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「鳥」
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高坂が「鳥なんか飼って、どんな風の吹き回しだ?」私が、苦笑しながら「特にどうもしやしないよ。」
息子の高校の卒業式が、明日というのに自分でいうのも何だが、暢気な心持ちだ。高坂にも息子の春輝と同じ学校で同期の娘がいる。高坂は「今夜は眠れそうにないよ。早いものだな、3年間というものは。まあ、無事に終われたら何も言う事はないよ。」
私は、高坂の胸中が羨ましくもあった。それもそうだ、実感のない私には、彼の心境が子どもをもつ親にとっては、それが当たり前だと思ったからだ。高坂とは同じ会社の同僚だ。今日は、会社を上司に話し定時で上がり、二人で会社を後にした。
「高坂、俺たちにも同じ様に卒業式というものが有ったと思うが、その時の記憶ってあるか?俺には全く無いんだよ。」
高坂は「お前、子供の卒業式が明日だというのに、まるで他人事みたいだな。確かに俺自身も、あまり定かではないが、終えた後の学校の帰り道に、もう明日から通う事は無いんだという寂しかった記憶が残っているよ。まあ、今日は、自宅に帰ったら心の準備くらいする事だな。じゃあ、明日、卒業式で。」
高坂と別れると、私は自宅に帰った。玄関で所作の準備をしようとすると、傍に飼っている1羽のカナリヤに餌をやり水を入れ替え、少しの間、眺めていた。私には何故か分からないが、鳴いているカナリヤが、私には寂しげに聴こえた。
私は部屋に戻ると、スーツを出し、明日の準備を終えて軽く夕食を取り、缶ビールを1缶飲み干すと、シャワーを浴びて2階の寝室に上がった。
私は結局、この日、息子と話をする事もなく布団に入り、明日の朝を迎えるのを待ち、寝る事にした。
その夜、私は不思議な夢をみた。数十年前に自分が迎えた卒業式の生徒として、そこにいた。いつしか経験した、卒業式をそこで私は思い出した。当時の唄で、武田鉄矢の「贈る言葉」を懐かしく歌った。
私は歌っているうちに涙か溢れてきた。まさに万感の思い。そして別れの思い。
私は忘れかけてた、青春時代の、学生生活の想い出が湧いてきた。卒業証書を受け取り、その頃のアルバムを見ている自分がいた。
あの頃のクラスメイトは、どうしているのだろう。と当時を懐かしく想った。
そして、夢から覚め、息子の卒業式の朝を迎えると、息子が傍にいた。
「父さん、早く朝食を食べて行く準備をしてよ!」と息子が言うと
「分かった。今、急いで支度するから待ってなさい。それとデジカメがあるから、忘れない様にカバンに入れて置きなさい。」
息子は「分かったよ。それと、卒業式で、恥ずかしいから泣かないでよね!」私は
「大丈夫だよ、誰が泣くもんか。」
その日、卒業式は無事に終わり、自宅に戻るとカナリヤが元気にはしゃいでいた。
「お前も、大空を飛び回りたいのだろう。」
私は、鳥籠の扉を開け、カナリヤを放した。
息子も、この大空を羽ばたく、この鳥のように、人生をおおらかに羽ばたいてほしい。
完
息子の高校の卒業式が、明日というのに自分でいうのも何だが、暢気な心持ちだ。高坂にも息子の春輝と同じ学校で同期の娘がいる。高坂は「今夜は眠れそうにないよ。早いものだな、3年間というものは。まあ、無事に終われたら何も言う事はないよ。」
私は、高坂の胸中が羨ましくもあった。それもそうだ、実感のない私には、彼の心境が子どもをもつ親にとっては、それが当たり前だと思ったからだ。高坂とは同じ会社の同僚だ。今日は、会社を上司に話し定時で上がり、二人で会社を後にした。
「高坂、俺たちにも同じ様に卒業式というものが有ったと思うが、その時の記憶ってあるか?俺には全く無いんだよ。」
高坂は「お前、子供の卒業式が明日だというのに、まるで他人事みたいだな。確かに俺自身も、あまり定かではないが、終えた後の学校の帰り道に、もう明日から通う事は無いんだという寂しかった記憶が残っているよ。まあ、今日は、自宅に帰ったら心の準備くらいする事だな。じゃあ、明日、卒業式で。」
高坂と別れると、私は自宅に帰った。玄関で所作の準備をしようとすると、傍に飼っている1羽のカナリヤに餌をやり水を入れ替え、少しの間、眺めていた。私には何故か分からないが、鳴いているカナリヤが、私には寂しげに聴こえた。
私は部屋に戻ると、スーツを出し、明日の準備を終えて軽く夕食を取り、缶ビールを1缶飲み干すと、シャワーを浴びて2階の寝室に上がった。
私は結局、この日、息子と話をする事もなく布団に入り、明日の朝を迎えるのを待ち、寝る事にした。
その夜、私は不思議な夢をみた。数十年前に自分が迎えた卒業式の生徒として、そこにいた。いつしか経験した、卒業式をそこで私は思い出した。当時の唄で、武田鉄矢の「贈る言葉」を懐かしく歌った。
私は歌っているうちに涙か溢れてきた。まさに万感の思い。そして別れの思い。
私は忘れかけてた、青春時代の、学生生活の想い出が湧いてきた。卒業証書を受け取り、その頃のアルバムを見ている自分がいた。
あの頃のクラスメイトは、どうしているのだろう。と当時を懐かしく想った。
そして、夢から覚め、息子の卒業式の朝を迎えると、息子が傍にいた。
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「分かった。今、急いで支度するから待ってなさい。それとデジカメがあるから、忘れない様にカバンに入れて置きなさい。」
息子は「分かったよ。それと、卒業式で、恥ずかしいから泣かないでよね!」私は
「大丈夫だよ、誰が泣くもんか。」
その日、卒業式は無事に終わり、自宅に戻るとカナリヤが元気にはしゃいでいた。
「お前も、大空を飛び回りたいのだろう。」
私は、鳥籠の扉を開け、カナリヤを放した。
息子も、この大空を羽ばたく、この鳥のように、人生をおおらかに羽ばたいてほしい。
完
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