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No.8 ふじのやま
File:10 実験的治療室
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三日後。左足が完全に治った事を確認したついでに、様々な検査を受けた俺は、ようやくソフィアと対面する事になった。俺は病人が着るような楽な服から、いつも着ていた動きやすい服に着替え、ソウスケ達と待ち合わせをする場所に向かった。
待ち合わせ場所には既にソウスケが待っていた。何やら電話をしていたらしかったが、俺に気が付くと通話を止め、こちらを手招きした。
「どうやら朝食は口に合ったようだな」
「地元とは勝手も味も違うが、こっちの飯も案外行けるモンだな。中々美味かったぜ」
「それは何よりだ。では、今からソフィアさんが寝かされている治療室へ向かう。良いな?」
「勿論だ。待ち切れねぇな」
ソウスケ達の話じゃ、ソフィアは今『実験的治療室』という部屋に居るらしい。治療を受ける本人だけでなく、そこに居る職員も安全を保障されねぇ、治療室と言うよりは実験室に近い場所だとか。ソフィアの状態は安定しているが、それでも何が起こるか分からねぇから、ここに移動されたそうだ。
この三日間、一通りの対処法を試した後、協会はソフィアを治療するのではなく、ソフィアの状態を可能な限り正常に保つ事にしたらしい。ソウスケとサクラの『心当たり』がどれだけの物かは知らねぇが、現状はソレだけを頼りにしてるって訳だ。
暫く歩くと、漢字で『実験的治療室』と書かれた看板が掛けられた、比較的大きな扉が見えた。話を聞いた時はどんな仰々しい施設かと思ったが……まぁ、こんな物か。わざわざ分かり易くヤバい場所とか作らねぇわな。
しかしそんな考えは、ソウスケが扉を開いた瞬間に消し飛んだ。どうやらこの部屋は、学生バンドマンが欲しがりそうな防音室になっていたらしい。俺の目の前に広がっていたのは、得体の知れない怪物を弄り回す退魔師達の姿だった。
「やはりここは予算が足りないのでは?」「なんか暑くね?」
「気温がこの一分で二度上昇している。空調を再確認しろ」
「了解しました」「一体これに何人使ったんだか……」
「上手くやりくりするんだよ。どうせ上層部は予算出さねぇ」
その巨大な怪物……いや、おそらくは巨大な何かの肉片だろう。それは表面に無数の人間の顔のような物や、目玉、銃を始めとした兵器や、動物の体の一部に似た器官を作り出していた。およそこの世の物とは思えない、気色の悪いそれを、退魔師達は思い思いの方法で研究しているようだ。
吐き気が腹の底からせり上がって来るような気さえする。これは本当に生物だったのか?動いてねぇ。死んでるようだが、今にも動き出すんじゃねぇかとありもしない想像をしてしまう程恐ろしい。
「こいつは……一体……」
「コイツはかつて連盟が作り出した『不完全な神』だ。神と銘打ってはいるが、実際は無数の人間と幽霊、妖怪、怪異を組み合わせて作り出した化物だがな。今はコレに用は無い。面倒なのが来る前にさっさと行くぞ」
ソウスケはそう言って、更に奥へ進んで行った。最初はあの化物の衝撃で気付かなかったが、どうやらこの部屋……てか施設だな。地下へ進んで行く方向で広がっているらしい。中央が吹き抜けになっている。かなり広いが、部屋の数自体は少なそうだ。
「広いな」
「ソフィアさんの部屋は最下層だ。行くぞ」
「……てか何で吹き抜けになってる所をわざわざ見せたんだ?」
「この造りが単なる飾りだとでも?」
「は?」
ソウスケはそう言いながら俺の首根っこを掴み、吹き抜けになっている部分から飛び降りた。Youtuberか芸能人ならここで大袈裟に見えるようなリアクションをするんだろうが、幸いな事に俺はよく空を飛んでいる。俺は悲鳴一つ挙げる事無く、ソウスケの正気を疑った。
しかしソウスケも慣れているようで、地面が近付くにつれて少しずつ落下速度を落とし、最終的には自由落下した後の着地とは思えない程静かに着地した。
「……正気なんだよな?」
「こっちの方が早い」
「一応俺、今は不死身じゃねぇんだけど?」
「……ごめんなさい」
忘れてたなコイツ。まぁ無事着地できたから良いんだが。とは言え、次やったら一発殴ろう。許されるかどうかは兎も角として、そうしよう。
「次が無ければ良いぜ?俺は優しいんだ」
「……済まない」
「だから良いって。それで?ソフィアが居る病室ってのはあそこか?」
俺の視線の先には一つの病室がある。扉は鉄で作られており、中からは光が漏れている。ソウスケは「そうだ」と言いながら、病室へ向かって歩き始めた。
「なんで最下層なんだ?」
「何が起こるか分からないからな。上層部の老人共は臆病なんだ」
「な~んで強い癖に臆病になるんだか」
「恨みを買っている自覚があるんだろうな。実際、君達に一人殺されてから拍車が掛かってる」
「へいへい悪かったよ」
「罪の自覚はあるんだな」
「……良い性格してやがるぜ全く」
「お褒めに預かり光栄だよ」
ソウスケはタッチパネルを操作し、病室の扉を開いた。病室の中は無機質な光で照らされ、それを反射する様々な器具と、部屋の中央に拘束されながら眠っている唯一の有機的な存在を目立たせている。
「ソフィア……やっぱ眠ってんだな」
「気が付いたら起きていたって事だったら楽だったんだが、仕方が無いな」
「早くしようぜ。何が起こるか分からねぇんだろ?」
「そうだな。説明しよう」
ソウスケが指を鳴らすと、なんと壁が回転してホワイトボードが出現した。何だその便利機能。ソウスケそこに簡易的なイラストを描きながら、説明を始めた。
待ち合わせ場所には既にソウスケが待っていた。何やら電話をしていたらしかったが、俺に気が付くと通話を止め、こちらを手招きした。
「どうやら朝食は口に合ったようだな」
「地元とは勝手も味も違うが、こっちの飯も案外行けるモンだな。中々美味かったぜ」
「それは何よりだ。では、今からソフィアさんが寝かされている治療室へ向かう。良いな?」
「勿論だ。待ち切れねぇな」
ソウスケ達の話じゃ、ソフィアは今『実験的治療室』という部屋に居るらしい。治療を受ける本人だけでなく、そこに居る職員も安全を保障されねぇ、治療室と言うよりは実験室に近い場所だとか。ソフィアの状態は安定しているが、それでも何が起こるか分からねぇから、ここに移動されたそうだ。
この三日間、一通りの対処法を試した後、協会はソフィアを治療するのではなく、ソフィアの状態を可能な限り正常に保つ事にしたらしい。ソウスケとサクラの『心当たり』がどれだけの物かは知らねぇが、現状はソレだけを頼りにしてるって訳だ。
暫く歩くと、漢字で『実験的治療室』と書かれた看板が掛けられた、比較的大きな扉が見えた。話を聞いた時はどんな仰々しい施設かと思ったが……まぁ、こんな物か。わざわざ分かり易くヤバい場所とか作らねぇわな。
しかしそんな考えは、ソウスケが扉を開いた瞬間に消し飛んだ。どうやらこの部屋は、学生バンドマンが欲しがりそうな防音室になっていたらしい。俺の目の前に広がっていたのは、得体の知れない怪物を弄り回す退魔師達の姿だった。
「やはりここは予算が足りないのでは?」「なんか暑くね?」
「気温がこの一分で二度上昇している。空調を再確認しろ」
「了解しました」「一体これに何人使ったんだか……」
「上手くやりくりするんだよ。どうせ上層部は予算出さねぇ」
その巨大な怪物……いや、おそらくは巨大な何かの肉片だろう。それは表面に無数の人間の顔のような物や、目玉、銃を始めとした兵器や、動物の体の一部に似た器官を作り出していた。およそこの世の物とは思えない、気色の悪いそれを、退魔師達は思い思いの方法で研究しているようだ。
吐き気が腹の底からせり上がって来るような気さえする。これは本当に生物だったのか?動いてねぇ。死んでるようだが、今にも動き出すんじゃねぇかとありもしない想像をしてしまう程恐ろしい。
「こいつは……一体……」
「コイツはかつて連盟が作り出した『不完全な神』だ。神と銘打ってはいるが、実際は無数の人間と幽霊、妖怪、怪異を組み合わせて作り出した化物だがな。今はコレに用は無い。面倒なのが来る前にさっさと行くぞ」
ソウスケはそう言って、更に奥へ進んで行った。最初はあの化物の衝撃で気付かなかったが、どうやらこの部屋……てか施設だな。地下へ進んで行く方向で広がっているらしい。中央が吹き抜けになっている。かなり広いが、部屋の数自体は少なそうだ。
「広いな」
「ソフィアさんの部屋は最下層だ。行くぞ」
「……てか何で吹き抜けになってる所をわざわざ見せたんだ?」
「この造りが単なる飾りだとでも?」
「は?」
ソウスケはそう言いながら俺の首根っこを掴み、吹き抜けになっている部分から飛び降りた。Youtuberか芸能人ならここで大袈裟に見えるようなリアクションをするんだろうが、幸いな事に俺はよく空を飛んでいる。俺は悲鳴一つ挙げる事無く、ソウスケの正気を疑った。
しかしソウスケも慣れているようで、地面が近付くにつれて少しずつ落下速度を落とし、最終的には自由落下した後の着地とは思えない程静かに着地した。
「……正気なんだよな?」
「こっちの方が早い」
「一応俺、今は不死身じゃねぇんだけど?」
「……ごめんなさい」
忘れてたなコイツ。まぁ無事着地できたから良いんだが。とは言え、次やったら一発殴ろう。許されるかどうかは兎も角として、そうしよう。
「次が無ければ良いぜ?俺は優しいんだ」
「……済まない」
「だから良いって。それで?ソフィアが居る病室ってのはあそこか?」
俺の視線の先には一つの病室がある。扉は鉄で作られており、中からは光が漏れている。ソウスケは「そうだ」と言いながら、病室へ向かって歩き始めた。
「なんで最下層なんだ?」
「何が起こるか分からないからな。上層部の老人共は臆病なんだ」
「な~んで強い癖に臆病になるんだか」
「恨みを買っている自覚があるんだろうな。実際、君達に一人殺されてから拍車が掛かってる」
「へいへい悪かったよ」
「罪の自覚はあるんだな」
「……良い性格してやがるぜ全く」
「お褒めに預かり光栄だよ」
ソウスケはタッチパネルを操作し、病室の扉を開いた。病室の中は無機質な光で照らされ、それを反射する様々な器具と、部屋の中央に拘束されながら眠っている唯一の有機的な存在を目立たせている。
「ソフィア……やっぱ眠ってんだな」
「気が付いたら起きていたって事だったら楽だったんだが、仕方が無いな」
「早くしようぜ。何が起こるか分からねぇんだろ?」
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ソウスケが指を鳴らすと、なんと壁が回転してホワイトボードが出現した。何だその便利機能。ソウスケそこに簡易的なイラストを描きながら、説明を始めた。
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