怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

文字の大きさ
45 / 153
No.4 驚愕

File:18 黒猫

しおりを挟む
 エラニとのデートの翌日。私はジョセフ君のカフェに来ていた。今日は珍しく客が来ていたようで、店内ではイカしたタトゥーのお爺さんが、優雅にコーヒーを嗜んでいた。まぁ、私と入れ違いのような形で店を出たので、話はできなかった訳だが。
「ようソフィア。昨晩はお楽しみだったようで」
「ディナーまで行った後に家まで送って終わりだよ。楽しかった」
「俺が知ってんのにはツッコミ入れねぇのな」
「今更だろう?」
 まさか一週間絵画の中に閉じ込められて、そこから一月も経たずにジョセフ君に呼び出されるとは思っていなかった。もう少し休ませてくれても良いと思うんだが。
「にしても、この店にお客とは珍しい。なんだかんだ潰れていないあたり、ギリギリ黒字なのかな?」
「実はちょくちょく来てくれる人も居てな。大体がギャングエリアの住人だが……」
「居ないより百倍マシじゃないか」
「ま、オキャクサマに文句は言えねぇよなぁ」
 ジョセフ君の店にも常連ができたという事だろうか。『ロシアンルーレットで負け無し』と豪語する彼の運は知っていたが、まさかこんな所でも発揮されているとは思っていなかった。まぁ、今まで一度も捕まってない時点で、遺憾なく発揮されている訳だが。
 それより少し気になる事がある。何と言うか、前に会った時からそうだったんだろうが、前にも増して……
「ジョセフ君。少しやつれて見えるが、大丈夫かい?」
「……やっぱ分かっちまうよな~……」
 何と言うか、目の下に隈ができている。ジョセフ君は本来夜行性の吸血鬼だから、余程疲労が溜まらない限りは宙や問わずに活動できる。ただ、今はその『余程疲労が溜まっている』状態らしい。
「余り無理をし過ぎるのも駄目だよ?君が丈夫なのは知っているが、それでも疲労はあるだろう」
「前にボスから『黒猫』を探すように言われてんだが、全く手掛かりが見つからねぇ」
 黒猫?それならそこらに……って事じゃないんだよな。とは言え何の事かさっぱりだ。
「……あぁ知らねぇよな。最近話題の魔術師だ。まぁ、歳も性別も、背格好も使う魔術も不明なんだが。勿論所属もな。噂じゃ『魔法使いの手下』なんて言われてる」
 魔法使いか。未だに残っているとは思えないが、そこまで情報が無い状態では、変な憶測が飛び交うのも仕方が無いだろう。
「何故そんな謎の魔術師が話題なんだい?」
「謎だからだよ。奴は最近、魔術関連の犯罪者を狩りまくってる。戦闘の現場はそのままにしてな。だが不思議な事に、魔力以外の手掛かりを一切残しちゃいねぇ」
 一切とは、確かに不思議だ。現場がそのままという事は、魔術の痕跡を意図的に消した訳でも無さそうだが、残っているのは魔力だけ。普通何かしら残る物だろうが……確かに、魔術師が好きそうな話だ。まぁ、真面な魔術師の話だが。
「とっちめられた奴は大抵協会が発見、回収するんだが、そいつらがうわ言みてぇに呟いてるらしい。『黒猫が殺しに来る』ってよ。黒猫って呼び名は本人が名乗ってるって訳じゃねぇ。そこから取った名前が広まってるだけだ」
「まるで人知れず世直しをするヒーローだね」
「協会上層部は神秘の秘匿と手前の信用の為に、黒猫を捕まえようと躍起になってるって噂だ。俺らの方へ協会の手が伸びねぇのも多分そのお陰。マジでヒーローだよ」
 どこの誰かも知らない人に感謝するのは初めてだ。多分意図しての事ではないと思うが、それでも助かっているのだから嬉しい。
「とは言え、協会に指名手配されてんのは変わんねぇ。あんま下手な動きすんなよ?前の件も……」
「アレは不可抗力だ。それより、そんな事の為に呼び出した訳じゃないだろう?」
 ジョセフ君が私を呼び出す時は、大抵新しい絵画が見つかった時だ。こんな短いスパンで呼び出されるのも珍しい。協会の人間に顔を……恐らく覚えられて直ぐにコレとは、運が良いのか悪いのか分からない。
 だが、今回はそういう話ではないようで、ジョセフ君は何やら真剣な面持ちで、私と向き合った。
「……何やら、余程の事があったようだね」
「あぁ。俺にとっては親友に鉛玉ブチ込む程に覚悟が要る事だ」
「聞こうじゃないか。一体、何があったんだい?」
「あぁ。実は……」
 ジョセフ君は一度深呼吸した後、落ち着いてから、その言葉を放った。

「俺と、一日だけで良いからデートしてほしい」

「はい解散~」
「ちょっと待てマジに真面目でマジな話だから」
「マジがゲシュタルト崩壊している男と逢引する趣味は私には無いのでね。お会計頼めるかい?」
「あ、はい」
「おいテメェ!後でぶち殺すから覚悟してろ!」
 エラニとの良い思い出を汚さない為にも、私は暫くデートをするつもりは無い。ついでにジョセフ君とデートするというのは……うん。エラニの一件があったせいかデートという言い回しを冗談として受け取れなくなったので無理だ。
 私はお会計を済まし、さっさとカフェから離れた。因みにジョセフ君は店から出る直前まで『待って!』とか言っていた。哀れだ。まぁ、待つ道理も無いので待たなかったが。


「見事にフラれましたねぇ」
「マジで殺すぞお前」
「しかし、大丈夫なんですか?本当の事言わなくて」
「……言ったら、アイツは多分俺らの前から姿を消す。そういう奴だ。アイツに友人から離れる選択はさせたくねぇ」
「……その思いをぶつけたら、きっと真面目に聞いてくれたと思いますよ」
 俺は「うるせぇ」と悪態をつきながら、服に付いた埃を払った。
 アイツを消そうとするファミリーの動き。アレは本当だった。『黒猫』を追う片手間に調べていたが、確実だろう。ソフィアの自宅周辺に居る人間が増えている。それも、包囲するような形で。
 俺と一度外出しただけで守れるとは、正直思わねぇ。だがやれる事があるなら、なるべくやっておきたい。
「んだがなぁ……」
 どうにもならない。どうにもならない事を考えるだけ無駄だ。もっと別の、確実でなくても良いから、ソフィアを守る方法を探さなければ。アイツをこっちに引き込んだのは俺だ。なら、俺が守ってやるのが道理だ。

 テーブルの上のコーヒーがぬるくなっている事に気が付いたのは、そこから直ぐの事だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...