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No.5 英雄
File:7 人ならざる
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突然、兄上が我の巨人に転移して来た。腹に穴が開いている。だがそれ以外に傷は見えない。どうやら、いっぱい食わされたといった様子なようだ。
「兄上。ご無事ですか?」
「あぁ。敵は近接主体。魔力をほぼ完全に隠す技術と地形を操る魔術は厄介だが、恐らくこの巨人は破れない。しかし私はおよそ一分、下手には動けない。その間は……」
「お任せを。我のMarch of Giantは無敵です」
「任せたぞ」
あの吸血鬼は動けない。こっちは心配無いだろうが、もう一人の方は兄上を退けている。油断はできない。こちらの情報は恐らく向こうもある程度把握している事だろう。兄上がやられている以上、無策で挑んでくる相手でない事は確か。
先ずは吸血鬼の動きを止める方法を見つけなければ。潰れても再生している辺り、地面に磔にしても無駄だろう。拘束されている部分を千切って、その部分を再生させれば済む話。どこかに閉じ込めた場合も、この巨人の足元を消し飛ばした魔術で脱出されて終いだろう。
しかしこちらをどうこうしない限り、もう一方への対処も制限される。兎に角、この吸血鬼をどうにかしなければ……
しかしその瞬間、巨人に何かが衝突した。衝撃は何度も連続して襲い掛かった。衝突した物体のサイズと威力を鑑みるに……
「ライフル……魔術師と言うよりも、兵士だな」
着弾地点は両腕。かなり抉れたが、この程度であれば直ぐに再生が可能。だが何故、地形操作ではない?規模で言えば我の巨人とそう変わらない。あれなら吸血鬼の男を助ける程度容易い筈だが……
いやしかし、あんな大規模な魔術をそう何度も行使できないという事だろう。兄上が言っていた『魔力をほぼ完全に隠す技術』というのも、恐らくは魔力の総量が少ないからこその物だ。近接を主体としたのも、今までの襲撃で大規模な魔術を行使しなかったのも、その魔力の総量をカバーする為か?
しかし、ただ両腕を貫こうとした訳ではないようだ。弾丸は変形し、両腕を繋ぐ鎖となった。成程これなら大規模な地形操作に比べれば魔力の消耗も少ないだろう。
吸血鬼を助ける為の時間稼ぎが目的か。この程度は直ぐに引き千切れるが……うむ。吸血鬼の男は逃がしてしまった。
「兄上。そろそろ動けますか?」
「あぁ。おおよそ振り出しに戻った。仕切り直しだ」
その瞬間、一つ赤い何かが視界によぎった。それが何かは分からないが、一つ、確実に言える事があった。吸血鬼の男が、何かをしている。
防がなければ。そう思い、防御の体勢を取ったのは正解だった。赤い物はまるでモーニングスターのような棘の塊となり、我の左腕を貫いた。
「ぐっ……っ!」
「成程何も考えていない訳ではないか」
吸血鬼の男は姿を見せない。正面からでは勝てないと悟っての行動か。だがそういう事であれば、こちらも対応できる。
「兄上。ここら一帯を更地にしてください。隠れる場所を消し飛ばす」
「先程妨害された。上手く行くとは思えんが……試すか」
兄上は巨人の頭上に魔法陣を展開する。しかしそれは直ぐに破壊された。
「やはり無理か」
「どうしたのです?」
「恐らく、大規模な魔術は対策されているという事だろう。この巨人が消えていないのは、その対策を使う前だったからだろう」
兄上の切り札は使えず、我もこれ以上の魔術はそう使えない。向こうも大規模な地形操作はできないだろうが、もともと向こうは大規模な魔術をそう使わない戦術を多用する。この巨人のアドバンテージが消えれば、もう向こうの土俵だ。
しかし、巨人さえ崩されなければ済む話。一手で巨人を崩す事ができれば話は別だが、地形操作が無く、吸血鬼の魔術や向こうが備えている火器ではそこまで届かない。
「兄上。吸血鬼を探知していただけますか?」
「やってるが……見つからん。いや見つかってはいるが、場所が定まらない」
「どういう……」
「移動しているのではなく、まるで連続して転移魔術を使っているかのような……」
次の瞬間、背後に魔力を感じた。我は反射的に防御魔術を展開し、敵の刃を弾く。
「な……!?」
「あ~惜し。仕留めたと思ったんだがなぁ」
背後に立っていたのは吸血鬼の男だった。だが驚くべきは、奴は右腕から頭に掛けて以外が、そっくりそのまま消えていたからだ。
何が起こった?コイツはどういう状況だ?いやしかし、それよりも先にすべきは反撃。近接は得意ではないが、それでもやれる事はある。我は基礎的な攻撃魔術を展開し、奴の頭を吹き飛ばす……筈だった。
吸血鬼の男は、首から上を無数の蝙蝠に変化させ、我の攻撃をすり抜けた。
「掌にシチュー貰った気分だぜ。人の規格で考えられてたなんてな」
「貴様は……一体……」
「吸血鬼。知ってるだろ?」
奴はそれだけ言い残して、残っていた体を全て蝙蝠へ変え、どこかへ飛び去って行った。そこで初めて、我は巨人の周囲の光景、その異様さに気が付いた。
「無数の……蝙蝠……」
巨人を取り囲むように、無数の蝙蝠が旋回し続けている。まさかこれ一体一体が……
「兄上。奴の居場所が特定できなかったのは、このせいですか?」
「成程。全く同じ魔力が複数あるこの状態を、この探知魔術では表現できなかった訳か」
詰まり我々は、探知魔術の通用しない相手二人と戦う事となる。それは即ち、どう足掻こうが受け身に回らざるを得ない戦闘。我々にとって、全くと言って良い程経験の無い事となる。
人ならざる者との戦闘。今まで繰り返して来た行為。その相手が知恵を得た時、その行為がどれだけ困難な物かを、我々は思い知った。
「兄上。ご無事ですか?」
「あぁ。敵は近接主体。魔力をほぼ完全に隠す技術と地形を操る魔術は厄介だが、恐らくこの巨人は破れない。しかし私はおよそ一分、下手には動けない。その間は……」
「お任せを。我のMarch of Giantは無敵です」
「任せたぞ」
あの吸血鬼は動けない。こっちは心配無いだろうが、もう一人の方は兄上を退けている。油断はできない。こちらの情報は恐らく向こうもある程度把握している事だろう。兄上がやられている以上、無策で挑んでくる相手でない事は確か。
先ずは吸血鬼の動きを止める方法を見つけなければ。潰れても再生している辺り、地面に磔にしても無駄だろう。拘束されている部分を千切って、その部分を再生させれば済む話。どこかに閉じ込めた場合も、この巨人の足元を消し飛ばした魔術で脱出されて終いだろう。
しかしこちらをどうこうしない限り、もう一方への対処も制限される。兎に角、この吸血鬼をどうにかしなければ……
しかしその瞬間、巨人に何かが衝突した。衝撃は何度も連続して襲い掛かった。衝突した物体のサイズと威力を鑑みるに……
「ライフル……魔術師と言うよりも、兵士だな」
着弾地点は両腕。かなり抉れたが、この程度であれば直ぐに再生が可能。だが何故、地形操作ではない?規模で言えば我の巨人とそう変わらない。あれなら吸血鬼の男を助ける程度容易い筈だが……
いやしかし、あんな大規模な魔術をそう何度も行使できないという事だろう。兄上が言っていた『魔力をほぼ完全に隠す技術』というのも、恐らくは魔力の総量が少ないからこその物だ。近接を主体としたのも、今までの襲撃で大規模な魔術を行使しなかったのも、その魔力の総量をカバーする為か?
しかし、ただ両腕を貫こうとした訳ではないようだ。弾丸は変形し、両腕を繋ぐ鎖となった。成程これなら大規模な地形操作に比べれば魔力の消耗も少ないだろう。
吸血鬼を助ける為の時間稼ぎが目的か。この程度は直ぐに引き千切れるが……うむ。吸血鬼の男は逃がしてしまった。
「兄上。そろそろ動けますか?」
「あぁ。おおよそ振り出しに戻った。仕切り直しだ」
その瞬間、一つ赤い何かが視界によぎった。それが何かは分からないが、一つ、確実に言える事があった。吸血鬼の男が、何かをしている。
防がなければ。そう思い、防御の体勢を取ったのは正解だった。赤い物はまるでモーニングスターのような棘の塊となり、我の左腕を貫いた。
「ぐっ……っ!」
「成程何も考えていない訳ではないか」
吸血鬼の男は姿を見せない。正面からでは勝てないと悟っての行動か。だがそういう事であれば、こちらも対応できる。
「兄上。ここら一帯を更地にしてください。隠れる場所を消し飛ばす」
「先程妨害された。上手く行くとは思えんが……試すか」
兄上は巨人の頭上に魔法陣を展開する。しかしそれは直ぐに破壊された。
「やはり無理か」
「どうしたのです?」
「恐らく、大規模な魔術は対策されているという事だろう。この巨人が消えていないのは、その対策を使う前だったからだろう」
兄上の切り札は使えず、我もこれ以上の魔術はそう使えない。向こうも大規模な地形操作はできないだろうが、もともと向こうは大規模な魔術をそう使わない戦術を多用する。この巨人のアドバンテージが消えれば、もう向こうの土俵だ。
しかし、巨人さえ崩されなければ済む話。一手で巨人を崩す事ができれば話は別だが、地形操作が無く、吸血鬼の魔術や向こうが備えている火器ではそこまで届かない。
「兄上。吸血鬼を探知していただけますか?」
「やってるが……見つからん。いや見つかってはいるが、場所が定まらない」
「どういう……」
「移動しているのではなく、まるで連続して転移魔術を使っているかのような……」
次の瞬間、背後に魔力を感じた。我は反射的に防御魔術を展開し、敵の刃を弾く。
「な……!?」
「あ~惜し。仕留めたと思ったんだがなぁ」
背後に立っていたのは吸血鬼の男だった。だが驚くべきは、奴は右腕から頭に掛けて以外が、そっくりそのまま消えていたからだ。
何が起こった?コイツはどういう状況だ?いやしかし、それよりも先にすべきは反撃。近接は得意ではないが、それでもやれる事はある。我は基礎的な攻撃魔術を展開し、奴の頭を吹き飛ばす……筈だった。
吸血鬼の男は、首から上を無数の蝙蝠に変化させ、我の攻撃をすり抜けた。
「掌にシチュー貰った気分だぜ。人の規格で考えられてたなんてな」
「貴様は……一体……」
「吸血鬼。知ってるだろ?」
奴はそれだけ言い残して、残っていた体を全て蝙蝠へ変え、どこかへ飛び去って行った。そこで初めて、我は巨人の周囲の光景、その異様さに気が付いた。
「無数の……蝙蝠……」
巨人を取り囲むように、無数の蝙蝠が旋回し続けている。まさかこれ一体一体が……
「兄上。奴の居場所が特定できなかったのは、このせいですか?」
「成程。全く同じ魔力が複数あるこの状態を、この探知魔術では表現できなかった訳か」
詰まり我々は、探知魔術の通用しない相手二人と戦う事となる。それは即ち、どう足掻こうが受け身に回らざるを得ない戦闘。我々にとって、全くと言って良い程経験の無い事となる。
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