。あぁ、薪にいつの間にか着火してしまったか。伯爵の髭を焦がさなかっただけでも奇跡的だな。俺の妻と子供を舐める発言は許せんからな。……しかし、ドーハティ伯爵夫妻には腹が立った。自分の家族をけなされるのがこれほど屈辱とは、初めて知ったよ」
私は嬉しい気持ちが顔にでてしまう。ドーハティ伯爵夫妻には嫌な思いをさせられたけれど、公爵がこのように私たちのために怒ってくださるのは嬉しい。
私とアベラールをちゃんと大事な家族として思ってくださる、ということだから。
『嫌な人たちでも、今回のことは許してあげよう』そんな気持ちで思わずにっこり笑ったら、公爵もふわりと笑みを浮かべた。
「君がそうやって笑っているから、俺もあんな失礼な奴らは忘れるとしよう。さぁ、明日のピクニックの楽しいことを考えるとするか? ボートに乗って、湖を散策して……」
私の頭も早速明日のサンドイッチのことで頭がいっぱいになった。
「あの子は、『手懐ける』ような存在ではありません。私の大切な家族であり、日々まっすぐに育ってくれています。バルバラ様について何かお感じになられることがあるのはご自由ですが――あの子の人格までおとしめるような物言いは、キーリー公爵家への侮辱でしょうか?」
アベラールは私の可愛い天使であり、正統なキーリー公爵家の後継ぎ。大事な息子をけなされて黙っている母親なんていない。
早めに厳しくしておけ、ですって?
なぜ、ドーハティ伯爵に言われなくてはならないの?
親戚でもないのに――いいえ、親戚であっても許せないことだわ。
すると、公爵がメラメラと深紅の瞳を怒りで燃やした。
「……俺の息子に対して、随分と無礼な物言いをするのだな。俺の妻に対しても失礼だろう? 伯爵、あの子のしつけをどうこう言う前に、まず君の夫人と君自身の歪んだ性格を矯正するべきだ」
その場の空気がピンと張り詰めて、暖炉の薪がぼわっと燃えあがる。ちなみに、今日は汗ばむほどの暑さなのだけれど。
公爵の魔力の揺らぎが、暖炉の薪に引火したのね。
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「いやはや、少々言葉が過ぎましたな。ご無礼を――」
「次回の訪問は、もっと穏やかな話題にすべきだろうな。まぁ、次回があるかどうかはわからんがな。それと、俺の妻がどこの出身であろうと、品位においては伯爵家の誰よりも上だと思っている。ドーハティ伯爵夫人は自分が俺の妻より上だと勘違いしているようだが……爵位の階級すら理解していないのか?」
公爵の声音は鋭く明らかな怒りを含んでおり、退室を促すには十分だった。伯爵夫妻はお茶も飲みきらぬまま、気まずそうに立ち上がり、あたふたとキーリー公爵家を後にした。
「私はエッジ男爵家で育ったことを少しも恥ずかしいとは思っていませんわ。ですが、かばってくださりありがとうございます。やはり夫が妻の味方をしてくれるのは、心強いですわね」
「いや、当然のことだとも。ここは暑いな。あぁ、薪にいつの間にか着火してしまったか。伯爵の髭を焦がさなかっただけでも奇跡的だな。俺の妻と子供を舐める発言は許せんからな。……しかし、ドーハティ伯爵夫妻には腹が立った。自分の家族をけなされるのがこれほど屈辱とは、初めて知ったよ」
私は嬉しい気持ちが顔にでてしまう。ドーハティ伯爵夫妻には嫌な思いをさせられたけれど、公爵がこのように私たちのために怒ってくださるのは嬉しい。
私とアベラールをちゃんと大事な家族として思ってくださる、ということだから。
『嫌な人たちでも、今回のことは許してあげよう』そんな気持ちで思わずにっこり笑ったら、公爵もふわりと笑みを浮かべた。
「君がそうやって笑っているから、俺もあんな失礼な奴らは忘れるとしよう。さぁ、明日のピクニックの楽しいことを考えるとするか? ボートに乗って、湖を散策して……」
私の頭も早速明日のサンドイッチのことで頭がいっぱいになった。
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