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No.4 驚愕
File:18 黒猫
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エラニとのデートの翌日。私はジョセフ君のカフェに来ていた。今日は珍しく客が来ていたようで、店内ではイカしたタトゥーのお爺さんが、優雅にコーヒーを嗜んでいた。まぁ、私と入れ違いのような形で店を出たので、話はできなかった訳だが。
「ようソフィア。昨晩はお楽しみだったようで」
「ディナーまで行った後に家まで送って終わりだよ。楽しかった」
「俺が知ってんのにはツッコミ入れねぇのな」
「今更だろう?」
まさか一週間絵画の中に閉じ込められて、そこから一月も経たずにジョセフ君に呼び出されるとは思っていなかった。もう少し休ませてくれても良いと思うんだが。
「にしても、この店にお客とは珍しい。なんだかんだ潰れていないあたり、ギリギリ黒字なのかな?」
「実はちょくちょく来てくれる人も居てな。大体がギャングエリアの住人だが……」
「居ないより百倍マシじゃないか」
「ま、オキャクサマに文句は言えねぇよなぁ」
ジョセフ君の店にも常連ができたという事だろうか。『ロシアンルーレットで負け無し』と豪語する彼の運は知っていたが、まさかこんな所でも発揮されているとは思っていなかった。まぁ、今まで一度も捕まってない時点で、遺憾なく発揮されている訳だが。
それより少し気になる事がある。何と言うか、前に会った時からそうだったんだろうが、前にも増して……
「ジョセフ君。少しやつれて見えるが、大丈夫かい?」
「……やっぱ分かっちまうよな~……」
何と言うか、目の下に隈ができている。ジョセフ君は本来夜行性の吸血鬼だから、余程疲労が溜まらない限りは宙や問わずに活動できる。ただ、今はその『余程疲労が溜まっている』状態らしい。
「余り無理をし過ぎるのも駄目だよ?君が丈夫なのは知っているが、それでも疲労はあるだろう」
「前にボスから『黒猫』を探すように言われてんだが、全く手掛かりが見つからねぇ」
黒猫?それならそこらに……って事じゃないんだよな。とは言え何の事かさっぱりだ。
「……あぁ知らねぇよな。最近話題の魔術師だ。まぁ、歳も性別も、背格好も使う魔術も不明なんだが。勿論所属もな。噂じゃ『魔法使いの手下』なんて言われてる」
魔法使いか。未だに残っているとは思えないが、そこまで情報が無い状態では、変な憶測が飛び交うのも仕方が無いだろう。
「何故そんな謎の魔術師が話題なんだい?」
「謎だからだよ。奴は最近、魔術関連の犯罪者を狩りまくってる。戦闘の現場はそのままにしてな。だが不思議な事に、魔力以外の手掛かりを一切残しちゃいねぇ」
一切とは、確かに不思議だ。現場がそのままという事は、魔術の痕跡を意図的に消した訳でも無さそうだが、残っているのは魔力だけ。普通何かしら残る物だろうが……確かに、魔術師が好きそうな話だ。まぁ、真面な魔術師の話だが。
「とっちめられた奴は大抵協会が発見、回収するんだが、そいつらがうわ言みてぇに呟いてるらしい。『黒猫が殺しに来る』ってよ。黒猫って呼び名は本人が名乗ってるって訳じゃねぇ。そこから取った名前が広まってるだけだ」
「まるで人知れず世直しをするヒーローだね」
「協会上層部は神秘の秘匿と手前の信用の為に、黒猫を捕まえようと躍起になってるって噂だ。俺らの方へ協会の手が伸びねぇのも多分そのお陰。マジでヒーローだよ」
どこの誰かも知らない人に感謝するのは初めてだ。多分意図しての事ではないと思うが、それでも助かっているのだから嬉しい。
「とは言え、協会に指名手配されてんのは変わんねぇ。あんま下手な動きすんなよ?前の件も……」
「アレは不可抗力だ。それより、そんな事の為に呼び出した訳じゃないだろう?」
ジョセフ君が私を呼び出す時は、大抵新しい絵画が見つかった時だ。こんな短いスパンで呼び出されるのも珍しい。協会の人間に顔を……恐らく覚えられて直ぐにコレとは、運が良いのか悪いのか分からない。
だが、今回はそういう話ではないようで、ジョセフ君は何やら真剣な面持ちで、私と向き合った。
「……何やら、余程の事があったようだね」
「あぁ。俺にとっては親友に鉛玉ブチ込む程に覚悟が要る事だ」
「聞こうじゃないか。一体、何があったんだい?」
「あぁ。実は……」
ジョセフ君は一度深呼吸した後、落ち着いてから、その言葉を放った。
「俺と、一日だけで良いからデートしてほしい」
「はい解散~」
「ちょっと待てマジに真面目でマジな話だから」
「マジがゲシュタルト崩壊している男と逢引する趣味は私には無いのでね。お会計頼めるかい?」
「あ、はい」
「おいテメェ!後でぶち殺すから覚悟してろ!」
エラニとの良い思い出を汚さない為にも、私は暫くデートをするつもりは無い。ついでにジョセフ君とデートするというのは……うん。エラニの一件があったせいかデートという言い回しを冗談として受け取れなくなったので無理だ。
私はお会計を済まし、さっさとカフェから離れた。因みにジョセフ君は店から出る直前まで『待って!』とか言っていた。哀れだ。まぁ、待つ道理も無いので待たなかったが。
「見事にフラれましたねぇ」
「マジで殺すぞお前」
「しかし、大丈夫なんですか?本当の事言わなくて」
「……言ったら、アイツは多分俺らの前から姿を消す。そういう奴だ。アイツに友人から離れる選択はさせたくねぇ」
「……その思いをぶつけたら、きっと真面目に聞いてくれたと思いますよ」
俺は「うるせぇ」と悪態をつきながら、服に付いた埃を払った。
アイツを消そうとするファミリーの動き。アレは本当だった。『黒猫』を追う片手間に調べていたが、確実だろう。ソフィアの自宅周辺に居る人間が増えている。それも、包囲するような形で。
俺と一度外出しただけで守れるとは、正直思わねぇ。だがやれる事があるなら、なるべくやっておきたい。
「んだがなぁ……」
どうにもならない。どうにもならない事を考えるだけ無駄だ。もっと別の、確実でなくても良いから、ソフィアを守る方法を探さなければ。アイツをこっちに引き込んだのは俺だ。なら、俺が守ってやるのが道理だ。
テーブルの上のコーヒーがぬるくなっている事に気が付いたのは、そこから直ぐの事だった。
「ようソフィア。昨晩はお楽しみだったようで」
「ディナーまで行った後に家まで送って終わりだよ。楽しかった」
「俺が知ってんのにはツッコミ入れねぇのな」
「今更だろう?」
まさか一週間絵画の中に閉じ込められて、そこから一月も経たずにジョセフ君に呼び出されるとは思っていなかった。もう少し休ませてくれても良いと思うんだが。
「にしても、この店にお客とは珍しい。なんだかんだ潰れていないあたり、ギリギリ黒字なのかな?」
「実はちょくちょく来てくれる人も居てな。大体がギャングエリアの住人だが……」
「居ないより百倍マシじゃないか」
「ま、オキャクサマに文句は言えねぇよなぁ」
ジョセフ君の店にも常連ができたという事だろうか。『ロシアンルーレットで負け無し』と豪語する彼の運は知っていたが、まさかこんな所でも発揮されているとは思っていなかった。まぁ、今まで一度も捕まってない時点で、遺憾なく発揮されている訳だが。
それより少し気になる事がある。何と言うか、前に会った時からそうだったんだろうが、前にも増して……
「ジョセフ君。少しやつれて見えるが、大丈夫かい?」
「……やっぱ分かっちまうよな~……」
何と言うか、目の下に隈ができている。ジョセフ君は本来夜行性の吸血鬼だから、余程疲労が溜まらない限りは宙や問わずに活動できる。ただ、今はその『余程疲労が溜まっている』状態らしい。
「余り無理をし過ぎるのも駄目だよ?君が丈夫なのは知っているが、それでも疲労はあるだろう」
「前にボスから『黒猫』を探すように言われてんだが、全く手掛かりが見つからねぇ」
黒猫?それならそこらに……って事じゃないんだよな。とは言え何の事かさっぱりだ。
「……あぁ知らねぇよな。最近話題の魔術師だ。まぁ、歳も性別も、背格好も使う魔術も不明なんだが。勿論所属もな。噂じゃ『魔法使いの手下』なんて言われてる」
魔法使いか。未だに残っているとは思えないが、そこまで情報が無い状態では、変な憶測が飛び交うのも仕方が無いだろう。
「何故そんな謎の魔術師が話題なんだい?」
「謎だからだよ。奴は最近、魔術関連の犯罪者を狩りまくってる。戦闘の現場はそのままにしてな。だが不思議な事に、魔力以外の手掛かりを一切残しちゃいねぇ」
一切とは、確かに不思議だ。現場がそのままという事は、魔術の痕跡を意図的に消した訳でも無さそうだが、残っているのは魔力だけ。普通何かしら残る物だろうが……確かに、魔術師が好きそうな話だ。まぁ、真面な魔術師の話だが。
「とっちめられた奴は大抵協会が発見、回収するんだが、そいつらがうわ言みてぇに呟いてるらしい。『黒猫が殺しに来る』ってよ。黒猫って呼び名は本人が名乗ってるって訳じゃねぇ。そこから取った名前が広まってるだけだ」
「まるで人知れず世直しをするヒーローだね」
「協会上層部は神秘の秘匿と手前の信用の為に、黒猫を捕まえようと躍起になってるって噂だ。俺らの方へ協会の手が伸びねぇのも多分そのお陰。マジでヒーローだよ」
どこの誰かも知らない人に感謝するのは初めてだ。多分意図しての事ではないと思うが、それでも助かっているのだから嬉しい。
「とは言え、協会に指名手配されてんのは変わんねぇ。あんま下手な動きすんなよ?前の件も……」
「アレは不可抗力だ。それより、そんな事の為に呼び出した訳じゃないだろう?」
ジョセフ君が私を呼び出す時は、大抵新しい絵画が見つかった時だ。こんな短いスパンで呼び出されるのも珍しい。協会の人間に顔を……恐らく覚えられて直ぐにコレとは、運が良いのか悪いのか分からない。
だが、今回はそういう話ではないようで、ジョセフ君は何やら真剣な面持ちで、私と向き合った。
「……何やら、余程の事があったようだね」
「あぁ。俺にとっては親友に鉛玉ブチ込む程に覚悟が要る事だ」
「聞こうじゃないか。一体、何があったんだい?」
「あぁ。実は……」
ジョセフ君は一度深呼吸した後、落ち着いてから、その言葉を放った。
「俺と、一日だけで良いからデートしてほしい」
「はい解散~」
「ちょっと待てマジに真面目でマジな話だから」
「マジがゲシュタルト崩壊している男と逢引する趣味は私には無いのでね。お会計頼めるかい?」
「あ、はい」
「おいテメェ!後でぶち殺すから覚悟してろ!」
エラニとの良い思い出を汚さない為にも、私は暫くデートをするつもりは無い。ついでにジョセフ君とデートするというのは……うん。エラニの一件があったせいかデートという言い回しを冗談として受け取れなくなったので無理だ。
私はお会計を済まし、さっさとカフェから離れた。因みにジョセフ君は店から出る直前まで『待って!』とか言っていた。哀れだ。まぁ、待つ道理も無いので待たなかったが。
「見事にフラれましたねぇ」
「マジで殺すぞお前」
「しかし、大丈夫なんですか?本当の事言わなくて」
「……言ったら、アイツは多分俺らの前から姿を消す。そういう奴だ。アイツに友人から離れる選択はさせたくねぇ」
「……その思いをぶつけたら、きっと真面目に聞いてくれたと思いますよ」
俺は「うるせぇ」と悪態をつきながら、服に付いた埃を払った。
アイツを消そうとするファミリーの動き。アレは本当だった。『黒猫』を追う片手間に調べていたが、確実だろう。ソフィアの自宅周辺に居る人間が増えている。それも、包囲するような形で。
俺と一度外出しただけで守れるとは、正直思わねぇ。だがやれる事があるなら、なるべくやっておきたい。
「んだがなぁ……」
どうにもならない。どうにもならない事を考えるだけ無駄だ。もっと別の、確実でなくても良いから、ソフィアを守る方法を探さなければ。アイツをこっちに引き込んだのは俺だ。なら、俺が守ってやるのが道理だ。
テーブルの上のコーヒーがぬるくなっている事に気が付いたのは、そこから直ぐの事だった。
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