怪しい二人 美術商とアウトロー

暇神

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No.7 天籟

File:5 特別行動班

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 状況を整理しよう。俺達はロンドンへ移動し、そして夜の広場で大量の骸骨に襲われた。そして協会の魔術師、リアム・グリーンウッドに助けられた。そこまでは良い。じゃあ何故……
「アンタの家に招待されているんだ?」
「君らの宿になってあげるんだから、感謝してくれて良い」
「へいへいアリガトーゴザイマス」
「まぁ良いじゃないかジョセフ君!宿の問題が解決したんだから!」
「お前はお前でなんでそんな元気なんだよ……」
 あの状況を切り抜けられたのは良い。宿の問題が解決したのも良い。だがこの状況は良くない。相手は協会の魔術師……しかも只者じゃねぇ。ゴールドクラスってのも恐らく嘘だろう。魔術師としての強さを見るなら、プラチナクラスやダイアモンドクラスに相当する。自身を弱く見せる事に得はあっても、自身の立場を低く見せる事に得は無ぇ。
 何を考えてやがる?俺らをこのまま協会に突き出すつもりか?そもそもコイツは俺達の事をどこまで知ってんだ?コイツが俺達に宿として部屋を貸すメリットは何だ?兎に角コイツは信用できねぇ。警戒は解かねぇ。
「……そんな見つめられると照れてしまうよ」
「黙れ」
「そこまで警戒せずとも、私は君達と対等な取引を……」
「じゃあ先ず俺の質問に全て答えろ。嘘を吐けば殺す」
「はいはい」
 俺はソフィアとアイコンタクトを取った。ソフィアなら千里眼で嘘を見抜ける。コイツが嘘を吐いたら、直ぐに喉笛掻き切ってやる。
「ゴールドクラスというのは本当か?」
「本当だ」
「何故俺達に宿を貸す?」
「興味」
「何に対する?」
「う~む……少し説明が長くなる」
 リアムはそう言いながら、一冊の本を机から持ち上げ、俺の顔面目掛けて放り投げて来た。それを受け取った俺は、その本のタイトルに驚愕した。
「『特別行動班行動目標』……」
 信じられねぇ。だが……否定する材料も理由も無ぇ。これは本物なのか?本物だとして、何故コイツがこんな物を持っている?いやそれは簡単な話だ。コイツがこの、『特別行動班』に所属しているとすれば、こういう物を持っていても何もおかしくはない。
 だが、ソフィアは俺の動揺を理解できないらしく、小さく首を傾げている。ソフィアはリアムから俺へ視線を移した。
「ジョセフ君。その『特別行動班』というのは?」
「あらゆる制限を受けず、自由に行動する事ができる、協会の遊撃部隊。そして構成員は全て、協会の中でもトップクラスの実力者達」
 特別行動班はあらゆる班と兼任する事が許されていると同時に、あらゆる班の行動を代行する事もできる。調査、討伐、予言……果てには神秘に関する犯罪者の、に至るまで。
 その特異な性質から、特別行動班は存在を周知されてねぇ。だがその存在は、魔術師の間では有名な都市伝説として語られ、そして恐れられている。目を付けられれば逃げられない。確実に自分を殺しに来る、正に死神。まさか実在したとは……
「その本の最新の部分を見てくれ」
 俺はリアムの支持に従い、本を開き、最も新しいページに目を通す。そしてそこには、『魔女の絵画:天籟』と書かれていた。
「魔女の……絵画」
 僅かに、ソフィアの目の色が変わった。しかしリアムがそれに気付く事は無く、「そう。知っているだろう?」と当然のように答えた。あぁ知ってるよ。嫌って程にな。
「先程の骸骨は、絵画の力によって出現した物だと考えられている。そして現在、その絵画を封印、保管する計画が動いている。そしてその責任者として白羽の矢が立ったのが、私という訳だ」
「それで、何故俺達に宿を貸すという話になる?」
「先の戦闘で分かっただろう?骸骨が同時に存在できる、また出現させられる数の上限は未だ見えない。どんな事をして来るのかも未知数だ。なるべく多くの実力者が要る」
 話が見えた。協会では今、絵画の封印に向けた計画を練っている。だがそれを実行するのに必要なだけの人員を集める事ができていない。実力がある者ならば、協会の魔術師ではない者でも、協力を仰ぎたいという訳か。だが……
「買い被り過ぎだ。俺達の強さはどんなに強く見積もろうがゴールドクラス程度。アンタらには邪魔な筈だ」
「いぃや妥当な評価だ。私は先程の戦いを見ていた。なら……分かるか?」
 俺達が持つ、魔物の特性についても、多少把握しているという訳か。確かにこの力さえあれば、肉壁程度にはなるだろう。
「こっちにメリットが無い」
「そこで契約だ。見た所訳アリだろう?詳しい事は分からないが……この計画に協力してくれるのなら、ロンドンに居る間の身の安全、そして今後、君達の身に危険が迫った時、この計画に参加する全員の協力を約束しよう。どうだ?」
 ……悪い話じゃねぇ。契約の内容をよく吟味する必要はあるが、プラチナクラス以上の魔術師複数名の協力と、ロンドンに居る間の身の安全の確約は、今の俺達にとっちゃ相当嬉しい。恐らくある程度は武器の支給もあるだろう。俺達の特性であれば、死ぬ事もそう無いだろう。
 それに元々、断るつもりも無かった。『魔女の絵画』と聞いて、ソフィアが黙っている訳が無ぇ。協会の上位陣との奪い合いになる位なら、協会の協力の元、堂々と絵画に近付き、隙を見て強奪する方が楽だ。
「……協力関係は結ぶ。だが完全に信用する事は無ぇ」
「十分だ。では、互いに利のある関係となれるよう、努力しよう」
 心にも無い事を……俺はそう考えながらも、リアムと握手をした。
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