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No.8 ふじのやま
File:3 文学少女
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資料室の書架には、無数の名簿やファイル、年表が無機質に整頓された状態で並べられている。入口の直ぐ横には検索用のパソコンが、居心地悪そうに三つ並んでいた。
協会の資料室には、常に数人の神秘学者が資料を見に来ている物だが……異様に人の気配がしねぇ。ハッキリ感じ取れる気配は一人だけ。他にも居るらしいが、そいつらは意図して気配を隠しているせいで性格な人数も分からねぇ。ソウスケにも見張りが付いていた所を見るに、扱いが難しい危険人物なのは間違い無ぇようだ。
「で、その人物ってのはどれだ?」
「まさか気配を消している五人の中に居るとでも?」
「ま、そうだよな」
ソウスケは足音を抑えながら、資料室の奥へ歩いて行く。そしてその先に居たのは、やはりロンドンの協会で見た少女だった。その少女は資料ではなく、ハードカバーの小説を読んでいる。ソウスケがその少女に日本語で話し掛けた後、少女は俺の方を見て、ロンドンでも見せた笑みを浮かべた。
コイツも恐らく相当強い。ソウスケ程の緊張感は無ぇが、それでも伝わって来る物がある。この少女も、ソウスケとそう変わらない実力を持っているのか?日本てのは凄い国だな。ソウスケもコイツも、そう歳を取ってるように見えねぇんだが。
「久し振り……という程でもないかな?」
「そうだな。自己紹介は要るか?」
「いや良い。その代わり、私が自己紹介をしよう。私の名前は岩戸咲良。こんなナリだが、一応神サマだから、敬ってくれ。あと、八神くんの事もね」
「は?誰の事だ?」
「え?あぁ。昔の癖でね。岩戸蒼佑……彼の事だ。私と籍を入れた事で苗字が変わったのさ」
おっとてっきり兄妹かと思ってたんだが。見た目だけじゃ、大学生か高校生辺りの兄と、中学生辺りの妹だ。絵面はほぼ犯罪……って程でもねぇか?いやまぁ神に年齢もクソも無ぇのかも知れねぇけど。
いやそんな事考えてる場合じゃねぇだろ。事態は一刻を争う筈だろ。早く絵画の情報と、俺達に与えておきたい情報を把握しなければ。
「で、ロンドンで言ってた『真実』ってのは何なんだ?」
「『あ‐六』の本棚にある、『二〇二八年版 妖怪・魔物に関する研究 その一』という資料を読んでみると良い。英語表記されているから安心すると良い」
「あぁ分かったよ」
「八神くんは少し話があるから、残っててね」
「はい」
『あ‐六』か。日本の仮名文字には疎いが、その程度だったらまだ分かる。俺はその書架の方へ進み、言われた資料を探す。少しして見つけたその資料を、俺は食い入るようにして読み始めた。
どのページを読めとも言われてねぇって事は、一目見れば、その資料が俺が見るべき物と分かる内容になっているって事だ。見覚えのある画像、聞き覚えのある名前、あるいは別の、覚えがある何か。俺はそれさえ探せば良い。
次のページ、次のページへと、俺は書面を読み飛ばすようにして確認して行く。そしてあるページで、俺は次のページへ伸ばしていた手を止めた。そこには、見覚えどころの話でも、聞き覚えどころの話でもなく、聞き慣れた名前が書いてあったのだ。
『神代への逆行に関する研究 ギルベール・ローズベルト』
ボスの名前だった。これはボスの研究だ。昔ボスが協会でやった失敗に関する事か?そして何より、『神代への逆行』……アメリカを出る前、ボスが言っていた事とも一致する。これを読めという事か。
『この世界は、神々が地上で多く見られた時代と比べ、神秘が脆弱な物となっている。その神秘を元に戻す事で、人類の進化を促すと共に、神秘や世界の起源を解明するのに近付くとし、研究を開始する。
一九七九年 第一実験開始
大気中の魔力濃度を神代と同程度にする試み。大気中の魔力濃度を上げる為、【削除済み】を行う事とする。これは第二次世界大戦末期、大気中の魔力濃度が二パーセント上昇した事から、有効であると推察される。
しかし、一定以上の魔力濃度を持つ空間に晒された一般人は、精神及び身体機能に不調を来すと判明。また、この実験に用いる手段は倫理的でないとし、第一実験を凍結する。
一九八八年 第二実験開始
かつて存在していた魔物や生物を蘇らせる試み。複数の遺物と、生物学に精通する魔術師の協力の元、これを断行する。二年前の実験で、死後一年が経過したマウスを蘇生した事から、実現可能性の存在を認める。
リンドヴルム:体の一部を再構成したものの、蘇生には至らなかった。
ユニコーン :体の一部を再構成したものの、蘇生には至らなかった。
龍 :体の殆どを再構成できず、失敗。
ヒュドラー :体の大部分を再構成したものの、蘇生には至らなかった。
グリフォン :体の大部分を再構成したものの、蘇生には至らなかった。
上記の実験より、現代の魔術ではドラゴンに代表される神秘に関わる生物達を蘇生させる事はできないと推測される為、実験を一時中断する。
一九九九年 第三実験開始
かつて存在していた魔物や生物に近しい特性を近代の生物に付与する試み。複数の遺物と、生物学に精通する魔術師の協力の元、これを断行する。
ワイバーン・ヤモリ :前腕が翼へ類似する器官へ変化したが、飛翔せず。
ヤモリがベースである為か、翼に十分な機能が備わって
いなかった為と推測される。
ペガサス・イエネコ :翼に類似する器官を発現させたが、飛翔せず。
イエネコがベースである為か、翼に十分な機能が備わっ
ていなかった為と推測される。
クラーケン・マウス :体長が二百パーセント増加した。成功とする。
サッシ・ニホンザル :一定周期で周囲に砂嵐を出現させた。成功とする。
ゴルゴーン・【編集済み】:【削除済み】
尚、この実験に使用された、【編集済み】の捜査は継
続中である。
以上の実験より、実現可能性は認められたが、ギルベール・ローズベルトを協会規定第七十八条に違反したとし、協会から永久に追放する。尚、一時中断された第二実験については、凍結とする。』
ここ以外に、ボスの名前は無ぇ。詰まりこれが、俺に見せたかった情報……気になるのはやはり、第三実験の最後だ。一体ゴルゴーンと何を組み合わせようとしたのか……年代から、それは想像に難くなかった。
認めたくねぇ。認めれば、アイツのどこか重要な一部分を否定しかねねぇ。だがそれ以外に考え付かねぇ。『欠陥品』と『完成品』、ボスのソフィアへの言動、そしてアイツ自身の、人間の物ではない特性。俺はそれらを頭の中で合成し、一つの結論をはじき出す。
ボスは、ソフィアにゴルゴーンの特性を付与したのだ。
協会の資料室には、常に数人の神秘学者が資料を見に来ている物だが……異様に人の気配がしねぇ。ハッキリ感じ取れる気配は一人だけ。他にも居るらしいが、そいつらは意図して気配を隠しているせいで性格な人数も分からねぇ。ソウスケにも見張りが付いていた所を見るに、扱いが難しい危険人物なのは間違い無ぇようだ。
「で、その人物ってのはどれだ?」
「まさか気配を消している五人の中に居るとでも?」
「ま、そうだよな」
ソウスケは足音を抑えながら、資料室の奥へ歩いて行く。そしてその先に居たのは、やはりロンドンの協会で見た少女だった。その少女は資料ではなく、ハードカバーの小説を読んでいる。ソウスケがその少女に日本語で話し掛けた後、少女は俺の方を見て、ロンドンでも見せた笑みを浮かべた。
コイツも恐らく相当強い。ソウスケ程の緊張感は無ぇが、それでも伝わって来る物がある。この少女も、ソウスケとそう変わらない実力を持っているのか?日本てのは凄い国だな。ソウスケもコイツも、そう歳を取ってるように見えねぇんだが。
「久し振り……という程でもないかな?」
「そうだな。自己紹介は要るか?」
「いや良い。その代わり、私が自己紹介をしよう。私の名前は岩戸咲良。こんなナリだが、一応神サマだから、敬ってくれ。あと、八神くんの事もね」
「は?誰の事だ?」
「え?あぁ。昔の癖でね。岩戸蒼佑……彼の事だ。私と籍を入れた事で苗字が変わったのさ」
おっとてっきり兄妹かと思ってたんだが。見た目だけじゃ、大学生か高校生辺りの兄と、中学生辺りの妹だ。絵面はほぼ犯罪……って程でもねぇか?いやまぁ神に年齢もクソも無ぇのかも知れねぇけど。
いやそんな事考えてる場合じゃねぇだろ。事態は一刻を争う筈だろ。早く絵画の情報と、俺達に与えておきたい情報を把握しなければ。
「で、ロンドンで言ってた『真実』ってのは何なんだ?」
「『あ‐六』の本棚にある、『二〇二八年版 妖怪・魔物に関する研究 その一』という資料を読んでみると良い。英語表記されているから安心すると良い」
「あぁ分かったよ」
「八神くんは少し話があるから、残っててね」
「はい」
『あ‐六』か。日本の仮名文字には疎いが、その程度だったらまだ分かる。俺はその書架の方へ進み、言われた資料を探す。少しして見つけたその資料を、俺は食い入るようにして読み始めた。
どのページを読めとも言われてねぇって事は、一目見れば、その資料が俺が見るべき物と分かる内容になっているって事だ。見覚えのある画像、聞き覚えのある名前、あるいは別の、覚えがある何か。俺はそれさえ探せば良い。
次のページ、次のページへと、俺は書面を読み飛ばすようにして確認して行く。そしてあるページで、俺は次のページへ伸ばしていた手を止めた。そこには、見覚えどころの話でも、聞き覚えどころの話でもなく、聞き慣れた名前が書いてあったのだ。
『神代への逆行に関する研究 ギルベール・ローズベルト』
ボスの名前だった。これはボスの研究だ。昔ボスが協会でやった失敗に関する事か?そして何より、『神代への逆行』……アメリカを出る前、ボスが言っていた事とも一致する。これを読めという事か。
『この世界は、神々が地上で多く見られた時代と比べ、神秘が脆弱な物となっている。その神秘を元に戻す事で、人類の進化を促すと共に、神秘や世界の起源を解明するのに近付くとし、研究を開始する。
一九七九年 第一実験開始
大気中の魔力濃度を神代と同程度にする試み。大気中の魔力濃度を上げる為、【削除済み】を行う事とする。これは第二次世界大戦末期、大気中の魔力濃度が二パーセント上昇した事から、有効であると推察される。
しかし、一定以上の魔力濃度を持つ空間に晒された一般人は、精神及び身体機能に不調を来すと判明。また、この実験に用いる手段は倫理的でないとし、第一実験を凍結する。
一九八八年 第二実験開始
かつて存在していた魔物や生物を蘇らせる試み。複数の遺物と、生物学に精通する魔術師の協力の元、これを断行する。二年前の実験で、死後一年が経過したマウスを蘇生した事から、実現可能性の存在を認める。
リンドヴルム:体の一部を再構成したものの、蘇生には至らなかった。
ユニコーン :体の一部を再構成したものの、蘇生には至らなかった。
龍 :体の殆どを再構成できず、失敗。
ヒュドラー :体の大部分を再構成したものの、蘇生には至らなかった。
グリフォン :体の大部分を再構成したものの、蘇生には至らなかった。
上記の実験より、現代の魔術ではドラゴンに代表される神秘に関わる生物達を蘇生させる事はできないと推測される為、実験を一時中断する。
一九九九年 第三実験開始
かつて存在していた魔物や生物に近しい特性を近代の生物に付与する試み。複数の遺物と、生物学に精通する魔術師の協力の元、これを断行する。
ワイバーン・ヤモリ :前腕が翼へ類似する器官へ変化したが、飛翔せず。
ヤモリがベースである為か、翼に十分な機能が備わって
いなかった為と推測される。
ペガサス・イエネコ :翼に類似する器官を発現させたが、飛翔せず。
イエネコがベースである為か、翼に十分な機能が備わっ
ていなかった為と推測される。
クラーケン・マウス :体長が二百パーセント増加した。成功とする。
サッシ・ニホンザル :一定周期で周囲に砂嵐を出現させた。成功とする。
ゴルゴーン・【編集済み】:【削除済み】
尚、この実験に使用された、【編集済み】の捜査は継
続中である。
以上の実験より、実現可能性は認められたが、ギルベール・ローズベルトを協会規定第七十八条に違反したとし、協会から永久に追放する。尚、一時中断された第二実験については、凍結とする。』
ここ以外に、ボスの名前は無ぇ。詰まりこれが、俺に見せたかった情報……気になるのはやはり、第三実験の最後だ。一体ゴルゴーンと何を組み合わせようとしたのか……年代から、それは想像に難くなかった。
認めたくねぇ。認めれば、アイツのどこか重要な一部分を否定しかねねぇ。だがそれ以外に考え付かねぇ。『欠陥品』と『完成品』、ボスのソフィアへの言動、そしてアイツ自身の、人間の物ではない特性。俺はそれらを頭の中で合成し、一つの結論をはじき出す。
ボスは、ソフィアにゴルゴーンの特性を付与したのだ。
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