怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

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No.5 英雄

File:2 断罪?

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 目を覚ますと、病院に居た。私は上体を起こそうとして、自分の体に無数のチューブが繋がれている事に気が付いた。点滴や、心拍を測る機械だろうか。ズレると面倒だし、このまま横になっておくか。
 段々状況が呑み込めて来た。私は何者かによって、爆弾を至近距離で食らった。私にトドメを刺さなかった事は理解し難いが、まぁそこは恐らく、人が多かったせいで余裕が無かったとかだろう。
 しかしあの距離で爆弾を食らって、五体満足で生還だなんて信じられない。運が良かった。そうとしか思えない。嬉しい限りだ。だが、何故こんな事に……
「……ソフィア?」
 そう、声が聞こえた。私はその方向に目を向け、そこにあった姿に驚いた。
「……エラニ」
「良かったぁ……起きたんだね」
 そう言いながら、エラニは私のベッドの直ぐ横に座った。エラニは安心した表情で、私の頬を撫でた。
「どうしてここに?」
「友達が怪我したって聞いて、駆け付けない友達がどこに居るのさ」
「……そうか。そうだよな……」
 やはり、友人とは良い物だ。私はエラニの顔を視界の端に収めながら、ベッドの上で大きく息を吐いた。
「お医者さんの話じゃ、生きてただけじゃなくて、五体満足だったのはほぼ奇跡らしいよ。退院も、そう遠い話じゃないって」
「そうだろうな。私も信じられない」
「ソフィアの美術館も大部分は無事。そりゃ、ガラスが割れたり怪我人が出たりはあったけど……」
「その程度で済んでいるなら良い。本当に良かった」
 被害がその程度で済んでよかった。まだ取り返しがつく。失う物は、金と時間と労力だけだ。
 しかし、まさか私の美術館が狙われるとは。そりゃ展示品は価値ある物だが、テロである以上はそういう事ではないのだろう。まぁ、理解不能と言えばその程度な訳だが
「にしてもテロなんて、酷いよねぇ。本当、無事で良かったよ」
「テロ?」
「うん。ニュースだとテロって言われてた。最近似たような事が何回か起こったったとも」
「そうか。まぁ、そうとしか考えられないな」
 テロを間近で目撃したのは今回が最初だ。テロがどういう物なのか、完全に理解している訳ではない私は、そのように答える他に道は無かった。


 エラニは暫く私を看病した後、「またね」と言って、私の病室を出て行った。静かになるかと思われた病室は、エラニと入れ替わる形で室内に入って来た足音でまた騒がしくなった。
「よぉソフィア。無事で何よりだ」
「……なんだジョセフ君か」
「なんだとは何だよ。折角、良い話を持って来てやったのに」
 へぇ。彼がそこまで豪語するのはそう珍しくはない。だが、彼がこう言う時は、決まって本当に良い話を持って来る。まぁ、別の側面を見れば、最悪な話な事は多々ある訳だが。
「……聞こうじゃないか」
「じゃ、先ずは一つ目。お前が食らった爆弾。ありゃテロじゃねぇ。お前を、個人で狙った」
「何故分かる?」
「根拠は三つ。一つは規模だ。本当にテロなら、もっと人が多い所を狙う。大きく怪我をしたのがお前だけなのは明らかにおかしい。二つ。あの現場に残されていた爆弾の残骸。あの中に魔力が含まれていた。魔術師がこうもド派手に動くとは考え辛ぇが、魔術師が表の人間を狙う時は、個人、または特定のグループを狙う。同じような事件が複数回起こったのはカモフラージュ。だがその中でお前だけが、明らかな攻撃を受けている。そして決定的な最後」
「決定的?」
「あぁ。以前、黒猫という魔術師の話をしたな?」
「そうだね」
 よく覚えている。絵画を集めている以上、私は『魔法』という単語に敏感だ。あんな話を聞いて、忘れられる訳が無い。
「お前の美術館に、とある痕跡を見つけた。それは間違い無く、過去に黒猫が戦ったとされる現場に残っていた物に一致していた。アイツは、個人以外を狙わない」
「成程。私を狙ったのは黒猫だと。だが、それだけでは根拠が……」
「あぁ薄い。だが、誰かを装う必要があるって事ぁ、逆に個人を狙っていると考えるのが自然だろう?」
 詰まり、何者かが私を殺そうとしたのは確実。もし私を殺せずとも、疑いを自身から逸らす為に黒猫の痕跡を残した。私を殺せなかったのだから、正しかったと言えば正しかった訳だ。
「……分かるのは、魔術師が私を狙ったという事だけか」
「それが分かっただけでも大分絞れる筈だぜ」
「だが、分からない所がある。何故私を狙うのかだ。黒猫にせよそうでない魔術師にせよ、私個人を殺す目的があるなら、その理由もある筈だ」
「……分からん。だが、最悪の事態を想定する時が来たようだ」
 私達二人における『最悪』。それは何より単純で分かり易く、それでいて今まであまり深く考えて来なかった事だ。理由は簡単。その必要が無かったからだ。そうなる確率は極めて低く、そうならない為に対策もして来た。だが考えていなかったからこそ、その言葉は、重く、重く胸に沈む。

「バレちまったのかも知れねぇ。俺達が件の『絵画泥棒』だって事が」

 ここでようやく、楽しいコマーシャルが終わった気がした。
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