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No.7 天籟
File:3 襲撃者
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取り敢えず公演のベンチにソフィアを寝かせた俺は、周囲に誰も居ない事を確認してから、体の服で見えない部分を蝙蝠に変え、三匹空へ飛ばした。
ソフィアは呻き声を上げる事こそ無くなったものの、顔色は変わらず悪く、体に力が入らない様子だった。ソフィア自身、自分の体質については詳しく知らねぇ様子だった。目を冷やし続けちゃいるが、実際どの程度痛みが和らいでいるのかも確かじゃねぇ。今はこうやって休ませるしかできねぇ。
「気休めにもなんねぇよなぁこの程度の事……」
俺はそう呟きながら、意識を自分の外に向け、瞼を閉じた。すると、先程飛ばした蝙蝠へ視点が移る。三匹の蝙蝠達は俺達を見下ろすような形で飛んでいる。必然、俺達の周囲の状況も確認できる。しかしやっぱ、自分の頭頂部を自分で見るってのは慣れねぇな。
ファミリーの人間は世界中に配置されている。正確な数は俺も把握しちゃいねぇが、主要な先進国や新興国に百人ずつは居る。当然ロンドンにも居るだろう。ファミリーに俺達の行先がバレないように行動しちゃいたが、それは可能な範囲での話。今日の内に顔を見られてたりなんかすれば一発でアウトだ。警戒をしておくに越した事は無ぇ。
周囲を見渡していると、ソフィアが目の上に乗せられた手ぬぐいを退かし、上体を起こしたのが見えた。じゃあ俺もそろそろ視点を元に戻しますかね……っと。瞼を開くと、視点が俺本体の物に切り替わる。
「うぅ……ここは……」
「起きたか。取り敢えず公園まで運んだ。もう大丈夫か?」
ソフィアは俺の質問に答えず、首や肩を回し、指を細かく動かした。そして勢い良く立ち上がると、一度ストレッチのような動きをしてから、何故かもう一度ベンチに座った。
「うん!もう大丈夫!心配を掛けたね!」
「なら良し。じゃあ宿探すぞ。安かろうが何だろうが、一先ず体を洗えりゃ……」
と言い掛けた次の瞬間、上空を飛んでいた蝙蝠の内の一匹が攻撃を受け、地面に落下した。俺はその蝙蝠を拾って口に放り込んで、蝙蝠にしていた分の体を再生させた。弾丸か何かでど真ん中ブチ抜かれて一発だ。
敵が居る。それも夜目が効くな。銃声がしなかった所を見るに、そういう魔術を使ってるか、そもそも弾丸のように小さな物を発射する魔術かだな。俺も夜目は効くが、この林の中に隠れながら撃たれるのは面倒だな。
「どうしたんだい?随分猟奇的な絵面だよ?」
「敵だ。起き抜けに悪いが戦うぞ」
「はいはい。分かったよ~」
果たしてこの状況でどこまで戦えるか。俺達の武器は初見殺し力の高さ。吸血鬼の特性にソフィアの魔眼に……知ってなきゃ対策できねぇような物ばかりだ。だが敵は、ファミリーの人間か協会の魔術師。俺達の手札は全部把握してるだろう。
こういう場面は初めてじゃねぇが、少なくともこっちが主導権を握れる状況で戦ってた。だが今は、敵の姿も使う武器や魔術も分からねぇ上、こっちは魔術とこの肉体以外の武器が無ぇ状況。逃げた方が賢明か?敵の数と配置が確定した所で逃げれば、少なくともこの場は抜けられる。
いや待て問題はその後だろ。逃げたとして、隠れられる場所も逃げ込む宿も無ぇんだ。やっぱここで全員殺して……ってのも、後処理やら証拠隠滅やらに時間が食われる。下手すりゃお縄だ。
あ~面倒臭ぇなクソ。逃げてもダメここで殺してもダメ。かと言って殺さず叩くだけじゃ、次の襲撃もそう遠くない時期に来るだろう。て言うかそもそも、協会に情報が行ってる時点で詰みじゃねぇか?
「ジョセフ君。敵の姿は?」
「上からは確認できねぇ。魔力は……」
「感じない。分かってる。だが少し、覚えのある気配がある」
「それはどういう……」
不意に、視界の端からソフィアの姿が消えた。体を包んだ風と、地面に残った僅かな土煙のお陰で、ソフィアが一人で夜の闇の中へ進んで行った事が理解できた。
あの馬鹿!まさか一人で行くとは……蛇の鱗が出てる辺り、ソフィアも夜目は効くだろうが、それでも敵の数すら把握できてない状況で突っ込むなんて考えてなかった!今のアイツの行動パターンを理解し切れていなかったか……いやアイツは行く直前、『覚えのある気配』と言っていた。確かに少し離れた場所から、何か魔力とは別の物を感じる。アイツはこれを追って行ったのか?
いや今はそうじゃねぇだろ。アイツのスピードは俺と同程度だ。追跡も全く無理という訳じゃねぇ。俺は全身を蝙蝠の群れに変え、ソフィアが向かった方向に飛ぼうとする。
しかしその一歩手前で、俺の背中が大きく切り裂かれた。俺は傷口を塞ぐと同時に、血液で作り出した斧で背後を薙ぎ払う。俺は一歩後ろへ下がりながら、もう片方の手に短剣を作り出し、逆手に構えた。
手応えはあった。だがどういう事だ?軽過ぎる。少なくとも人間の体のどっかとぶつかったような感触じゃねぇ。一体どういう……
と考えながら、俺の両目は敵の姿をはっきりと捉えた。そしてその瞬間、俺は軽すぎる感触と、魔力を持たない何者かの襲撃に納得した。とは言え、信じ難い光景ではあったので、一言だけ。
「……ホラー映画への出演を受けた覚えは無ぇんだが?」
振り返った俺の目の前に居たのは、嫌に刺々しい骸骨だった。
ソフィアは呻き声を上げる事こそ無くなったものの、顔色は変わらず悪く、体に力が入らない様子だった。ソフィア自身、自分の体質については詳しく知らねぇ様子だった。目を冷やし続けちゃいるが、実際どの程度痛みが和らいでいるのかも確かじゃねぇ。今はこうやって休ませるしかできねぇ。
「気休めにもなんねぇよなぁこの程度の事……」
俺はそう呟きながら、意識を自分の外に向け、瞼を閉じた。すると、先程飛ばした蝙蝠へ視点が移る。三匹の蝙蝠達は俺達を見下ろすような形で飛んでいる。必然、俺達の周囲の状況も確認できる。しかしやっぱ、自分の頭頂部を自分で見るってのは慣れねぇな。
ファミリーの人間は世界中に配置されている。正確な数は俺も把握しちゃいねぇが、主要な先進国や新興国に百人ずつは居る。当然ロンドンにも居るだろう。ファミリーに俺達の行先がバレないように行動しちゃいたが、それは可能な範囲での話。今日の内に顔を見られてたりなんかすれば一発でアウトだ。警戒をしておくに越した事は無ぇ。
周囲を見渡していると、ソフィアが目の上に乗せられた手ぬぐいを退かし、上体を起こしたのが見えた。じゃあ俺もそろそろ視点を元に戻しますかね……っと。瞼を開くと、視点が俺本体の物に切り替わる。
「うぅ……ここは……」
「起きたか。取り敢えず公園まで運んだ。もう大丈夫か?」
ソフィアは俺の質問に答えず、首や肩を回し、指を細かく動かした。そして勢い良く立ち上がると、一度ストレッチのような動きをしてから、何故かもう一度ベンチに座った。
「うん!もう大丈夫!心配を掛けたね!」
「なら良し。じゃあ宿探すぞ。安かろうが何だろうが、一先ず体を洗えりゃ……」
と言い掛けた次の瞬間、上空を飛んでいた蝙蝠の内の一匹が攻撃を受け、地面に落下した。俺はその蝙蝠を拾って口に放り込んで、蝙蝠にしていた分の体を再生させた。弾丸か何かでど真ん中ブチ抜かれて一発だ。
敵が居る。それも夜目が効くな。銃声がしなかった所を見るに、そういう魔術を使ってるか、そもそも弾丸のように小さな物を発射する魔術かだな。俺も夜目は効くが、この林の中に隠れながら撃たれるのは面倒だな。
「どうしたんだい?随分猟奇的な絵面だよ?」
「敵だ。起き抜けに悪いが戦うぞ」
「はいはい。分かったよ~」
果たしてこの状況でどこまで戦えるか。俺達の武器は初見殺し力の高さ。吸血鬼の特性にソフィアの魔眼に……知ってなきゃ対策できねぇような物ばかりだ。だが敵は、ファミリーの人間か協会の魔術師。俺達の手札は全部把握してるだろう。
こういう場面は初めてじゃねぇが、少なくともこっちが主導権を握れる状況で戦ってた。だが今は、敵の姿も使う武器や魔術も分からねぇ上、こっちは魔術とこの肉体以外の武器が無ぇ状況。逃げた方が賢明か?敵の数と配置が確定した所で逃げれば、少なくともこの場は抜けられる。
いや待て問題はその後だろ。逃げたとして、隠れられる場所も逃げ込む宿も無ぇんだ。やっぱここで全員殺して……ってのも、後処理やら証拠隠滅やらに時間が食われる。下手すりゃお縄だ。
あ~面倒臭ぇなクソ。逃げてもダメここで殺してもダメ。かと言って殺さず叩くだけじゃ、次の襲撃もそう遠くない時期に来るだろう。て言うかそもそも、協会に情報が行ってる時点で詰みじゃねぇか?
「ジョセフ君。敵の姿は?」
「上からは確認できねぇ。魔力は……」
「感じない。分かってる。だが少し、覚えのある気配がある」
「それはどういう……」
不意に、視界の端からソフィアの姿が消えた。体を包んだ風と、地面に残った僅かな土煙のお陰で、ソフィアが一人で夜の闇の中へ進んで行った事が理解できた。
あの馬鹿!まさか一人で行くとは……蛇の鱗が出てる辺り、ソフィアも夜目は効くだろうが、それでも敵の数すら把握できてない状況で突っ込むなんて考えてなかった!今のアイツの行動パターンを理解し切れていなかったか……いやアイツは行く直前、『覚えのある気配』と言っていた。確かに少し離れた場所から、何か魔力とは別の物を感じる。アイツはこれを追って行ったのか?
いや今はそうじゃねぇだろ。アイツのスピードは俺と同程度だ。追跡も全く無理という訳じゃねぇ。俺は全身を蝙蝠の群れに変え、ソフィアが向かった方向に飛ぼうとする。
しかしその一歩手前で、俺の背中が大きく切り裂かれた。俺は傷口を塞ぐと同時に、血液で作り出した斧で背後を薙ぎ払う。俺は一歩後ろへ下がりながら、もう片方の手に短剣を作り出し、逆手に構えた。
手応えはあった。だがどういう事だ?軽過ぎる。少なくとも人間の体のどっかとぶつかったような感触じゃねぇ。一体どういう……
と考えながら、俺の両目は敵の姿をはっきりと捉えた。そしてその瞬間、俺は軽すぎる感触と、魔力を持たない何者かの襲撃に納得した。とは言え、信じ難い光景ではあったので、一言だけ。
「……ホラー映画への出演を受けた覚えは無ぇんだが?」
振り返った俺の目の前に居たのは、嫌に刺々しい骸骨だった。
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