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No.2 詠嘆
File:4 吸血鬼
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啖呵を切ったのは良いが、それで戦力差が覆る訳ではない。ミッシェルは大量の金属の触手を自在に操り、ジョセフ君の体に風穴を開けて行く。だがその穴も、みるみる内に塞がって行き、彼の体は元通りになる。
「まさか人ならる者とは思いませんでしたよ」
「驚いてくれたようで何よりだ!」
彼の体は特別だ。先祖返りと言うべきだろう。吸血鬼の特性を色濃く受け継いだ彼は、昼は普通の人間と変わらないが、日が沈むと体が変化する。身体能力は大幅に向上し、傷は再生し、蝙蝠のような翼が生える事で宙を舞う。ヴィランという事であれば、ここまで映える能力も少ないだろうに。
だが、それだけの事で勝てるなら、ミッシェルはアメリカ最強とは呼ばれない。再生するのと同じ速度で攻撃し続ける事で、ジョセフ君の動きを止めている。だがジョセフ君も、そこら辺に落ちている火器を使い、ミッシェルに襲い掛かる。だが……
「クソッたれ!なんでこんな撃って一発も当たらねぇんだ!?」
「安い手品と豆鉄砲で殺せると思われるなどと……私も嘗められた物ですね」
ジョセフ君の撃った弾丸は空中で静止し、彼女の魔術の支配下に置かれる。金属の触手は段々とその体積を肥大化させ、ジョセフ君に襲い掛かる。
魔術とは基本、自身が認識できる物しか操れない。例えば、遥か遠い星々は、その大きさや自身との距離が分からない為、魔術では操れないとされている。無論、打ち出される弾丸を魔術の支配下に置く事なんて不可能だ。まあ、私は魔術師としては三流なので詳しくは知らないが。
私の魔術を使おうにも、金属の触手が時々彼女の姿を隠すせいで使えない。ジョセフ君もこのままじゃ勝てない。ならどうするかは、決まり切っている。
さーて覚悟を決めろソフィア。私は自身の頬を叩き、ミッシェルの方へ向かって走り出した。彼女とジョセフ君は直ぐに私に気付き、驚きに表情を変える。
「なっ!正気ですか!?」「やめろソフィア!」
彼女は生真面目だ。協会のルールの下、私を制圧する目的で武力行使をする事はあっても、私を殺す程の事はして来ない。それに、戦力にすら数えられない程弱い私が襲い掛かって来るとは思わないだろう。詰まり彼女は一度だけ、私の行動に対して反応が遅れる!
だが、やはりアメリカ最強だ。私は金属の触手で肩を貫かれ、四肢を拘束された状態で宙に吊り下げられた。痛みに顔を引き攣らせる私と対照的に、彼女は冷静だった。
「ぐっ……!」
「貴女の行動は予想外でしたが、問題の無い範疇です。しかしやはり、貴女の行動は目に余る」
「させるかよ!」
ジョセフ君もミッシェルに襲い掛かるが、彼女は金属の壁を作る事で、取るに足らないヴィランの攻撃を防ぐ。
「クソスライムが!」
ジョセフ君は金属の壁に阻まれ、こちら側に来れない。金属の壁はジョセフ君を完全に包み込み、まるで牢のように彼を閉じ込める。彼女は再び私に視線を戻し、平坦な声で呟く。
「貴女はやはり、ここで殺す事にしましょうか」
『殺す』か……まだ死ぬ積もりは無い。それに、私が予想外の行動を取った理由は、何も貴女を殺そうとした訳じゃないんだよミッシェル・ウェスティン。肩の痛みにも慣れて来た私は、ゆっくりと目を開き、彼女を視界に中に捉える。
「五……四……」
「カウントダウン?」
口に出さない方が良いかも知れない。だが口に出す事で、彼女の意識は私に向けられる。過剰な警戒は、油断以上に危険な状態だ。
「三……」
「させるとお思いで?」
「奇遇だな俺も思っちゃいない!」
ミッシェルの後ろに現れたのは、なんと先程金属の檻に閉じ込められた筈のジョセフ君だった。今は視線を逸らせないので確認できないが、先程まで彼が閉じ込められていた場所の壁には、大きく穴が開いている筈だ。
彼は何も、吸血鬼の特性だけで戦っている訳ではない。彼も魔術師の端くれだ。魔術で戦うのは当然だろう。彼が扱うのは、指定した空間を真空状態にする魔術。それは空気を無くすという事ではなく、その場に存在していた全てを消し去るという事だ。無論、金属の壁程度なら簡単に穴が開く。
「邪魔です!」
しかし、ジョセフ君の体は金属の触手に貫かれた。彼の体は宙に持ち上がり、自重で更に傷が広がる。私はそこでカウントダウンを止めた。
「反応……できるのかよ……」
「ふむ……万策尽きたようですね。貴方は殺し、貴女は拘束します」
彼女は一際巨大な金属の槍を出現させ、それをジョセフ君に向ける。もう直ぐ日が昇る。そうなれば、ジョセフ君の再生能力は消え、あの槍一本で死に至るだろう。確かに、万策尽きた。
だが、次の策は必要無い。私は彼女を視界の中心に捉えた状態で、自身の魔術を使う。ミッシェルは膝から崩れ落ち、満足に魔術を行使する事もできない状態で、ただ目だけを動かし始める。
「な……貴女は……!?」
「残念だったね。私達の勝ちだよ」
にしても凄いな。普通なら一瞬で廃人にできるんだけど……さすがはアメリカ最強。精神干渉にも対応して来るとは思わなかった。まあ、それも時間の問題な訳だが。
「魔眼……使いか……!」
「ふふ」
半分正解といった様子かな。私が使う魔術は確かに魔眼だが、効果は『絵画に干渉する』という、それ単体では何の意味も成さない物だ。だが、私の目は先天的に、少し特殊な物らしい。
この世の全てを絵画と見なす千里眼。詰まり私は、魔眼さえ使用できれば、この世の殆どの物を改変、改造できる。無論、人間一人の精神を弄り回す程度、あくびが出るような作業だ。
「謀ったな……!?」
「それ位するでしょ。矮小なヴィランがスーパーヒーローに勝つにはさ」
それから彼女が発狂し、やがて静かになって動かなくなるまでは、そう時間は掛からなかった。私達は彼女を殺し、ジョセフ君の魔術で証拠隠滅をした後、ミッシェルの自宅から、魔女の絵画『詠嘆』を持ち出した。
因みに、私の肩は治癒魔術を使っても上手く治らなかった為、結局私の魔術で元通りにする事になった。
「まさか人ならる者とは思いませんでしたよ」
「驚いてくれたようで何よりだ!」
彼の体は特別だ。先祖返りと言うべきだろう。吸血鬼の特性を色濃く受け継いだ彼は、昼は普通の人間と変わらないが、日が沈むと体が変化する。身体能力は大幅に向上し、傷は再生し、蝙蝠のような翼が生える事で宙を舞う。ヴィランという事であれば、ここまで映える能力も少ないだろうに。
だが、それだけの事で勝てるなら、ミッシェルはアメリカ最強とは呼ばれない。再生するのと同じ速度で攻撃し続ける事で、ジョセフ君の動きを止めている。だがジョセフ君も、そこら辺に落ちている火器を使い、ミッシェルに襲い掛かる。だが……
「クソッたれ!なんでこんな撃って一発も当たらねぇんだ!?」
「安い手品と豆鉄砲で殺せると思われるなどと……私も嘗められた物ですね」
ジョセフ君の撃った弾丸は空中で静止し、彼女の魔術の支配下に置かれる。金属の触手は段々とその体積を肥大化させ、ジョセフ君に襲い掛かる。
魔術とは基本、自身が認識できる物しか操れない。例えば、遥か遠い星々は、その大きさや自身との距離が分からない為、魔術では操れないとされている。無論、打ち出される弾丸を魔術の支配下に置く事なんて不可能だ。まあ、私は魔術師としては三流なので詳しくは知らないが。
私の魔術を使おうにも、金属の触手が時々彼女の姿を隠すせいで使えない。ジョセフ君もこのままじゃ勝てない。ならどうするかは、決まり切っている。
さーて覚悟を決めろソフィア。私は自身の頬を叩き、ミッシェルの方へ向かって走り出した。彼女とジョセフ君は直ぐに私に気付き、驚きに表情を変える。
「なっ!正気ですか!?」「やめろソフィア!」
彼女は生真面目だ。協会のルールの下、私を制圧する目的で武力行使をする事はあっても、私を殺す程の事はして来ない。それに、戦力にすら数えられない程弱い私が襲い掛かって来るとは思わないだろう。詰まり彼女は一度だけ、私の行動に対して反応が遅れる!
だが、やはりアメリカ最強だ。私は金属の触手で肩を貫かれ、四肢を拘束された状態で宙に吊り下げられた。痛みに顔を引き攣らせる私と対照的に、彼女は冷静だった。
「ぐっ……!」
「貴女の行動は予想外でしたが、問題の無い範疇です。しかしやはり、貴女の行動は目に余る」
「させるかよ!」
ジョセフ君もミッシェルに襲い掛かるが、彼女は金属の壁を作る事で、取るに足らないヴィランの攻撃を防ぐ。
「クソスライムが!」
ジョセフ君は金属の壁に阻まれ、こちら側に来れない。金属の壁はジョセフ君を完全に包み込み、まるで牢のように彼を閉じ込める。彼女は再び私に視線を戻し、平坦な声で呟く。
「貴女はやはり、ここで殺す事にしましょうか」
『殺す』か……まだ死ぬ積もりは無い。それに、私が予想外の行動を取った理由は、何も貴女を殺そうとした訳じゃないんだよミッシェル・ウェスティン。肩の痛みにも慣れて来た私は、ゆっくりと目を開き、彼女を視界に中に捉える。
「五……四……」
「カウントダウン?」
口に出さない方が良いかも知れない。だが口に出す事で、彼女の意識は私に向けられる。過剰な警戒は、油断以上に危険な状態だ。
「三……」
「させるとお思いで?」
「奇遇だな俺も思っちゃいない!」
ミッシェルの後ろに現れたのは、なんと先程金属の檻に閉じ込められた筈のジョセフ君だった。今は視線を逸らせないので確認できないが、先程まで彼が閉じ込められていた場所の壁には、大きく穴が開いている筈だ。
彼は何も、吸血鬼の特性だけで戦っている訳ではない。彼も魔術師の端くれだ。魔術で戦うのは当然だろう。彼が扱うのは、指定した空間を真空状態にする魔術。それは空気を無くすという事ではなく、その場に存在していた全てを消し去るという事だ。無論、金属の壁程度なら簡単に穴が開く。
「邪魔です!」
しかし、ジョセフ君の体は金属の触手に貫かれた。彼の体は宙に持ち上がり、自重で更に傷が広がる。私はそこでカウントダウンを止めた。
「反応……できるのかよ……」
「ふむ……万策尽きたようですね。貴方は殺し、貴女は拘束します」
彼女は一際巨大な金属の槍を出現させ、それをジョセフ君に向ける。もう直ぐ日が昇る。そうなれば、ジョセフ君の再生能力は消え、あの槍一本で死に至るだろう。確かに、万策尽きた。
だが、次の策は必要無い。私は彼女を視界の中心に捉えた状態で、自身の魔術を使う。ミッシェルは膝から崩れ落ち、満足に魔術を行使する事もできない状態で、ただ目だけを動かし始める。
「な……貴女は……!?」
「残念だったね。私達の勝ちだよ」
にしても凄いな。普通なら一瞬で廃人にできるんだけど……さすがはアメリカ最強。精神干渉にも対応して来るとは思わなかった。まあ、それも時間の問題な訳だが。
「魔眼……使いか……!」
「ふふ」
半分正解といった様子かな。私が使う魔術は確かに魔眼だが、効果は『絵画に干渉する』という、それ単体では何の意味も成さない物だ。だが、私の目は先天的に、少し特殊な物らしい。
この世の全てを絵画と見なす千里眼。詰まり私は、魔眼さえ使用できれば、この世の殆どの物を改変、改造できる。無論、人間一人の精神を弄り回す程度、あくびが出るような作業だ。
「謀ったな……!?」
「それ位するでしょ。矮小なヴィランがスーパーヒーローに勝つにはさ」
それから彼女が発狂し、やがて静かになって動かなくなるまでは、そう時間は掛からなかった。私達は彼女を殺し、ジョセフ君の魔術で証拠隠滅をした後、ミッシェルの自宅から、魔女の絵画『詠嘆』を持ち出した。
因みに、私の肩は治癒魔術を使っても上手く治らなかった為、結局私の魔術で元通りにする事になった。
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