怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

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No.4 驚愕

File:8 追憶

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「ソフィア。ソフィア起きなさい」
「ん……んぅ……」
 凄く眠い……気がする。少し冷たい空気が顔に触れているせいか、まだ温かい布団から出たくない。布団?ベッド?なんだか違和感が……いや今は良いか。今はもうちょっと……あと五分程度で良いから、まだこのベッドから離れたくない。
「ソフィア……あぁもう仕方無い」
 突然、自分を寒さから守っていた毛布が引き剥がされる。私は触れ合う空気の冷たさの余り、驚いて目を開けた。そして直ぐに体を丸め、違和感に気が付く。あれ?私の体、。これじゃまるで、十歳にも満たない子供のような……
「おはようソフィア。もう九時だぞ」
「……あれ?」
 ここは……私の家か。だけど家具とかそれらの配置とか、私が知っている物とは所々違う部分がある。それに、私に同居人なんて……あれ?居たような、居なかったような……
「そうだ絵画!」
 私は絵画の中に入って、そこに転がっていたバスケットの中に入っていた、何とも言えない、兎に角変な味のサンドウィッチを食べて、それで気を失って……それで確か、何か聞こえたような……
 あれ?じゃあなんで私は家に居るんだ?どうも記憶と現状がどうも一致しない。もう一度頭から思い出してみよう。えっと……確か……
「どうしたんだ急に。変な夢でも見たのかソフィア」
「え?」
「朝はしっかり起きなさい。寝過ぎも良くないぞ」
 あれ?なんでここに師匠が……居なくなった筈じゃあ……いや、きっと夢だろう。私の前から師匠が居なくなる筈も無い。それに、あそこまで現実離れした夢もそう無いし。魔術に絵画の中に入る、それに吸血鬼……ふふっ。まるで一つの物語のようだ。
「ごめんなさい師匠」
「反省するのなら良し。朝食はできているから、早めに食べておくと言い」
 にしても、かなりリアルな夢だったなぁ。いや吸血鬼とか魔術とかじゃなくて。風景も臭いも、あのバスケットの中に入っていたアレの変な味も、思い出せと言われれば直ぐに……あれ?上手く思い出せない。
 まぁ、夢なんてそんな物だろう。どこかでちらっと見聞きしただけの、纏まりも現実味も無い物事の集合体だ。起きればいつか消えるのが当たり前。でもなんか、ちょっと寂しいなぁ。あの夢はあの夢で、結構楽しかったし。内容は思い出せないけど、そういう時の実感は残っている。
「ねぇ師匠。私、どんな大人になるのかな」
「……なんで急にそんな事を聞くんだ?」
「夢で、大人になった私が出て来たんだ」
「……どうだった?」
 どう?具体的に言い表せと言われたら、なんか少し難しい。そうだなぁ……一人でもしっかりしてて、友人との関係も良好で……これを言い表すなら……?うん。そうだね。この言葉が良い。
「かっこよかった!」
「じゃあそうなれる。その為に、俺が居る」
 師匠はそう言って、私の頭を撫でた。骨ばっていて大きい、大人っぽい感じの手。かっこいいって事なら、師匠もそうなるかも。掃除に料理、洗濯、それに私の教育……正に万能。こんな風な大人になりたいなぁ。一人で何でもできる、立派な人になりたい。
 私はクローゼットに仕舞ってある服を取り出して、それに着替える。お洒落はまだイマイチ分からないけど、まだ良いかな。師匠に、お洒落も自分の見せ方も教わってるし。
 朝食を食べながら、私は師匠と何でもない話をする。話した内容は直ぐに忘れてしまうが、この時間が私は結構好きだったりする。て言うか、師匠の事が好きだ。
「どうやったら背、伸びるのかな。同じ位の歳の子、もっと高いのに」
「まだまだこれからだろ。成長期も来てない歳だろう?」
「分かんないよ。私、自分の歳も覚えてないし」
 ちょっと微妙な事言っちゃったかな。師匠も少し気まずそうな顔をしているし。
 でもやっぱり、師匠は師匠だったようで、直ぐに明るい顔をし直して、私を身振り手振りも交えて励まし始めた。
「……お前はまだ成長期前だ。心配すんなって。成長期が来ればきっと諸々デカくなって……」
「なって?」
「……大人の女性に近付く筈だ!」
 な~んか言葉を飲み込んだ感じの間があったなぁ。まぁ良いんだけど。
 思えば、私は師匠の食事シーンを見た事が無い気がする。多分どこかで時間を作って食べているんだろうけど、一緒に食卓を囲むだけじゃなくて、同じ時間に同じものを食べるっていうのもやってみたいなぁ。まぁ、無理にとは言えないけど。
「そうだソフィア。今日はピクニックにでも行かないか?」
「今日寒いよ?」
「少し寒い位の方が良い。食べ終わったら支度をしておきなさい」
 それだけ言い残して、師匠は部屋へ戻って行ってしまった。もう少しお話していたかったんだけどな……ま、良いか。勉強とかじゃなくてピクニックなら、師匠と話す時間も多いだろうし。
 私は残ったトーストを口に放り込み、飲み込むよりも先に自分の部屋へ足を向けた。そして、師匠からいつも身に着けるよう言われていた眼鏡を忘れていた事に気が付いたのは、家を出てから直ぐだった。
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